「つつ……何が起こったんだ?」

「大丈夫ですか、士郎。」

吹き飛ばされた士郎が目を覚ましたとき、そばにいたのはセイバーだけだった。

 

Chapt.2-1 顔合わせ、提携(前編)

 

凛とルヴィアはと言うと、走ってきた志貴に詰め寄っている。

「あんた、今何したの。」

「や、その……」

「攻撃しておいて説明もできないんですの?」

「や、わざとじゃないし、ちょっと事情が特殊って言うか……」

しどろもどろに弁解する志貴。まさか、アルクェイドは真祖の吸血鬼で、シエルは代行者、などと言うわけにはいかない。

なんとかその辺のことを話さずにお引取り願いたいのだが、噛み付いてくる美女二人はその面ではやたら性質が悪かった。

「あれー!?ジュエルソードじゃない?」

「本当ですね、ロンドンにいるあなたたちが何故ここに?」

それを救ったのは、後から追いかけてきたレイとシオンだった。

「あら、アトラシアとお付きの。あなたたちこそ何故ここに?」

「あなたたちだって穴倉に……いや、あなたたちは色々飛び回ってたわね。」

突然の顔合わせに、凛もルヴィアも、詰問の矛先が変わる。

そうなって、置いていかれるのは志貴である。

詰問から逃れられたのはありがたいのだが、今度は話の展開についていけない。

さらに遅れてきた、アルクェイド、レン、シエルのほうによっていこうにも、何故か、凛たちに睨みつけられている気がして、動けない。

「えっとシオン、知り合い、なの?」

「ああ、そうです。志貴、紹介が遅れました。黒髪のほうが遠坂凛、金髪のほうがルヴィアゼリッタ=エーデルフェルト。共に時計塔の魔術師です。」

ちょいちょい、と手でさしながら、凛とルヴィアを紹介する。

「魔術師って言うと……シオンの同業者ってこと?」

「いえ……いえ、時計塔とアトラスの違いがありますが、そう理解してくれてかまいません。」

少し理解しにくそうな顔をして問い返す志貴に、シオンは簡単に説明を終わらせる。

「そして、凛、ルヴィア、こちらが遠野志貴。ああ、凛は遠野の名に聞き覚えがあるかもしれませんね。」

「……」

シオンの言葉通り、凛の顔は渋い。すかさずルヴィアがつめる。

「なんですの?トオノ、とは。」

「フィンランド人のあんたは知らないかもね。遠野って言ったら日本にある混血の一派の主家。」

「混血の!?」

「そう。そっか、なら士郎を吹き飛ばしたのも納得いくわね。あれがうわさの紅赤朱?」

驚くルヴィアをよそに、どんどん厳しくなっていく凛の眉。

それに押されるように、志貴の姿勢がのけぞって、顔が青ざめていく。

同業者と分かったのだから説明すればよいものを、どうやら凛の剣幕に妹を思い出しているらしく、反論が封殺されている。

「あはは、志貴ー、凛って妹みたいねー。」

なので、それを遮ったのはアルクェイドだった。

「アルクェイド!」

向けられる凛の視線を受け流し、志貴に微笑んでからほえほえとした声で話す。

「さっきシロ、とか言ったっけ?を吹き飛ばしたのは、私。腕を振ったらごーって。シエルがよけるもんだからさー。」

「よけなきゃ死にますよ、もう不死じゃないんですから。」

あははー、と悪びれた様子も見せないアルクェイド。

シエルもやれやれといった風にため息をつく。

「う、腕振ったらって……魔力が人間にしては高すぎるとは思ってたけど……それにアルクェイドって……」

凛の顔が驚きに塗られていく。

そんな様子もよそに、アルクェイドはこともなげに言い切った。

「そうね、正解。私が真祖・アルクェイド=ブリュンスタッド。何か御用かしら、時計塔の魔術師さん?」

凛とルヴィアが沈黙する。

「どうかしましたか?」

士郎を伴って寄ってきたセイバーが声をかけるも、動かない。

何かへんなことを言ったか、とアルクェイドも志貴のほうを見るが、志貴も首をすくめるだけ。

全員の注目が集まったところで、凛が再び口を開いた。

「ということは、あなたが埋葬機関の……」

「ええ、シエルと言います。」

顔を向けられたシエルが答え、士郎に視線を向ける。

「士郎さんといいましたか。先ほどはすいませんでした。」

「あ、いえ、大丈夫です。」

謝られているのに、逆に士郎が頭を下げる。

「で、士郎、あなた方は一体ここで何をしていたのですか。」

話がまとまらなくなる可能性を感じて、シオンが今度は士郎に問う。

「ああ、任務で来たのはいいけど、宿がなくてさ。」

ため息をついて、苦笑する。

そこへ、レイが口を挟んだ。

「じゃあさー、シキ、泊めてあげれば?あそこめちゃくちゃ広いんだし。」

「あ、うん。秋葉に聞いてみてになるけど、多分大丈夫だ。」

志貴も提案を安請け合いする。

「それに何か大事の予感がするし、きっとシオンたちが来たのとも関係あるだろうから。話をするにも、アルクェイドや先輩のアパートじゃ狭いしね。」

時計を見れば電話を入れてからかなりの時間がたっている。

とりあえず、帰ったら秋葉が怒らないように努力しよう、そう誓ってみなを先導する志貴だった。

 

 

「……おおきいですね。」

セイバーが、四人の気持ちを代弁する。

「ここに四人暮らしですか……」

「そうだね。まあ、アルクェイドや先輩とかもしょっちゅう来るし、賑やかなのは間違いないけど。」

中でも一番の驚きを見せている士郎に苦笑し、志貴は玄関のチャイムを押す。

『はいはい、ちょっとまってくださいねー。』

インターホンの向こうから聞こえたのは琥珀の声。

しかし、扉を開けて出てきたのは翡翠だった。門を開けて迎え入れてくれる。

「お帰りなさいませ、志貴様、レン様。」

いつもどおりの無表情だが、どこかうれしそうに感じる。

「それに、いらっしゃいませ、シオン様、レイ様、アルクェイド様、シエル様……志貴様、そちらの方々は……?」

が、凛たちを見て、少し凍りつく翡翠の表情。

しかし、それを説明する前に、やたらと元気のいい声が響いた。

「久しぶり!おにーちゃーん!」

駆け抜けたのは銀の砲弾。翡翠と志貴の横を駆け抜け、一直線に士郎に突っ込む。

みぞおちにくらい、意識が刈り取られる寸前で踏みとどまった士郎が、その砲弾を引き剥がした。

「イ、イリヤ!?」

「そうだよ?久しぶりだね、シロウ!」

顔を上げ、屈託のない笑顔を浮かべるイリヤスフィール。そのまま士郎の腕をぐいぐいと屋敷に引き込もうとする。

「あなた方が、士郎様方ですか。偶然にもお客様がお待ちです。シエル様にも御用とのことでした。」

翡翠が振り返って告げる。

無表情な翡翠に押されてか、無邪気なイリヤスフィールに引っ張られてかは知らないが、士郎はそのまま屋敷に引き込まれる。

後は、翡翠の先導でそろって居間に入っていった。

「おかえりなさいませ〜、それといらっしゃいませな方々もいますね〜。」

「おかえりなさい、兄さん。いらっしゃい、シオン、レイ、皆様。」

出迎えたのは、ソファで紅茶を傾ける秋葉とそばに控える琥珀。

それと。

「お久しぶりです、先輩、姉さん、セイバーさん。」

「久しぶりですね、衛宮士郎、遠坂先輩に、セイバー。それと、初めまして、シエル先輩。」

紫の髪をたらした少女と、くすんだ銀髪の少女が紅茶を傾けていた。

「桜、カレン!?」

今度の代弁者は士郎。凛もセイバーも目を丸くしている。

沈黙が支配した。

あまりに驚かれたことで、戸惑ってしまっている桜と、それ以上何も言おうとしないカレン。

固まってしまった士郎たちに、どうしていいかわからない志貴たち。

イリヤスフィールが士郎を呼ぶ声だけが聞こえていた。

それを破ったのは、やはりというべきか、琥珀だった。

「じゃあ、お料理冷めちゃいますし、お昼にしましょうか。志貴さんが遅かったせいで、だいぶずれ込んじゃってますし。」

クスクスと笑いながら、厨房に退散していく琥珀。

正当な理由があるのに、秋葉と翡翠の視線が痛かったのは気のせいだと思いたい志貴だった。

「シエル先輩、聖堂教会から指令です。」

向こうでは、カレンがシエルに封書を渡していた。

それに目を通した後、シエルはため息をついてカレンに聞き返した。

「どうして、私のところに直接指令が来ないのでしょうか。」

「ああ、ねずみか何かに、本部の電話線がやられたらしいです。伝令係のメレム・ソロモンもちょうど出ていたようで、教会の連絡網をたどって私のところに来たようです。」

カレンの答えに、シエルは頭を抱えるしかなかった。

「……16人ですか。ずいぶんとまあつれてきたものですねぇ、兄さん。」

秋葉の冷たい視線が志貴に向けられる。

「その誰彼かまわず連れてくる癖はやめていただけませんか?」

「いやいや、そんな節操無しみたいに言うなって。困ってる人を助けるのは人として当然のことだろう?」

弁解に力がない志貴。もはや秋葉の視線で体がすくむのは条件反射の域に達しているようだ。

「はいはい、ご飯ですよ〜。もう椅子のけちゃって、立食形式にしちゃいましょうか。」

志貴を助けるように、タイミングよく料理を運んでくる琥珀。翡翠も手伝って、手際よくテーブルに料理が並んでいく。

「じゃ、頂いちゃってくださいな。足りなければ追加もしますから。」

やがて、料理を並べ終わった琥珀の号令で食事が開始される。

みな思い思いに料理に箸を伸ばし、舌鼓を打った。

中でも早いのがセイバーの箸である。士郎に止められながらもかなりの勢いで料理を消費しており、みなの注目を集めていた。

みなもそれに刺激されてか、普段よりも速い目に食事が進む。

それでも、琥珀が追加の料理を用意することは、一応必要なかった。

セイバーは少し物足りなさそうだったが。

「じゃあ、本題に入ろうか。少し、自己紹介なんかもしてくれるとありがたい。」

切り出すのは、志貴。

合わせてリビングの照明が落とされ、小さなランプに変えられる。いつの間にかカーテンも閉められていた。

「……なんで照明落とすのさ、琥珀さん。」

「気分ですよー。こっちのほうが雰囲気出るじゃないですかー。密談ぽくって。」

にこやかに言われるだけで、照明は戻されない。

志貴は諦めて話を戻した。

「じゃあ、まず自己紹介を。俺は遠野志貴。あそこの明るい金髪がアルクェイドで、その隣がシエル先輩。」

隣のソファで今にも掴み合いを始めそうな笑顔を浮かべているアルクェイドとシエルを指す。

「隣にいるのが俺の妹の秋葉。メイドさんが翡翠で、割烹着着てるほうが琥珀さん。二人は双子なんだ。」

次に秋葉と自分と秋葉をはさむように座っている翡翠、琥珀を指した。

「で、俺が抱いているのが、使い魔のレン。今は猫だけど、女の子にもなれます。シオンとレイのことは知ってるみたいだから省くね。」

最後に目を閉じているレンの頭をなでる。

「まあ、こんなもので。シオンたちは、何でここに来たの?残念だけど、ただ会いに来ただけじゃ、ないよね。」

「……はい。」

志貴の問いかけに、シオンは顔を曇らせる。

それを見て、レイが後を継いだ。

「そっからは俺が言いますよ。副官の役目ですから。」

突然真面目な声を出したレイに、全員が注目する。

「……や、なんスか。志貴とかはまだしも、アトラシアやジュエルソードは初めてじゃないでしょ。いろいろやったんだから。」

不満そうなジト目を向けるレイ。

だが、だいぶ無理もない。顔つきも引き締まって、見た目すら別人かと思うほど雰囲気が変わっているのだ。

「いや、そうなのですが、ギャップがありすぎて……何度見ても慣れないですね。」

一番慣れているはずの立場であるシオンですら、顔が引きつっている。他の面々の反応は言うまでもない。

「もういいです。話、続けますよ。」

レイが諦めたようにため息をついて、話し始める。

「まず、今回の俺たちの目的ですけど、逃げ出した魔術師の捕縛です。この街に逃げ込んだ情報をつかんだんで、志貴たちの協力を仰ぎに。」

淡々と話すレイ。ふざけた様子は一切見られない。

「だから、志貴、真祖、それから代行者に、秋葉たちも。できればジュエルソードも手伝って欲しい。」

言い終わると同時にレイが頭を下げる。

と、志貴が、気になっていたらしく、関係なさそうと分かっていながら聞いた。

「そういえば、そのジュエルソードってのはなんなんだ? レイ。」

「あー、それはねー。凛とルヴィアと士郎とセイバーをそろえて呼ぶときの名前。由来はそのうちね。便利だと思うんだけど、誰も使ってくれないのが悩みかなー。」

先ほどまでの真面目な雰囲気は一掃され、もともとの馬鹿明るい雰囲気に一瞬にして戻る。

脱力した志貴は、返答を返すことをしなかった。

「……気を取り直して、次はえっと……」

「衛宮士郎。士郎でいいよ。」

目線を向けられて、士郎が答える。

「ありがとう。じゃあ、俺も志貴で。士郎たちの話を聞かせてくれ。」

短く礼を述べて、志貴が促す。

「じゃあ、まず自己紹介。俺は衛宮士郎。こっちの黒髪が遠坂凛で、その隣の金髪がルヴィアゼリッタ=エーデルフェルト。それからこっちがセイバー。」

右隣の凛、ルヴィア、左隣のセイバーを順に指す。

「そして、そっちの銀髪の女の子が、カレン=オルテンシア。隣が間桐桜。」

もうひとつのソファに座っている桜とカレンを指す。

「で、めちゃくちゃ視線がいたいのですが、俺の膝にいるのがイリヤスフィール=フォン=アインツベルン。」

冷や汗を流しながら、満足そうなイリヤをなでる士郎。

凛と桜とルヴィア、セイバーの視線は、もしかしたら、人を一人くらいなら殺せるかもしれない。

カレンだけは、いやらしく唇を歪めていた。

「……で、で、目的は俺たちも逃げ出した魔術師の捕縛。ここに来たのは、ホテルが空いてなかったところを志貴が声をかけてくれたからです。」

そこで秋葉に向かって頭を下げる。

「秋葉さん、泊めてくれるとありがたいんですけど、ダメ、ですか?」

むっと眉をひそめる秋葉。心配そうに見つめる翡翠と琥珀の一言に、しぶしぶながらに承諾する。

「……まあ、仕方ありません。ここで追い返せばただの人でなしですからね。まったく兄さんにも困ったものです。」

頭を抱えてため息をつく秋葉。ジト目で志貴を睨むも、目をそらす志貴。

それを見て、レイがにやりと笑った。

「あー、大丈夫だよアキハー。リンもルヴィアもセイバーもイリヤもサクラもカレンもみーんなシロウのだから。シキに引っ掛けられたわけじゃないよ。」

「そ、そんな心配してません!」

図星を指されて真っ赤になる秋葉。

その様子に笑ったレイの背筋に悪寒が走る。

振り返ったときには遅かった。すでにエーテライトが体に入ってきていた。

「あ、アとラシあ!?」

「あなたという人は……もう少し場の空気を読みなさい!」

「アダダダ、焼ける焼ける焼けるーーー!!!」

痛覚に直接痛みを流しこまれるレイ。絶叫にも程がある、というほどの声を上げて倒れる。

一つため息をついて、シオンは次を促した。

「すまない、秋葉、士郎。次に進んでください。」

「……はい。とりあえず、秋葉さんの了解も取れたところで、えっと、アルクェイドさん、協力をお願いしたいんですが……」

レイの惨状に気後れしながら、本来の目的であったアルクェイドへの協力を申し出る。

それを、凛が遮る。

「待って。埋葬機関第七位も、シオンたちもいるんだから、あなたたちも協力して欲しいの。代わりに私達はシオンたちのほうも手伝う。」

そこで一旦言葉を切り、ルヴィアが言葉を継ぐ。

「ただ、解せないことが一つあるのです。レイは先ほどそこのミスタ・シキにも助力を要請しましたが、私たちにはそれ程の者に思えない。」

鋭い視線を向けられて、志貴がひるんだ。








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