「ただ、解せないことが一つあるのです。レイは先ほどそこのミスタ・シキにも助力を要請しましたが、私たちにはそれ程の者に思えない。」

 

Chapt.2-2 顔合わせ、提携

 

視線を向けられて、たじろぐ志貴。かまわず今度は凛が続けた。

「秋葉さんが秘めてるポテンシャルがすごいのも、使い魔にしてるあの子が相当な力を秘めた夢魔だって言うのも分かる。けれど、あなた自身から感じる魔力はほとんどないの。」

だんだんと志貴に向かって詰問調になっていく凛を、士郎がなだめる。

「いいじゃないか、別にそんなの……」

「よくないわよ。使えるものは何でも使う。それに対する見返りもきちんと払う。あんたも魔術師の端くれならそのくらいの気構えでいなさい!」

のだが、むしろ火に油を注いでしまった。

「あなたなーんにも分かってないんだー。」

しかし、その火はアルクェイドに出鼻をくじかれて消し止められる。

「死徒27祖、第10位ネロ=カオス、第13位タタリ/ワラキアの夜、番外位ミハイル=ロア=バルダムョオン、知ってる?」

鼻で笑うアルクェイドに答えるのはルヴィア。凛は士郎に抑えられて何も言わない。

「ええ知ってますわ。それぞれ、最も滅びから遠いとされる3祖ですわね。」

「正解。ネロは666の命を持ち、タタリは現象と化し、ロアは転生を繰り返す。全て、完全消滅からは程遠いとされていたわ。」

何かを思い出すように、アルクェイドは冷たい目で述べていく。

「でも、確か2,3年前に日本で滅んだって聞いたわ。」

口を開くのは沈静化した凛。

それをシエルが受け取った。

「そうです。まずネロが、次にロアが、最後にワラキアの夜が消滅しました。この町で。」

「まさか!?」

セイバーの驚愕の声に、アルクェイドが満足そうに締めた。

「その通り。全部止めをさしたのは志貴よ。」

どうだ、とまるで自分のことのように誇る。秋葉が睨んでいるが気にしない。

「でも、どうやって?」

最後は士郎。

「それは志貴自身に聞いて。」

ジト目を向けてくる志貴に笑いかけ、ため息をつくシエルを軽く無視する。

不安そうな翡翠に手を振って、琥珀に何か壊していいものと、ナイフを頼んだ。

「あのな、アルクェイド。」

「だって、志貴が馬鹿にされてるみたいでやだったんだもん。」

来るまでにアルクェイドを責めようとするのだが、膨れるアルクェイドに封殺される。

秋葉の視線が痛かった。

「これで、いいですか〜?」

そうこうしているうちに、琥珀が持ってきたのはレンガの塊。

「……重くなかったですか?」

「へっちゃらですよ〜?」

「……何処で見つけたんです?」

「それは秘密です〜。」

琥珀の謎がまた一つ深まったところで、テーブルに置かれたそれに、志貴が相対する。

静かに眼鏡をはずし、レンガの隣のナイフを構えた。

浮かび上がった、志貴にだけ見える、全ての物に無数に走る線。それに沿って、レンガに刃を通す。

何の抵抗もなく埋まりこんだ刃は、動かす手に沿って動いていき、レンガを両断した。

もう一本の線に刃を通してから、志貴は眼鏡をかけてナイフを置く。

「こういうこと。ホントは見せたくなかったんだけどね。」

目を丸くする士郎たち。

四つに割られたレンガを、凛、ルヴィア、セイバー、イリヤスフィールがそれぞれつかみ、切断面を中心に見ている。

叩いたり曲げたりしながら、調べても普通のレンガであり、ナイフである。

やがて、イリヤスフィールが苦虫を噛み潰したように、呟いた。

「直死の魔眼、か。」

分かっていない桜を除いて、さらに士郎以外が志貴に目線を向ける。

「……そういうこと。子供のころの事故で死に掛けたときに身についたんだ。」

翡翠と秋葉がつらそうにうつむき、志貴もこれ以上を語ろうとしない。

アルクェイドが次を引き取った。

「こっちの手の内は明かしたんだから、そっちの手の内も明かしてくれないかしら。」

「等価交換ですよね?」

次いでシエルが道を塞ぐ。

「……なによ、とんでもない隠し玉じゃない……分かったわ。」

観念したようにため息をつき、まず凛が口を開く。

「じゃあ、私から。簡単に言うなら遠坂の魔術は、力の流動。宝石に魔力をこめて使うの。後、得意なのはガンド。」

「非常に悔しいのですけれども、エーデルフェルトの魔術も似たものと考えていただければ。得意なものまで同じなのが本当に癪なのですけど。」

次いでルヴィアが話す。

そこで、アルクェイドが口を挟んだ。

「宝石って、またゼル爺みたいなこというのね。」

「……一応、私もリンも大師父の系譜に連なるものですから。」

膨れたままルヴィアが答える。

「では次は私が。真名はアルトリア=ペントラゴン、アーサー王というほうが通りはいいでしょうか、英霊セイバーといいます。」

セイバーが立ち上がり、聖杯戦争の概略とそこで召還されるサーヴァントシステムについて説明した。

「そうですか、言峰が……惜しい者を亡くしましたね……」

事の顛末でシエルが遠い目をする。

「知り合いだったんですか?」

「ええ、まあ。いい麻婆野郎でしたよ……。カレーVSマーボー、あの対戦は忘れません……」

安らかに、とでも言うような惜しげな顔をするシエルを放置して、イリヤスフィールが立ち上がった。

「私は、アインツベルンの党首。一応得意なのは、暗示、催眠、とかになるかな。」

「私は、架空元素属性で、魔術は勉強中です。」

桜が続き、カレンが立つ。

「私は司祭ですから、魔術は使えません。ただ、霊障に反応して同じことがこの身に起こる体質です。機会はないでしょうが、見てもらったほうが速いと思うので、これ以上は語りません。」

有無を言わせない説明の後、自然、衆目は士郎に集まる。

「えっと、俺は固有結界しか使えない。」

その言葉に、立ち上がるアルクェイドとシエル。

固有結界(リアリティ・マーブル)とは、個人の心象風景に現実を侵食させて自分の世界を展開する、禁呪と呼ばれる大魔術である。

アルクェイドのもつ空想具現化(マーブル・ファンタズム)の亜種に分類され、普通人間が至ることは珍しく、故に至った者は例外なく封印指定を受けるほどもの。

しかも、至る者も長年研究を重ねて至るものであり、士郎の若さで至っていること自体が特例中の特例である。

それだけで特例であるのに、それしか使えないという異例。時計塔の上層に確証をもたれてしまえば、封印指定は逃れられないだろう。

凛たちの視線も痛かったが、志貴が隠さず語ってくれた以上、士郎としても隠し事をするわけにはいかなかった。

睨みつけてくるシエルとアルクェイドをまっすぐに見返し、志貴が二人を座らせた後、言葉を継ぐ。

「その派生で、剣を中心に刃物なら何でも投影できるし、一目で構造まで解析できる。投影もイメージにズレが起きない限り消えることもない。」

――投影開始(トレース・オン)――

一瞬で士郎の両手に黒と白の双剣、干将莫耶が現れる。

「その代わり、他の魔術はからっきしで、暗示とかに対する抗魔力もすこぶる弱い。」

それをテーブルにおいて、もう何もないという風に両手をあげた。

その双剣に最も興味を示したのは、志貴だった。

「……士郎の固有結界ってどんなの?」

不意にテーブルに手にとっていた干将を置き、士郎に声をかける。

「えっと、一言で言えば、無数の剣が突き立った荒野、かな。」

「そっか、機会があったら見せてくれ。」

曖昧に同意した士郎の答えに、志貴はやたらと満足そうだった。

「さて、これで全員スかね。お互い知らないことも無いですね?」

「ストップ。」

次に進めようとしたレイを、アルクェイドが遮る。

言葉を継ぐのはイリヤスフィール。

「アキハたちの詳しい能力聞いてない。」

「そう、でしたわね。私の能力は、主に略奪。視界に入るものすべてから熱を奪い取る能力です。翡翠と琥珀は感応者で、それぞれ兄さんと私と契約しています。」

一息に説明して、秋葉は優雅に一礼する。

「これでよろしいでしょうか。」

「そうね、充分だと思います。」

イリヤスフィールも大人モードで答えた。

「それで終わりスか?もう無いっすね?」

しかし、誰もレイに同意するものはいない。

「え、どしたんすか?まだなんかあります?」

視線は一同にレイに集まる。

わたわたするレイに、シオンが大きなため息をついた。

「レイ、あなたは自分の説明をしましたか?」

「え、したと思いますけど?」

レイの答えに、みなの視線が少し鋭くなる。

「え、してませんでしたっけ?」

一同が首を縦に振ってくれた。

「……分かりました。俺の名前はレイゼン=カレイド。使える魔術は、強化と変化のみ。」

仕方なく簡単に説明するレイに、イリヤスフィールが口を挟んだ。

「アトラスの人は魔術使えないって聞いてたけど?」

そもそも、アトラス院の魔術師たちが特に錬金術師と呼ばれるのは、生まれつき魔術回路が少ない、または無いために魔術が使えず、頭を使うほうにまわったからである。

そのアトラス院に所属しながら魔術が使えるレイもまた異端なのだ。

「あー、先祖返りらしいッス。しかもどんだけ返ったのか知らないスけど、その量が馬鹿にならないんスよ。」

しかもレイの場合、最も得意なのはその本数。

「アトラスでは珍しく魔術回路多いのが俺の特徴で、その数は108本、バカにならないのが、全部が同時に、しかも常時稼動してることッスね。」

軽く笑って流そうとしたレイだったが、そうもいかなかったらしく、それぞれの反応を見せてくれている。

目を丸くするイリヤスフィールとアルクェイド、シエル、桜。

苦虫を噛み潰したようになる凛とルヴィア。

士郎は凛たちの反応に苦笑し、シオン、カレンは、我関せずを貫いている。

セイバーと遠野家の面々は何がなんなのか分からない様子で、レンに至っては志貴の膝で眠っていた。

「……それって、制御できるの?」

ようやくのことで、イリヤスフィールが口を開いた。

「できないッスよ。」

それに対して、レイはちっとも軽くないことをさも軽いことのように答えた。

「え、ダメじゃん。」

「だから、この指輪と腕輪があるんスよ。これ、制御用の呪具で、はずすと魔力が暴走します。こんなトコでどうでしょう?」

みな、納得したように首を振ってくれる。その実、あっけにとられているだけかもしれないが。

「じゃ、次いきますよ。ターゲットなんですが……」

それを遮るように、かわいらしいおなかの音が響いた。

音源のほうに、全員の視線が向く。そこで縮こまっていたのはセイバーだった。

「じゃあ、おやつでも何か作りますね、皆さんも話しっぱなしでは疲れるでしょうし、ここらで休憩を入れてはどうでしょう?」

すかさず琥珀が提案し、反対も無く、なし崩しに休憩になだれ込むことになった。

 

 

「じゃ、はじめますよ、セイバーさんお菓子の準備はいいっスか?」

セイバーの前に少し多めに詰まれた焼き菓子をとりあえずいじっておくレイ。

「おかげさまで、レイ。シロウ、今度はあのような失態は見せません!」

笑いを誘うつもりで出した話題だったのだが、セイバーの決意を聞かされ、笑える雰囲気ではなくなってしまった。

一つ咳払いして、レイが話し出した。

「じゃ、志貴、後よろしくねー。」

「え、ちょっと、レイ!?」

いきなり進行をゆだねられて戸惑う志貴に、レイは軽く言い放つ。

「だって、最初志貴が進めてたじゃん。任せようったってそうはいかねぇ!」

少し沈黙してから、ため息をついて志貴が立ち上がった。

「じゃあ、標的についてなんだけど、今度は士郎達のほうから聞こうか。」

言われて、凛が立ち上がった。

「私達のターゲットは、クリスティーン=ミーディアム。イタコの通り名で分かるように、死者を呼び出せる。短時間だけれど。」

渡された報告書を何処からか取り出して読み上げていく。

「人形師としてもなかなかのもので、呼び出した魂を定着させて兵士として使う、ってあるけど、何処まで正しいか分からないのよね。」

「なんでさ。いい加減な資料渡されてるのか?」

傍らの士郎の質問に、一つ拳骨を落とし、説明する。

「馬鹿。基本、魔術師は性質として自分の魔術を隠すの。こんなもん、形だけで大事なトコが書かれてるわけないでしょ。」

「そうそう。シロウはやっぱり未熟だからねー、もっと勉強しなきゃダメだよ、おにいちゃん?」

膝と頭上、二方向からの回答にぐうの音も出ない士郎。

「とりあえず、死者と交渉できる、ということは信憑性があるかもしれないわね。」

「……それならば、私たちのターゲットと十中八九組んでいるでしょう。」

シオンが、重たげなため息をつく。

「どういうこと?」

「はい、私たちのターゲットは、オットマン=マリウォーカーというのですが、人形師なのです。しかも、アトラスでも一二を争うほどの。一説では、素体としての機能だけなら、蒼崎クラスだと。」

「……最悪、ね。」

「そうですわね……」

凛とルヴィアが、唇を噛む。

士郎はその隣でよく分かってない顔をしていた。

その頭に再び拳骨が落ちる。

「なにすんだよ!」

「いい!?分かってないみたいだから言うけど、蒼崎って言うのは、妹が破壊のみに特化した魔法使い。」

志貴がかすかに反応する。

「そして姉は人形やルーンに秀でていて、しかも封印指定を受けつつ、それをかいくぐった魔術師。しかもすこぶる仲が悪い。」

「それがなんなのさ。」

口を開いた士郎に再び拳骨が落とされた。

「うっさい、黙って聞け!この場合問題になるのは姉のほう。封印指定を受けるくらいの魔術師と同等って一説に言われるほどの素体に、過去の英雄の魂でもくっつけられてみなさい!」

そこまで聞いて、ようやく士郎にも合点がいったようだ。

「そ、そんなのしのぎきれるわけないじゃないか!」

「だから最悪なのよ!」

がーっと吠える凛をシオンが冷静になだめる。

「しかし、クリスティーンは封印指定を受けていないのですから、何か秘密があるはずです。それに魔力に限りもありますから、あまりたくさんは呼べないと思います。」

「それだけが救いですわね。」

ため息をつく魔術師の面々。

「今出ている情報ならこのくらいでしょうか。」

「そうだね、とりあえず、対策としては何がある?」

暗くなった空気を振り払うように、志貴がみんなに意見を求める。

ここで主に出されて可決された意見は二つ。

遠野の屋敷に結界を張ることと、夜何人かに分かれて巡回すること。

結界は、混血、英霊、真祖がいることを考え、敵意、害意のある侵入者に反応する弱いものにされた。

巡回も、今日は体を休めて明日から、ということが決められた。

「じゃあ、こんなものかな。じゃ、秋葉。」

「そうですね。翡翠、皆さんをお部屋に案内してあげて。琥珀は食事の用意をお願い。」

あまり悩んでも仕方ない、と志貴が結論付け解散になった。

ぞろぞろと翡翠の後についていく士郎達を見て、秋葉が声をかけた。

「お待ちください、アルクェイドさんとシエルさんも泊まるおつもりですか?」

「そうですけど?」

「だって、対策しなきゃ。一箇所に集まってたほうが対処しやすいでしょ?」

さも当然そうな二人の物言いに、秋葉はため息をついて承諾した。

その足で秋葉は厨房に向かう。

「琥珀、今日からしばらく夜中の兄さんの部屋の監視、強化しておいて。」

「わっかりました〜。」

鍋をかき回しながら、琥珀が承諾したのを確認して、厨房を離れた。

志貴もいつの間にか部屋に戻り、秋葉もそのまま部屋に戻ることにした。







さて、TYPE−MOONクロス第二話。
設定の羅列みたいになってますがご勘弁を。
まあ、設定の羅列というよりは、概念理解ですか。私は、奈須氏の世界をこう理解して、キャラの能力もこう解釈している、ということを綴っています。
それで、ツッコミを受けて、レイの記述とガンドを訂正。いや、まだまだあたしも精進が足りません。
さて、次はもう戦闘にしちまいましょうか、一話だけ日常をはさみましょうか。
どっちにしましょうかね。
……や、レイも敵二人もマダ能力は隠してますよ?表層だけっス。

                                                       Fisher man