さてここで、時間を今日の朝食後に戻してもう一人の朴念仁にスポットを当てることにしよう。

 

Chapt.3-2 嵐の前

 

<CASE1 アルトリア=ペントラゴン>

食後すぐ、セイバーに連れ出されるような形で庭に出た士郎。

二人は、程よく人気の無い場所で対峙していた。

「やるか、セイバー。」

「はい。外でやるのも、悪くはないかと。」

そうして、都合よく落ちていた竹刀くらいの木の棒を拾い、セイバーに投げ渡す。

自身は、その半分くらいの木の棒を2本、これまた都合よく落ちていたのを拾って構えた。

どちらも仕掛けない。ただ、相手の剣先を、視線を、呼吸を、動きを、見る。

やがて、セイバーが仕掛けた。

走りこむ勢いを乗せた、横薙ぎの一閃。それを、士郎は分かっていたように距離をとってかわした。

もちろんそれはセイバーにとって予想の範囲内。もう一歩踏み込んで、返す刀を士郎の首元へ持っていく。

それを士郎は右の棒で受け、左の棒をセイバーの側頭へ振るった。

セイバーは屈んでやりすごし、そのまま膝を伸ばす勢いを使って体当たり。

「がっ……」

丁度セイバーの肩が士郎のみぞおちへ入り、軽くよろける士郎。

「はああぁぁぁ!」

その足を緩めず、セイバーは思い切り、唐竹に振り下ろした。

何とか踏ん張って、士郎は2本の棒をクロスさせて受け止める。

「やはり、あなたはじわじわと腕を上げている。」

「そりゃ、どーもっと!」

ぐっと、力をこめて、セイバーを押し返す。

それに従ってセイバーも距離をとった。

「ですが、まだ、師匠として負けるわけにはいきません。」

力強い踏み込み。

士郎の武器を叩き折るような勢いで、迫ってくるセイバーが、突然。

「!?」

視界から消え去った。

(どこへ!?)

虚をつかれて、士郎の動きが瞬間固まる。

その時間は大きかった。

「でぇぇぁぁい!」

しゃがんだセイバーの、体重を乗せた右切り上げ。

士郎が感じて、武器を合わせた時にはもう遅い。

乾いた音が鳴って、士郎の手から棒が二本とも空高く舞い上がった。

「……参った。また負けか。」

喉元に棒を突きつけられて、士郎は両手を上に上げる。

少し悔しそうにため息をつく士郎を、セイバーが優しく励ましている途中で。

「ですが士郎、だんだん私も本気に近い力で戦わなければならなくなっている。まあ、あくまで稽古の範囲で、ですが。しかし、あなたは確実に上達してあうんっ!?」

ガ、ガン、と先ほど舞い上げた木の棒が、丁度セイバーの頭に落ちてきた。

「せ、セイバー、大丈夫か?」

「大丈夫です。不意打ちでしたので、少し情けない声を上げてしまいましたが。」

棒が降ってきたところを、少し顔をしかめながらなでるセイバー。

「じゃあ、武器が戻ってきた事だし、もう一勝負やるか。」

「望むところです。」

棒を拾い、士郎は適度に間合いを開ける。

セイバーも持っていた棒を正眼に構えた。

結局、昼食の声がかかるまで、試合を続けていた二人。

戦績としては、7戦5勝1敗1分けだったと追記しておく。

 

 

<CASE2 遠坂凛・ルヴィアゼリッタ=エーデルフェルト>

昼食を終えて、士郎は凛の部屋に呼び出されていた。

「入るぞ、遠坂?」

「開いてるわよ。」

中にいたのは、魔術師モードの師匠二人組だった。

何も悪いことはしていないはずなのだが、それだけで気圧される何かを士郎は感じていた。

「久しぶりにおさらいといきましょう。」

そう言われて、凛から投げ渡されたのは、いつもの古ぼけたランプだった。

「まずは強化、ですわ。」

「ああ。化、開始(トレース・オン)。」

ルヴィアの言葉とともに、短く呪文を呟く。

それにあわせて、士郎の魔術回路の一本に魔力が走る。

ランプを解析し、その構造を把握。

その弱いところを補うように、魔力を走らせていく。

数瞬の後、目を開いた士郎は、それを凛に投げ渡した。

「一応、形は成功したみたいね。」

ひとしきり眺めて、凛はにやりと微笑む。

そしてそのまま、手からランプを滑り落とした。

「ま、上出来か。」

がつん、と鈍い音をたててランプが床に落ちる。

そのまま床を転がるランプ。士郎の強化が成功したらしく、ランプは壊れなかった。

「ふぅ。」

「では、次は修復、といきましょうか。」

息を抜く暇も無く、ルヴィアが割ったのは、花瓶だった。

「ちょ、ルヴィア!?」

突然の行動に、戸惑う士郎。

いくら修復するといっても、何も見るからに高そうな、しかも人のものを使うことは無いだろう。

「修復すれば問題ないですわ。それに、これはミス・コハクから頂いた、いらない花瓶の一つ、ですから。」

しかし、ルヴィアは平気な顔で答えていた。ここでもったいないと思ってしまうことが、金持ちと庶民の金銭感覚なのだろうか。

士郎は、改めて思い知らされた気分になって、それでも破片を集めて目を閉じた。

復元、開始(トレース・オン)

破片を解析し、読み取った設計図を元に魔力を通す。

その魔力を受けて、時間が巻き戻るように花瓶が組み上げられていった。

「……まあ。」

「充分でしょう。」

組みあがった花瓶を見て、ルヴィアと凛が呟いた。

二人の評価に軽く安堵のため息をつく士郎。

しかし、耳ざとい二人はそれを聞き逃してはくれなかった。

「士郎、アンタ、何安心なんかしてんの。」

「こんなものは初歩の初歩、しかもおさらいでしょう?」

呆れたような半眼。

士郎は、選択肢を間違えたと思ったのだが、それはもう遅い。

「そんなの出来てため息つかなきゃならないなんて、アンタ、どれだけサボってたの。」

「まったく、今まで些末事忙しくてシェロを見てあげられませんでしたけれど、そんな体たらくですの?」

ブツブツと呟きながら、二人の顔が“あくま”の微笑みに歪んでいく。

「いや、ため息つくくらい許してくれても……」

「「何か?」」

「イエ……」

そうなってしまえば、士郎に凛とルヴィアを止める術などあるはずが無い。

いつもの事だ、と開き直って頭をかき、二人の小言を待つことにした。

「久しぶりだから、軽くしようと思ってたけど、ねぇ、ルヴィア?」

「ですわね、凛。これは、みっちりとしごいてあげなくては。」

彼女らの後ろに立ち上るのは、瘴気か、幻か。

心底嬉しそうに笑う二人を見ての士郎の感想は一つだった。

(や、軽く、なんて最初から思ってないだろ……)

もはや、怖い怖くないではないらしい。

しかし、付き合いが長くなれば何となく分かるようになるのだろうか。

実はシロウの考えはあながちはずれではない。

先ほどルヴィアも言ったとおり、彼女らは些末事でしばらく士郎にかまえな、いや、かまってもらえなかった、と言うべきか。とにかく、士郎との時間が取れなかった。

加えて、セイバーはきちんと稽古の時間を確保し、日本に帰ってくれば桜やイリヤが滞在先で待っている。

そこに、彼女らも乙女である、という事項を放り込めば簡単に予想できることであった。

もちろん、そんな思考過程を経て士郎が結論に至れるのであれば、凛やルヴィアがこんな行動に出る必要は皆無なのだが。

「じゃあ、士郎、覚悟はいーい?」

「もちろん、嫌といっても逃がしはしませんけど。」

少し諦め混じりの士郎に降りかかるのは一体なんなのだろうか。

解放された士郎はやたらと疲れていて、凛とルヴィアは満足そうだった、という事だけを追記しておく。

 

 

夕食。

振舞われてばかりでは、と士郎が申し出たのだが、見て分かるほど疲れていること、何より、客に台所を任すわけにはいかないことを理由に琥珀に断られた。

まあ、“おうさま”との稽古、“あくま”たちのしごきに加えて、その後“サドマゾシスター”に文字通り吊るし上げられたり、“姉で妹”に人間砲弾をくらわされたりすれば当然かもしれない。“黒い娘”は乗り遅れて拗ねていたが。

アルクェイドとシエルの決着は結局つかずに、どちらもかすり傷程度で帰ってきていた。

ノビているレイを除いて、目立った変化も無く過ぎていく。

そうして十時頃。

手がかりの捜索に行くメンバーを決めようとしていたときの事だった。

「うわ!?」

突如、電気が消えた。

続いてガラスの割れる音が響く。

「皆さん、無事ですか!?」

叫んだ志貴を中心におぼろげながら全員が丸く集まる。

そのすぐそばで、金属のぶつかり合う音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

終わりよく分からなくてすいませ、長らくお待たせしてすいませ、もう、ホントスイマセン。

生暖かく見守りつつ、これはおかしいだろってトコは突っ込みつつ読んでやってください。

むーん、大分自分でもよく分からん事になってるような、でもこれでイメージどおりみたいな不思議な状態です。

でも、“姉で妹”はどうなんだろうと少し思うのでした。

次回更新は急げたらよいなと思います。

                                                       Fisher man