「違うわ!清麿くんは私の…」
キモチ、そして始まり。
「へー、ライブだけあって結構人入ってるな。」
3万人収容可能なサクラドームの八割ほどの席が埋まっている。
「だって恵のプロダクションよ!?このくらい普通だわ!」
まるで自分のことのように誇るティオ。
確かに恵のプロダクションはほかにも大勢のアイドルやアーティストを抱えている、業界最大手だ。
ドーム一つ貸し切るくらいだから、恵一人のためではないかも、とは思っていたが、まさかプロダクション全部とは。
素直に感心する清麿。
「あ、そろそろ始まるみたい!」
と、ワクワクしたティオの声と共に、派手に空砲がなる。
そして、色々なところから、色とりどりの煙が上がり、少女達が飛び出してきた。
恵や、その他のユニット、歌手などが順番にいろんな歌を歌い、昼休みに入った。
―楽屋―
「あれ〜、恵は〜?」
ふと一人が、恵がいないことに気づく。
「あ〜、メグならティオちゃんと出ていきましたよ。一緒に弁当食べるそうで。」
別の一人が弁当をつつきながら弁当に向かって言う。
「ふ〜ん。」
最初の一人がさも興味がないといった返答をする後ろで、二人の少女がなにやらゴショゴショやっていた。
その頃の恵たち。
「ご馳走様でした。」
「お粗末さまでした。」
ちょうど弁当を食べ終わったところだった。
もちろん、恵とティオの手作りである。
「おいしかったですよ。」
「ありがとう。」
「ウヌ、ティオありがとうの。」
「当然よ。私の料理がまずいはずないでしょ!」
ほっと一息。
つく間もそこそこに、
「じゃあ、恵、清麿、遊びに行ってくる〜。」
ティオとガッシュはかけていってしまった。
その姿が見えなくなったとき。
「「みーつっけた!」」
後ろでガサリと音がする。
そちらを向くと、恵と同じくらいの少女が二人立っていた。
「志緒!彩!どうしたの?」
一様に笑っている二人。
「いや〜」
「いつもならティオちゃんと楽屋で食べるのに」
「突然外で食べるって言うから来てみたら」
「ねぇ。」
「「こんなところで逢引きしてんだもんねー!!」」
非常に楽しそうな二人。
「いえ、逢引きだなんてそんな…」
慌てて弁解を試みる清麿。
しかし、二人には弁解にもならない。
「チッチッチッ、なに言ってんのよ、清麿君。」
「な、何で俺の名前知ってるんです?」
目の前に指を持ってこられ、顔を覗き込まれる清麿。彼もやっぱり青少年なわけで、ちょっとドギマギ。
「さっきティオちゃんが言ってた。」
「そうですか…」
「本題に戻すわ。手料理食べて、二人っきり!これは立派な逢引きよ!!」
どーん!!と、後ろに荒波が立ちそうだ。
その横で彩が、ぱちぱちと拍手している。ついでに、おー、って感嘆までしている。
「しっかし、この子かっこいいね。」
「そうよ、どうやってオトしたの?」
少し照れる清麿。
「オトしたなんて、そんな、まだ、…」
赤くなって黙り込んでしまう恵。
その様子を見た志緒と彩。
予想通りだとでも言うのか、にんまりと笑う。
「じゃあ、あたしが貰ってもいいよね?」
「ずるいぞ志緒、あたしも欲しい〜。」
「えっ…」
どうやら二人の狙いは清麿のようで、
「うわ!!」
あっという間に飛び掛られて、押し倒され、
「ちょっと離しなさいよ!」
「そっちこそ!」
勝手に取り合いが始まる。
「ちょ、なにしてるのよ!」
慌てて清麿を二人から引き剥がし、背に隠す。
その声には多少怒気をはらんでいた。
しかし、それを二人は気にも留めない様子で言い返す。
「なにって、清麿君の取り合い。」
「別にメグには関係ないでしょ?彼氏ってわけでもないんだから。」
『彼氏ってわけでもない。』
言葉に詰まる恵。
確かに清麿とは彼氏彼女の関係ではない。しかし、好意のようなものを抱いているのは事実で、そばにいると安心できた。
恵は自覚しきってないが、先ほどからのイライラはこのキモチのせいである。
清麿がほかの女性と仲良くするのを見たくない。もしかすると、清麿を取られるかもしれない。
そんなキモチが、恵にこの言葉を言わせた。
「違うわ!清麿くんは私の…私の彼氏よ!」
沈黙。
次に口を開いたのは、志緒と彩だった。
「あは、あははは…!!」
「えっ?」
いきなり笑い出した。
「あははは、も〜マジになっちゃって。はじめっからそう言えばいいのよ。」
バシンと、わけが分からないと顔に書いてある恵の背をたたく。
しかしこの後がいけなかった。うっかりと口を滑らせてしまう。
「でも、あたしらの演技もなかなかってことね。メグをこんなに切羽詰らせるんだから。」
「演技?」
「わ、何でバラすんだよ!」
彩の口を慌ててふさぐ志緒だったが、
「どういうことか説明してもらいましょうか〜?」
時はすでに遅かったようだ。
「あ、あはは、さ、三十六計逃げるにしかず!それじゃーね!!」
慌てて逃げ出す志緒と彩。
「待ちなさーい!」
恵はそれを追って走っていってしまった。
後に残ったのは、真っ赤になって固まる清麿のみ。
彼は、ティオとガッシュが帰ってくるまで固まっていた。
そして夜。
やもやもとした清麿の心とは別に、コンサートは無事に終了した。
ティオは恵が来るまでここにいることになっている。が、
「ね〜、何で固まってたの?」
昼のことで質問攻めにあっていた。
なんでもない、とあしらってはいるのだが、それで納得するようなちびっ子二人であるはずもない。
と、下から母の呼ぶ声がする。
これ幸いと、清麿は下に降りていった。
インターホンが鳴る十分くらい前。恵は清麿の家のドアの前にいた。
インターホンを押そうとして、昼のことを思い出し、指が止まる。
これをもう4、5分繰り返していた。
(う”〜どうしよう…。絶対清麿くん、お昼のこと聞いてただろうし…あ〜、どんな顔していいか分かんないよ〜。)
手を出してはひっこめ、引っ込めては出しの繰り返し。
時間だけが過ぎていく。
と、
「あら、どちら様?」
「ひゃあ!!」
後ろから肩をたたかれた。
慌てて後ろを向くと華の姿が。
「あら、恵ちゃんじゃない。ちょっと待っててね、今清麿呼ぶから。」
「あ、ちょっと待って下さ…」
華は、止める恵に笑いかけ、清麿を呼ぶ。
ほとんど間を空けずに清麿は降りてきた。
「恵さん…」
「清麿くん…」
見つめあい、言葉の無い二人。
華は、後は若い二人でごゆっくり、とでも言いたげに、家に入っていく。
「少し、歩きません?」
清麿が口を開いた。
夜のモチノキ町は、昼間とは打って変わってとても静かだ。
人はおらず、ただ月と星のみが二人を見ている。
公園にさしかかり、どちらからともなく入り、ベンチに座った。
二人の足音もなくなり、訪れるのは完全な静寂。
「あの、恵さん。」
「ごめん!!」
言い出しかけた清麿の言葉をさえぎり、謝る恵。
「ちょ、どうしたんです?」
「ホントにごめん、お昼のこと…勢いで言っちゃって…」
戸惑う清麿。気まずい沈黙が流れる。
さらに恵は続ける。
「迷惑…だったよね…私なんかの彼氏、なんて…」
笑顔。とびっきりの、悲しそうな笑顔。
その笑顔が清麿を突き動かした。
不意に感じた、体を引っ張られる感覚。
そして、清麿のささやくような声が耳元でする。
「確かに、迷惑ですよ。」
「うん、ごめ…」
謝ろうとする恵の声を、清麿は抱きしめてさえぎった。
「言おうと思ってたこと、先に言われたんですからね…」
「えっ?」
思っても見なかった一言。彼氏扱いされたのが迷惑じゃないのか?
「普通こういうのって、男から言うものでしょう?」
「……」
「遅くなったけど、言わせてもらえませんか?恵さん、俺はあなたが好きです。世界中で誰よりも…愛しています。」
清麿からの告白。待ち望んでいた言葉に
「うん。うん。」
肩を小刻みに震わし、その顔を清麿の肩にうずめる恵。
その肩を、まるで小さい子をあやすようにたたく清麿。
「清麿くん、」
恵は顔を上げ、
「ありがとう。」
涙にぬれた目を閉じた。
清麿は、その意を違わず、それに応えた。
二人を眺むは、夜半の月、そして、星空のみ…。
はいはいはい、毎度おなじみFisher manです!
いかがだったでしょうか。何か行くトコまでいっちゃった感じです。
YOU様、ごめんなさいです。アイドル恵、キヨメグ含むのはずが…。キヨメグ、アイドル恵含むになってしまいました…。
気に入っていただけると幸いです。ではこれにて。
Fisher man