君が望む永遠SS
Wedding BELL


    Scene・1



お父さんの泣いている所を見るのは、何度目だろう……?

もう、何度もその姿を見ている気がする。



お父さんの車で病院に駆けつける。
走ってはいけない病院の廊下を走り抜けた。
お姉ちゃんの無事を聞いた時、少しだけ瞳が潤んだのを見かけた。


でも、『 姉さんが何時目覚めるかわからない 』といわれた時、
お母さんを気遣っていたお父さん。
その瞳には、決意が見て取れた。
涙なんて、カケラも無かった。


数日後、深夜、ダイニングから聞こえてきたお父さんの声。
一人で、ウィスキーを舐めながら、顔を俯けていた後姿。
初めてお父さんの泣いている所を見た気がした。


それ以来、お父さんは感情をコントロールしていた。
明らかに私に向けて、笑顔を作っていた。
姉さんの入院から一年過ぎるまでは……。


ある晩、再びダイニングで泣いているお父さんを見つけた。
言葉が聞こえた。
『 ……何で彼まで……苦しい思いをしているんだ……。 
  ……彼まで、……自分を追い詰める事、……無いだろう? 』
私は、見ている事も、聞いている事も出来なくて、
さっさと部屋へ逃げた。
その数日後、鳴海さんは見舞いに来なくなった。
その事が、鳴海さんの事だと気が付いたのは、
姉さんが目覚めてからだった。


三年と言う月日が、お父さんの顔を涙でいっぱいにした。
お姉ちゃんの目覚め。
苦しかった日々からの開放。
未来への希望。


考えてみれば、お父さんの涙を見たのはこの時が初めてだった。
喜びの涙。
その顔を隠そうとしないお父さん。
私はこの人の子供なのだと実感した。
嬉しかった。




数日後、鳴海さんを呼んで、姉さんとの対面。
その時、お父さんは頭を下げて泣いていたと思う。
その姿は、遠目にしか見なかったけど、
今考えれば、きっとそうだと断言できる。


鳴海さんが姉さんの下へ戻ってくれた事を知った時、
お父さんは、涙を隠した。
私は、その時『 何故隠すの? 』と疑問を持った。
喜びだけを感じていたなら隠さなかったと思う。
後になって、その影で泣いた人がいた事を実感した。
その時、お父さんは知っていたんだ。
その喜びは、何の苦しみも無く得られたものではない事を。


その後、色々と事件が涼宮家を襲ったけど、
お父さんの泣いている所をみる事は無かった。


鳴海さんが、正装で家を訪れるまで…………。




    Scene・2


教会の待合室で待つ時間は長い。
姉さんと一緒に教会へ入ったのに、
私たちの支度は直ぐに整ったのに、
こんなに待たされるとは思わなかった。

水月先輩と平先輩が挨拶に訪れた。
その時もまだ、姉さんの支度は整わなかった。
お母さんは、姉さんに付きっ切りだ。
お父さんは、教会の外で灰皿を吸殻で埋めていた。
その頃やっと支度を終えた姉さんが、
待合室に移った。

『 遙伝説 』は見る影も無い。
主賓の椅子に腰掛けていた姉さんは、
   『 綺麗 』
としか形容の無い言葉と思いで埋め尽くされた。
私はその横に立って、自慢げだった。
水月先輩と平先輩は、姉さんに色々と話しかけてから、
他の人たちと一緒に部屋を去っていった。
残されたのは、家族だけだった。



姉さんは、主賓席に座ったまま、ほとんど動かない。
身支度したものが乱れると困るので、
あまり動かない様に注意されているらしい。
お母さんは、姉さんの周りで色々と世話を焼いている。
お父さんは、主賓席の横のソファーで落ち着きが無い。
この部屋では、タバコも吸えない。
そんな中へ扉をノックする音が響いた。

鳴海さんが、ご両親を連れて挨拶に訪れた。
お母さんとお父さんは、かしこまって頭を下げるばかり。
でも、鳴海さんのご両親も同じだった。
私は、姉さんの横に立ち、鳴海さんを茶化した。
でも、鳴海さんも緊張しているんだね。
余裕が無いのか、落ち着きが無い。
それでも、姉さんに『 綺麗だよ 』と言ってくれた。
姉さんは、厳重装備な物だから、言葉を返すのもままならない。
変わりに私が『 ありがとうございます 』と返した。
…………変なの…………。


鳴海さん達が引き上げて、程なくして会場への移動を促された。
時間まで10分って所だった。
お父さんとお母さんは並んで姉さんに向かい合った。
私はその後ろから、お互いのやり取りを見ている。
姉さんは、自分でベールを上げて、お父さん達を見つめていた。

少しの沈黙が待合室を支配した。
姉さんの閉じられた唇が、かすかに震える。
下げていた視線をお父さんに向ける。
瞳には涙が溢れんばかりに溜まっている。
次の瞬間、その堰を切った。
横に駆け寄るお母さん。
姿勢を正して向き合っているお父さん。
涙を流しながら、一言一言丁寧に言葉を伝える姉さん。



『 ……私、……たかゆきくんと……幸せになります。 』



『 ……ああ、……心配は……していないよ…………。 』


その言葉を姉さんの目を見つめて伝えるお父さん。
その目尻から伝って落ちる物を拭う事無く、
自然と笑顔に変わっていく二人。

喜びの涙

悲しみの涙

寂しさの涙

嬉しさの涙

全ての感情を一杯にした笑顔。

複雑な想いがそれぞれの心を暖める。

自分の心がそれに寄って緩んでいく春の日差しを思わせた。




その姿を私は胸に刻みつけた。




    Last scene


教会の扉が外され、バージンロードを二人が歩いていく。
祭壇の直前で鳴海さんが待ち受けている。

一歩一歩、歩みを進めるお父さん。

一緒に歩く姉さん。

二人は何を考えているのだろう。

私も、いつかそんな日が訪れるのかな?




ライスシャワーに迎えられる二人。
それを祝福する人たちの後ろで、
お父さんとお母さんが見守っている。

季節は春。

誓いの儀式を祝福するかの様に、

桃色の花びらたちも舞い上がる。




ほら!

今

姉さんがブーケを投げた!








青空と桃色の雪の世界に花束が吸い込まれていく







         君が望む永遠SS『 Wedding BELL 』END
               04.03.23


    あとがき

突発的に思いついたので、話が要領を得ないかもしれません
『 ウェディングドレス着用聖誕祭 』
企画のバナーから、話を膨らませたものです。
先日、ちょうどTVドラマでも、
そんな場面を見たものですから
思い切って描いてしまいました。
私としては、もっと後に発表するつもりだった企画。
約3時間で描いてしまった物なのですが
如何だったでしょうか?
もしよろしければ、此処の掲示板にご感想をください。
  m(_ _)m



     

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