君が望む永遠SS
茜の休日






今日は夏休みも半ばに差し掛かった8月5日、
毎日続いた水泳部の練習も一時の休みに入っていた。
でも私は一人で毎日中学校のプールに練習に通っていたんだけど、
今日は姉さんにお昼に何も食べずに帰ってきて欲しいと頼まれたので
練習をお昼で切り上げて帰っていた。

「お昼を食べずに」と言われたときからずっと嫌な予感がしてたけど
やっぱり姉さんの料理の実験台になるんだろう。
姉さんの料理はいつも分量が大雑把なので何度か試作する必要があった
最近は練習があるからといって逃げてたけど、
今日の料理の気合の入り方はいつもの比じゃないので
多分お兄ちゃんとのデートに持っていく気なのだろう。
だから今日は姉の恋路のために犠牲になることにした。

「ただいま〜」
「あ、お帰り茜」
「もう料理始めてたのね、で何をお兄ちゃんに持っていくの?」
「え? 何で孝之君に持っていくって知ってるの?」
「最近のお姉ちゃんを見てたらばればれよぉ〜」
「ううう……」
「それで、何を持っていくの?」
「あのね・・・ミートパイ」
「ミートパイ? お姉ちゃんミートパイ何度も失敗してるのに
 なんでミートパイなの?」
「前に水月にね、孝之君がミートパイを大量に買い占めてるところを見たから
孝之君はミートパイが好きなのかもしれないって教えてくれたの」
「それで時々ミートパイに挑戦してたのかぁ
 でもいつもの失敗したミートパイを持って行ったら
 それが元で分かれようなんて言われたりしてね」
「えぇーー 孝之君はそんなこと言わないよ…多分」
「まぁ別れようなんて言われないように頑張って練習しよ」
「うん」

こうして姉さんのミートパイ練習が始まりました
今日は何とかおいしいミートパイができるようになるまで練習して
お兄ちゃんに持っていくミートパイは明日の朝に作ることになりました

挑戦すること十回以上、初めはパイの形を成さないドロドロの物体だったにもかかわらず
3回目くらいからパイの形になってきて十回目にはそれなりに食べられるもの
が作れるようになりました。
私が試食を始めたのは8個目くらいからですが、食べた個数も5個を超えて
そろそろ限界かも……

「できたっ、はい茜食べてみて」
「うん……うん、多分これなら大丈夫だと思うよ」
「それじゃこれと同じように明日作っていくわね
 ありがとう茜」
「何のこれしき、うっぷ
 それで明日これを持ってどこに行くつもりなの?」
「駅で待ち合わせになってるんだけど
せっかくだから眺めのいいところがいいかなっ」
「そっか、それじゃ海浜公園なんていいんじゃない?」
「うんそうしようかな、ありがとね茜」

ここまで手伝ってあの二人を最後まで見届けないなんてことはあるだろうか
いや、ない
やっぱり明日は姉さんにこっそり付いていてみようかな
見失ったら困るから途中までは一緒に行って駅直前で先回り
後は姉さんに橘町とは反対の欅町に練習に行くことにしておこう
あの二人はほうっといたら心配だしね


日も変わって8月6日、今日は作戦決行日
姉さんは昨日のお礼にといって私にも完成したミートパイを作ってくれた
このあたりが姉さんのいいところなんだけど、お兄ちゃんは分かってるのかな?
「お姉ちゃん、今日は私欅町で合同練習があるから駅の途中まで一緒に行っていい?」
「えっ」
「大丈夫だって、お姉ちゃんの邪魔はしないから」
「ほんとに孝之君をあんまりからかっちゃだめだからね」
「分かってるって、それじゃそろそろ行こ」

お姉ちゃんと一緒に駅まで歩いたけど、お姉ちゃんはずっと嬉しそうにしていた。
私も誰かを好きになったらこんな風に幸せそうな顔をして歩くのかな?
ちょっとうらやましいかな
駅前にいるお兄ちゃんを見つけてお姉ちゃんは走って行った
ここに来るまでよりも一層幸せそうな顔で
「おはよう、孝之君!」
「……おお、はる」
「こんにちわ〜〜〜!」
「!? うわああっ!! で、でたっ!!」
「あはははっ! ビックリした?」
「ご、ごめんね、駅まで一緒に行こうっていうから……」
「安心していいですよっ! 今日は邪魔しないから」
そう、今日は気づかれないように付いていくんだから
「当たり前だ! されてたまるかっ!」
「あははっまあまあ。……あっ! 遅れちゃう。ばいば〜い!」

さてとさりげなく先回り成功
制服は目立つから普段着に着替えて帽子とサングラス……我ながら完璧
着替えて橘町行きのホームに付くともう二人はそこに居た
そのまま気づかれないようにちょっとは離れた階段の影から見てたけど
あの二人…人気の無いホームで見かけによらずバカップル全開なのね
二人とも奥手そうだったのに…これが恋ってことなのかな

電車が来たのでさりげなく一つ後ろの車両に乗り込んだ
すかさずドアの向こうが見える位置に座った

お兄ちゃん…座るなりあくびするなんて、
もしかして緊張して眠れなかったのかな?
ってそのまま寝ちゃうの? いくらなんでもそれは無いと思うけどな
お姉ちゃんまで一緒になって…橘町にもうすぐ着くのに何やってるんだろ
えぇっ! お姉ちゃんまで寝ちゃうの?
あの二人って、やっぱりよく分からない
あぁ橘町過ぎちゃったよ……どこまで行く気なんだろ

あれから40分……ここどこなのよ…
あ、お姉ちゃんがおきた…笑ってるし……やっぱり意味不明ね
恋は人を狂わせるというのはほんとらしいわね
まだ寝顔を見ながらクスクス笑ってるし……でも何か幸せそうだな………

さらに20分ついに終点の白塚まで来てしまった
この電車はアナウンスで車庫に引き上げると言ってるから
先に下りて隠れるところ探さなきゃ
駅舎の影のベンチに座って待つこと3分…降りてこないよ……
何やってんだかあの二人は
あ、車掌さんに追い出された……ほんと見てるこっちが恥ずかしい
そのままベンチで帰りの電車を待つのかな?
あ…ミートパイを出してる
そっかここで食べるんだ、確かに何にも無い所だけど
空気がキレイで景色もいいし海浜公園よりもよかったかもね
私もミートパイ食べてみよ

パクッ………!? むぐぅっ!!

姉上一服盛りおったな……不覚!
最後の一回で砂糖とお塩間違えるなんて
最後に塩と胡椒で味を調えるのにそこでお砂糖なんか入れたら
アップルパイみたいな味のミートパイになっちゃってるよ
これはほんとに別れるかもしれない
お兄ちゃんが食べないように祈るしかないわね
あ…祈りもむなしくあっさりと食べちゃった
「んまい!」
こっちにまで聞こえるくらい大きな声でうまいって
これが?
これも恋のなせる業なのかな
これが恋ってことなのかな
こんなすごい味のミートパイを食べてそれでも寄り添って幸せそうにしてる
やっぱりお姉ちゃん以上にお兄ちゃんもすごいな
こんなに人のことを好きになれるなんて
いいなぁお姉ちゃん、羨ましいなぁ……って私何考えてんだろ
・・・・・・
もしかして、私お兄ちゃんのこと……
そんなのだめだよね、私はお姉ちゃんの妹で
……お兄ちゃんの妹なんだから……

もうすぐ帰りの電車が来るけどホームには二人だけだし
今出たら絶対ばれちゃうな
諦めて散歩でもして一本電車を遅らせようかな
これ以上見てる気にもなれないし
私はこのままお兄ちゃんがホントのお兄ちゃんになってくれるのを祈るしかないのかな・・・



あとがき
茜生誕祭用SS
茜ちゃんの誕生日がきてから25分、期限過ぎちゃったよ・・・_| ̄|○
誰にもこのSSのこと言ってないし来年まで置いとくかw
とか思いながら書いてるうちにできました。
今回は茜がミートパイ記念日に隠れて着いていくお話で、
茜が激しい味のミートパイを食べてもどうじない孝之に好意を抱いていくストーリーです
今まで茜が第1章で孝之のことを好きになっていく話がほとんど無かったので
自分で作ってみました





  

掲示板へ

君のぞのページへ