BACK TO THE PLACE!(その場所へ戻れ!)

BACK TO THE PLACE!(その場所へ戻れ!)


	 「膨大なエネルギー反応がそろそろくるわ。」
	 夕呼がそう言った瞬間に、カプセルが二人の目の前に現れた。
	 夕呼は、カプセルの蓋を開けた。
	 中には、寝ている表情の孝之がいた。
	「まりも、ちょっと足を持って。」
	 二人は、孝之の体を持ち上げて、近くのベッドに寝かせた。
	「夕呼、本当にこれでよかったの?」
	 孝之の寝顔を見ながら、まりもは言った。
	「さぁ、どうかしらね。」
	 夕呼は平然とした顔で、ふくみ笑いをしていた。
	 その瞬間、眩暈のようなものが二人を襲った。
	「うわっ、何?この頭がむずがゆくなるような感覚は?」
	「フフフ、ついにやったみたいね。」
	 しばらくすると、眩暈は納まった。
	「えっ?そうなの。鳴海くんってそういう関係だったんだ。」
	 眩暈が納まると、まりもはなぜか独り言を言っていた。

	「まりも、彼が起きるわよ。」
	 夕呼に促されて、まりもも孝之の顔を覗き込むと、彼は目を開け始めた。
	「おはよう、気分はどう?」
	 夕呼は孝之に向かって話しかける。
	「ここは?今、何年の何月ですか?」
	「ここは、あたしの研究所。そして、現在は1999年6月20日の14時10分よ。」
	「そうか、元の時代に戻ってこれたんだ。」
	 孝之は急に安心した表情になる。
	「まあ、あたし達にとっては、ほんの5、6分の出来事だったけどね。」
	 孝之は、とりあえず、起き上がった。
	「鳴海くん、大丈夫?いきなり眩暈が起きたりとかしなかった。」
	 まりもが心配そうになって孝之に尋ねる。
	「えっ、眩暈って...うっ...」
	「どうやら、来たみたいね。」
	「なんだ?この頭の中にたくさんのものが入ってくるような感覚は?」
	「過去を変えたから、それを修正するために、今、あんたの脳の中で新しい記憶が作られ
	ているのよ。」
	「あ、新しい記憶...」
	 しばらくすると、眩暈は納まった。
	「フフフ、新しい記憶が作られたって事は、過去を変えたって事よね。」
	 孝之は、じっくりとその新しい記憶の中身を思い出していた。
	 結果として、遙は事故に遭わなかった。
	 孝之が、慌てて、改札口を抜けると、そこで遙とぶつかった。
	 遙は孝之が来たことがわかると、待ち合わせ場所にトラックが突っ込んできて、もし、
	改札口で待っていなかったら、事故に遭うところだった。それを思い出すと急に恐ろしく
	なって、怖かったよ〜と言って、急に抱きついてきた。
	 それから、孝之は、猛勉強をして、なんとか現役で白陵大に遙といっしょに合格する事
	が出来た。
	 今は、遙といっしょに楽しいキャンパスライフを送っている。
	「そうか、そうなんだ、よかった...過去を変えられて...」
	「新しい記憶の余韻を味わっているところ、悪いんだけど、いろいろと検査したいことが
	あるから、服を脱いでくれない?」
	 孝之が、新しい記憶の中身を思い出しているときに、急に夕呼が声をかけてきた。
	「えっ?検査ですか?」
	「言ったでしょ。物理学と心理学の実験と(.......)。」
	「どんな検査をするんですか?」
	「そうね。簡単な健康診断とか血液検査とか脳波測定とか、心理カウンセリングとかね。」
	 それから、孝之はいろいろと検査を受けた。簡単な健康診断から始まり、頭部レントゲ
	ン写真や血液検査、脳波測定、心拍測定を受けた。
	 物理学者の研究室なのに、なぜレントゲンのような設備があったり、脳波計や心拍計が
	あるのかと孝之は疑問に思っていた。
	「へぇ〜、脳波や心拍数に異常はなし、か。それじゃ、あとはレントゲンと血液検査の結
	果を調べるから、それまでの間、カウンセリングを受けていて。まりも、あとは頼んだわよ。」
	 そういうと、夕呼は奥の部屋に入っていった。
	「涼宮(すずみや)さんか...いいわね。若いっていうのは。」
	 夕呼が奥の部屋に入った瞬間、まりもが孝之に話しかけてきた。
	「えっ、なんでそのことを?」
	「わたしにも来たの、眩暈。」
	「そうなんですか。」
	「実は涼宮さん、わたしのクラスの担任なの。」
	「クラスの担任って、もしかして茜ちゃんの。」
	「そう、新しい記憶では、涼宮さん、お姉さんのことをとても楽しそうに話しているの。
	鳴海くんのこともね。元の記憶では、一言もそんな事は言わなかったのに。」
	「そうなんですか。」
	「ねぇ、過去に行く前にわたしが言おうとしたことを覚えてる?」
	「いえ。」
	「それが、もし...全部夢だったら、そこから覚めたときに受ける精神的なショックは
	すごく大きいものになるはずだから...」
	 まりもは、孝之が過去に行く前に言いかけていたことを、言葉にした。
	「全部夢だったら...ですか?」
	「たぶん、その事実を知ったら、あなたは怒ってわたしたちを許さなかったと思うの。」
	「まあ、確かにそうですけど、怒ったり、許さなかったりはしないと思います。」
	「それは、過去が変わっているから言えるのよ。もし、そういう境遇に遭っていたら、た
	ぶん、さっき、言ったようになってると思うの。」
	「そうなんでしょうか。」
	「例えば、夕呼が鳴海くんを実験に誘った理由はわかる?」
	「いえ、なんで実験に誘ったんですか?」
	「あなたが、強烈な印象の過去を持っているからよ。夕呼のお姉さんって脳外科医でね。
	涼宮さんのお姉さんの担当医なのよ。それで、どこからか、あなたのことを聞いてきたの
	ね。」
	「そうなんですか。あの医者、患者のプライバシーがどうとかうるさく言っておきながら
	...」
	「夕呼の前では、どんなプライバシーも丸見えと考えていいわ。こんなことを聞いて、わ
	たしたちを恨んだりしていない?」
	「いえ、結果として過去を変えられたのでよかったと思っています。」
	「じゃ、それがもし嘘だったら?」
	「そのときは...わからないと思います。」
	「人間っていうのはね、結果によって、全ての感情が左右される、結果オーライな生き物
	なんだなって思うときがあるの。」
	「それは、確かにそうですよね。」
	 しばらく、まりもは孝之と雑談をした後、心理カウンセリングを行った。
	「えっ?森の中にですか?」
	「そう、この紙が森だと思って、そこに木とか、動物とか自分はどこにいるのかとかを書
	いてね。」
	「なんか、心理テストみたいですよね。」
	「心理テストみたいだけどこれでも、れっきとしたカウンセリングよ。この結果で、精神
	分裂病とかもわかるんだから。」
	「そ、そうなんですか。」
	 このような、心理テストを4、5パターン繰り返して、心理カウンセリングは終わった。
	 それと同時に、夕呼が奥の部屋から出てきた。
	「どう、まりも。心理カウンセリングは終わった?」
	「ええ、たった今、終わったところよ。見たかぎりでは精神病の心配はないみたい。」
	「そう、こっちの検査も終わったわよ。すべて異常なし。」
	「そう、よかったわ。」
	「フフフ、こっちもいいデータが得られてよかったわ。この実験の結果は次の学会で発表
	ね。今日のこの実験で、相対性理論が崩れることが証明できたわ。フフフ、前の学会であ
	たしをボロクソに批判したカタブツな学者の苦悩に歪む顔が見れると思ったら、楽しみだ
	わ。フフフ、本当に今から楽しみだわ♥」
	 相対性理論とは、物質がものすごい速度で動くと、その周りの時間がゆっくりと流れる
	という理論である。つまり、ウラシマ効果を利用して、二度と戻れない片道だけの未来へ
	の時間旅行はできるが、過去へは行くことができないとされている。
	 しかし、孝之は、現に先程、過去に行き、流れを変えた。つまり、孝之が過去へと行っ
	た時点で瞬間的に相対性理論が崩れたことが証明されたわけである。
	「フフフ、次のノーベル物理学賞は確実ね。批判された執念はすごいってことをみせてあ
	げるわ。フフフフフ。」
	 夕呼は確実に自分の世界に入ってしまっている。
	「それじゃ、鳴海くん。長いこと引き止めて悪かったわね。実験に協力してくれてありが
	とう。」
	「そんな、お礼をいうのはこっちのほうですよ。」
	「そうね、夕呼に感謝すべきよね。こんな体験、二度と出来ないかもしれないからね。」
	「本当にありがとうございます。」
	「それじゃ、涼宮さんによろしくね。あっ、あと、お姉さんとも仲良くね。今度、高校に
	来れる機会があったら、いらっしゃい。もちろん、自慢の彼女を連れてね。」
	「はい、機会があれば、ぜひ。」
	 孝之は、二人にお礼を言い、夕呼の研究所を後にした。

	 孝之は、家に帰る前に、遙に会っておこうと思っていた。
	 確かに新しい記憶では、遙とは毎日会っているということになっているが、まりもがひそ
	かに言った、もし、嘘だったらという言葉が気になった。
	 すぐに、遙に会って、事故に遭っていないことを確認したい。
	 そんな想いのほうが強かった。
	 遙の家の前まで来たとき、インターフォンを押そうとして、一瞬手が止まった。
	 まりもの言葉が、頭をよぎったからである。
	 だが、新しい記憶の遙は、事故に遭っていない、大丈夫だと自分に言い聞かせた孝之は、
	意を決して、インターフォンを押した。
	「は〜い、どなたですか?」
	 インターフォンから、聞き憶えのある声が聞こえる。
	「あの、鳴海ですが。」
	「えっ?孝之くん。ちょ、ちょっと待ってて。」
	 インターフォンの声が慌しく聞こえてきた。
	 5分後、玄関のドアが開いた。
	 そこには、去年の事故に遭った日と同じ服装をした遙が立っていた。
	「孝之くん、どうしたの?急に。家に来るなら電話でも入れてくれればよかったのに。」
	「あっ、ごめん。すぐにでも遙に会いたかったから。」
	「えっ?」
	 遙の頬が急に赤くなる。
	 その瞬間、孝之が急に遙を抱きしめた。
	「えっ?ちょ、ど、どうしたの?孝之くん。こんなところで、恥ずかしいよ。」
	「遙ぁ〜、よかった、よかったよ〜遙ぁ〜」
	 孝之は、遙の姿を見て安心し、緊張が解け、遙の胸で泣き出した。
	「どうしたの?孝之くん?大丈夫?」
	「ごめん、遙。今はしばらく、このままでいさせて。」
	 遙は、状況がよくわからなかったが、
	「うん、いいよ。よくわからないけど。孝之くんの気が済むまで、ずっとこうしているか
	ら。安心して泣いていいよ。」
	 しばらく、孝之は、過去が本当に変わった事実を認識して、しばらく泣いていた。
	 現在は、1999年6月20日日曜日。
	 玄関のドアから興味本位で様子を覗いている、茜の姿があったことは、二人には知る由
	もなかった。

				  ―BACK TO THE PLACE!(その場所へ戻れ!) 終―


あとがき どうだったでしょうか?True Endの終わり方というのは。 Bad Endと比べてどちらがよかったでしょうか。 なぜ、まりもが心理カウンセリングが出来るんですか?という細かい突っ込みはしないでください。 質問されても、「大学で心理学を専攻して、心理カウンセリングの資格を取得しているから」という 絶対にありえない?回答でぼかしますので(笑) まだ、Bad Endを読まれていない方は、こちらのほうも読んでみてください。 全ては、読者である、あなたの判断に委ねることにします。

         Bad Endへ  

  

掲示板へ

君のぞのページへ