「お邪魔します。」
「いらっしゃい、孝之くん。」
今日は、ひな祭り。
遙の家は毎年ひな壇を飾ってあるという事で、孝之は遙の家で一緒にひな祭りを楽しむことになった。
「ごめん、俺ちょっとトイレ。」
「うん、先に行ってるからね。」
先にひな壇が飾っている部屋に遙は入った。
目の前にあるひな壇の一番上を見る。
「お内裏様...」
思わず、手に取る。
「うふふ、孝之くんに似てる。」
遙の手がお内裏様の顔に触れたとき。
ポロッ。
「え?」
下を見ると、畳には人形の首がある。
手に持っているお内裏様には首から上の部分がない。
という事は...
「はわわわ、お、お内裏様の頭が取れちゃった...どうしよう...」
あわてて遙は周りを見やる。
三面鏡の机の引き出しの中に瞬間接着剤があったのを思い出す。
急いで、瞬間接着剤を取り出し、お内裏様の頭をくっつける。
「よかった、ちゃんとくっついて。」
お内裏様を元の場所に戻したとき、ちょうどトイレから孝之が部屋に入ってきた。
「ごめん、ごめん。」
「あ...た、孝之くん、おかえり。」
「どうした?遙。なんか慌ててるみたいだけど。」
「そ、そんな事ないよ。うん。」
そのとき、玄関の声から声が聞こえてきた。
「たっだいま〜!」
「あっ、茜が帰ってきたみたい。」
茜はまっすぐにひな壇のある部屋にきた。
「たっだいま〜!あ、お兄ちゃん、来てたんだ。」
「おかえり、茜。」
「お邪魔してるよ、茜ちゃん。」
茜はひな壇を見てつぶやく。
「お姉ちゃん、大丈夫だよね。あれ。」
ピクッ!
遙の顔が硬直する。
「どどどどど、どうしたの?突然?」
「思いっきり動揺しているお姉ちゃんがどうしたの?って言いたいよ。」
茜はお内裏様を手に取る。
「あ、茜!」
「あれ、ちゃんとくっついてる。もしかしてばれちゃったのかな?」
「え?どういう事なの?茜?」
「えーとね、去年のひな祭りのときにひな人形で遊んでいたら、お内裏様の頭が取れちゃって。
やばって思ってね、ご飯粒でくっつけちゃった〜ってわけよ。」
「ご飯粒で...」
「くっつけた?」
遙と孝之は驚きの表情をあげる。
「でも、よかった。昨日、ひな壇を並べたときは、ばれるかどうかヒヤヒヤものだったけど、
これで今年は大丈夫。」
と笑顔を見せる茜。
「ほんと、よかった...」
遙は力が抜けてその場にへたりこんだ。
「どしたの?お姉ちゃん?」
こうして、三人は今年のひな祭りを楽しんだ。
その後、甘酒に酔った遙が、瞬間接着剤でくっつけた事を家族の前で話してしまい、
茜が両親から怒られたことはいうまでもなかった。
ついでにいっておくと、甘酒(アルコール分1%未満)で酔う遙は遙伝説として、また新しい伝説をつくった。
―二人のひな祭り 終―