よいしょ、よいしょ、よいしょ。
おこじょの ハルは、きょうも いっしょうけんめい
ちいさいからだで おおきな おかを のぼります
よいしょ、よいしょ、よいしょ。
ハルは、おかのてっぺんへ つきました。
おかのうえには、すっかり おおきくなった
きがありました。
そして、その木に手を置き、丘のてっぺんから街の風景を見つめている私。
街並みはいつもと変わらない...
でも、私たちの関係は変わってしまった...
いつからだろう。
絵本を出版したときからかな?
もう一度、四人であの丘に集まることを願っていたのは...
もしかしたら、気づいているかもしれない。
そう思って、私は毎日丘を登り続けた。
おこじょのハルのように...
来るあてなんて、ないのに。
絶対来る保障はどこにもないのに。
でも、もしかしたらという不確実な気持ちが、私を衝動に駆り立てる。
これで、十日目。
もう、次の絵本の打ち合わせも始まっている。
みんなに気づいてほしくて書いた絵本。
次の絵本が出たら、この絵本のことも忘れられてしまうのかな?
孝之くん、どうしているかな?
水月、今頃、どうしているのかな?
平くん、どうしているのかな?
茜はアテネオリンピックに出場したことを知っているのかな?
風が気持ちいい...
そろそろ戻らないと、編集の人に何を言われるかわからない。
振り返ると、下り坂。
私の家へと続く下り坂。
でも、降りていこうとは思わなかった。
え?なんで?
私が今望んだものが目の前にある。
だったら、なんで驚いているの?
だったら、なんで涙が出てくるの?
私は見つけたよ。
ハルと同じ、「ほんとうのたからもの」を。
私にも見つけられたんだ。
今、やっとここで。
―「いつもの丘の上で」 終―