君が望む永遠ifSS 『 永遠なる絆 』 作品設定 君が望む永遠の舞台を元に、彼らの来世を書いてみた作品です。 『永遠』という言葉や、おまじないのフレーズを考えていたら、ふと 『生まれ変わっても一緒にいられるっていいだろうなぁ』 などという考えが浮かんできたので、形にしてみました。 登場人物は 霧沢 孝文(きりさわ たかふみ) = 鳴海 孝之 奏 遙那(かなで はるな) = 涼宮 遙 霧沢 あやね(きりさわ あやね) = 涼宮 茜 奏 水那(かなで みな) = 速瀬 水月 中野 慎(なかの しん) = 平 慎二 という位置付けになっています。 彼らは、転生した現世で再び出会っていくわけなのですが・・・・・・・・・。 |
〜 prelude 〜 『夜空に星が瞬くように』 時が廻り 季節が廻る 人が廻る輪廻のように 『解けた心は離れない』 幾千 幾万回の廻りの中で 彼らは再び出会うだろう 『たとえこの手が離れても』 失くした何かを 捜し求めるかのように 『二人がそれを忘れぬ限り』 おぼろげな記憶の海に溶けた 一滴 一滴を 紡いでいくかのように・・・・・・・ |
第1話 出会い 月と星が時折、雲に隠れながらも淡く輝く夜空 梅雨には程遠い時期 少し夏を思わせるような緑濃い草木と まだ春を抜けきらぬ涼しい風がサヤサヤと優しい音を奏でる だがとある家からは、それに覆い被さるけたたましい声が響いていた 「いってーな、ちくしょうが!」 一人の少年が鼻をさすりながら、家に着いてからそこかしこに怒鳴り散らしていた。 「まぁまぁ、文兄・・・。物に当たっても仕方ないしね。 それにあれは、文兄が不用意に知らない女の子に声かけるのがいけないんだからー」 と、それをなだめている少女が一人 手には軟膏の入った薬箱を持っている。 「いいか、あやね。ここは人間の急所なんだぞ?! かすっただけでも涙が出てくるんだぞ??! あれは確実に俺を仕留めようとしていた・・・・・。 そりゃあ・・・、確かに俺にも非はあったと思うが、命を狙われにゃならん程か?」 「はぃはぃ。 ほら、薬塗るからじっとしててよね。 うわぁ・・・・、結構腫れてるねぇ・・・・・・・。」 珍しいものを触るように、あやねは、赤く腫れた鼻の頭をちょんちょんとつついてみた。 「っつ!痛いからあんまり触るな・・・。 薬塗るなら早いとこ塗ってくれ」 「あははははっ、はいはい。 ご飯の準備もしなくちゃいけないしね、早く塗っちゃいましょ」 --霧沢孝文、霧沢あやね 彼ら兄妹は幼い頃に両親を亡くしてからは、親戚のところで世話になっていた。 だが、あやねの高校進学を機会に、両親が遺してくれた昔住んでいた家に移ることにした。 いろいろと反対にもあったようだが、それから1年。 なんとかうまくやってきていた。 これまでは何事もなく平和に過ごしていたはずなのだが・・・。 今日のこの騒ぎの発端は約1時間前に遡る-------------- 孝文は、あやねに駆り出され、夕食の買出しのついでに、日用品の買出しにつき合わされていた。 目的の買い物が終わったあとのこと。 あやねが本屋にも用があるというので、孝文は駅前にあるベンチに腰掛けて待つことにした。。 5月も下旬に入り、16時を過ぎたというのにまだ明るく、人の往来も絶えない。 慌ただしく行く人 子供を連れている人 会話しながら行く人たち いろいろな人たちがこの場所を通る。 そんな中、駅の改札口に近い電話ボックスの横で、誰かを待っている様子の少女が目に入ってきた。 恐らく待っている相手はずいぶん遅れているのだろう 時計を見ては右に左にキョロキョロしている。 リボンで束ねた長い髪に、白を基調にした服装がよく映えていた。 同い年くらいかな?と考えていたそのとき、頭に走った鈍い痛みに孝文は顔を歪めた。 同時に孝文の視界は歪み、今まで見ていた景色が違うものへと変わっていった。 次の瞬間、孝文の視界を埋めたのは 悲惨に形を変えた車と電話ボックス・・ 粉々に飛び散ったガラスの欠片・・・ それを取り巻く人だかり・・・ そして・・・血の海・・・・・ 「ぐ・・・・っ・・・?! 何だこりゃ・・・・・・・・・っ・・・・??!」 目を押さえ、頭を振るとその視界は途切れ、再び少女が視界に入ってきた。 「な・・・、何だったんだ・・・・、今の・・・・・・・・・・?」 もう一度頭を振って辺りを見回し、自分の居る場所を確認する。 そして再び少女を視界に捉えたときだった。 「なんか、気分・・・わる・・・・・・。」 背筋に悪寒が走る 視界に映る他の誰でもない 『その少女』が『その場所にいる』ということ その状況に孝文は、心臓が握り潰されそうな程の不安を感じずにはいられなかった。 「おっまたせー、文兄。遅くなっちゃったよね。さ〜、帰ってご飯の準備しよ?」 「悪い、少し待っててくれ」 孝文は立ち上がると、「荷物も頼む」とあやねに言い残して、その少女の下へと歩み寄っていったのだった。 ----------------------------------------------------------------------- 「遅いなぁ・・・。」 しきりに周りを見回していた『奏 遙那』は、半ばあきらめたようにうなだれる。 自分の時計を見ると16時をまわっていた。 もうかれこれ30分はここに立ち尽くしていることになる。 連絡が取れればよかったのだが、自分の携帯電話はちょうど電池が切れてしまっていた。 つま先を見つめ、深いため息をつくと、不意に上から影が落ちる。 顔を上げると、見覚えのない少年が自分の前に立っていた。 どこか顔色が悪いようにも見えた。 だがそれ以前に、目の前にいるのが知らない人間であることが、遙那を不安にさせていた。 --------------------------------------------------------------------- 少女との間に妙な沈黙が流れている。 孝文は、少女へ駆け寄ったのはいいものの、なんと声をかけたらいいのか戸惑ってしまっていたのだ。 先ほどから見上げている少女の目には、不安と警戒が映し出されていた。 と、孝文に再び鈍い痛みが響く。 今度は視界は歪まないが、あの凄惨な光景が思い出された。 「あの・・・・、だいじょうぶですか・・・・?」 急な痛みで顔を歪めたからだろう。 下から覗き込むように、不安と心配が入り混じった少女の声が孝文を現実に引き戻す。 「あぁ、大丈夫、大丈夫・・・・。」 少女はほっと胸をなでおろした。 同時に、自分に対して害意がないと判断したのか、少し警戒を緩めたようだ。 「でも、何だか顔色が悪いような気がしますけど・・・」 「ほんとに大丈夫だから。 ってこんな話をしようとしてたわけじゃないんだ! 突然で悪いとは思ったんだけど、キミがここにいると何か嫌な・・・、じゃないな。 なんだか・・・、危ない感じがするんだ。 だから急いでもう少し向こうに・・・・」 そう言いながら、孝文はその少女の手を取り移動しようとした。 が、突然強い力で肩をつかまれる。 「あんた・・・、遙那をどうするつもり・・・?」 明らかに怒気を含んだ声が孝文の背後で響く。 「あぁいや、ちょっと向こうの広いところまで移動をっ!?ぐぁっ!!!」 振り返り、孝文は声の主に状況を説明しようとした。 が、目の端で揺れる髪を捉えたと同時に孝文の顔面に拳が入り、短い悲鳴をあげる。 「何よ!その手はー?!!」 「ってーな!!ちょっと移動してもらおうとしただけだろ?!」 鼻に思い切りいいのが入ったので、ツンと来る感覚と共に、だんだんと涙が溢れてくる。 「とかなんとか言って、そのままこの子をどっかに連れて行くつもりだったんでしょう?!!」 「なっ?!違うっ!!」 「どーだかっ!!」 睨み合いから、さらには人攫いだの馬鹿力だのという言葉が、しばらく飛び交っていた。 「あ・・・、あの・・・っ!!」 と、二人のやり取りを見ていた『遙那』が割って入る。 自分を挟んで二人が起こしていた騒ぎに、人垣ができるほど野次馬が集まってきてしまっていたのだ。 その状況に、遙那はすっかり顔を赤くして俯いてしまっている。 そんな様子の遙那に、少女は徐々に落ち着きを取り戻してきた。 周りの人だかりに気がつき、とたんに居た堪れなくなったのだろう。 孝文を振り払うと、遙那に向き直る。 「あ、ごめん。ごめんね遙那。ちょっと用事が長引いちゃってさ・・・。 ほらほら、こんな人攫い放って置いて行こ?」 そう言うと、遙那の手を引き、その場を後にしようとする。 「あ、水那ちゃん。で、でも・・・・・・」 遙那は『水那』と呼ぶその少女に手を引かれながら、顔を押さえ場に座り込む孝文に後ろ髪をひかれていた。 「いいのいいの。早く行かないと私まで攫われちゃうわ。」 そんな遙那を水那は特に気に留めることもなく、そのまま手を引き、人並みの中と消えていってしまった。 「だから違うって言ってるだろーがーーー?!!」 だが、孝文の声は届くはずもない。 彼女たちはしっかりと見えるようになってきた視界からは、もういなくなってしまっていたのだから。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・ ・ で、今に至るわけなのだが・・・・・・・・・・ --------------------------------------------------------------- 「はい、おしまい。 文兄、もういいよ。」 「ん、サンキュー。」 軟膏を薬箱にしまうあやねは、先ほど孝文が声をかけていた少女のことが気になって仕方がなかった。 話したこともない人 まして初対面の人に話しかけたことなどない そんな孝文が、自分から声をかけたとなると、なおのこと気になってしまう。 しかし、その相手の少女たちと孝文の周りには、すぐに人垣ができてしまった。 あやねには、かろうじて人並みの中に消えていく後ろ姿を確認することしかできなかったのだった。 ――(綺麗な髪だったなぁ・・・・・・。) 動きに合わせてサラサラと揺れ動き、絡まることなく人の間を抜けていく長く艶やかな髪。 その光景は、気にすれば気にするほど、脳裏から離れなかった。 「ねぇ、文兄・・・・・。 その・・・、ケガの原因のことー・・・、なんだけど・・・・・・・。」 「あぁ?さっきも話しただろう? 馬鹿の上に『大』がつくくらいの力のゴリラ女に殴られたんだよ! それも振り向きざまに!!理由も聞かず!!! 次ぎ会ったら絶対締め上げてやる!!」 孝文は、ボキッボキッと指を鳴らし、拳を握り締めた。 「あ、いや・・・・。 そっちの人じゃなくて、文兄が声をかけてた女の子のことなんだけど・・・。 文兄から知らない人に声をかけるって珍しいよね? だから、何があったのかなー・・・、なんて・・・・・。」 ちょっと冗談を含んだような言い回しで、気になっていた本題をぶつけてみる。 すると、孝文の力いっぱいに握り締められた拳の震えがピタッと止まった。 そしてとたんに黙り込み、何かを考え込むかのように真剣な顔つきになる。 その後、不安でたまらないというような顔を見せたかと思えば、何かを思い出したように、みるみる顔が青ざめていった。 ―――(うわー・・・、これは聞かない方がよかったのかな・・・・・。) 「ごめん、やっぱりいいや・・・。それより早くご飯にしよ? いくらナンパに失敗しても、お腹は空くでしょ??」 「・・・ん?あぁ、俺、今日は晩飯いいわ・・・・、って。 お前、何勘違いしてやがる?!」 「あれ?違った??じゃあ、攫うつもりだったとか???」 クスクスと笑いながら、あやねはわざと大きく肩をすくめて見せたが、『攫う』の単語に反応した孝文は、再び声を荒げる。 「攫うってなんだ、攫うって!? 大体、俺が人攫うような人間かっつーの!!」 「文兄・・・、それは知らない人から見たら分からないって・・・・・・。」 あやねは肩をすくめたまま、あきれたように大きなため息をつく。 「やかましいっ! それにあの女と同じ事言うな!! あー!思い出しただけでも腹が立つーーー!!!」 「もう分かったから、大きな声出すのやめてよね・・・。 ご近所さんに迷惑だよ・・・・・・・・。 で、ほんとに晩御飯いらないんだね?」 「あぁ、風呂入って寝る!」 「ん、わかった。 でも、軽くつまめるものは作っとくから、お腹空いたら食べてよね。」 孝文は、「あぁ」と背中越しに片手だけあげて答えると、そのままリビングから出て行ってしまった。 扉の閉まる音がして、廊下を歩く足音がだんだんと聞こえなくなってくると、あやねはすくめていた肩を大きく落とした。 あやねには、孝文の遠のいていく足音が、そのままどこか遠くに行ってしまう、そんな気がしてならなかった。 「夜空に星が・・・、瞬くように・・・・・・・・・。 ずっと・・・・・・・、一緒・・・・・・・・・・・・・・。」 うわごとのようにポツリポツリと呟くあやねの声は、いつの間にか振り出した雨の音に吸い込まれていった。 |
掲示板へ |
君のぞのページへ |