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君が望む永遠SS 『 letter 』 |
夏も終わりに近づく 耳に残るは、儚く聞こえる蝉時雨 そして響き始めるは、虫が奏でる次の季節への前奏曲――――――――――――――― 「えーと・・・、これを私にどうしろと・・・・・?」 目の前に積み上げられている綺麗に包装された箱や袋の山を見て茜に困惑の表情が浮かぶ 「あ、それ全部茜のファンの人たちからの誕生日プレゼントだって。 やっぱりオリンピックの金メダリストともなると違うよね。」 と、『日本の美少女スイマー金メダル!』という表紙のスポーツ雑誌を広げながら、事も無げに遙が言った。 「あのねぇお姉ちゃん。人事みたいに言わないでよね・・・。 好きでこんなに有名になったわけじゃないんだから。 それに、だいたいなんでこんなに大勢の人に家の住所が知れ渡ってるのよ〜・・・。」 茜は視線を遙から再び箱の山に戻し、『はぁ・・・』とため息をつく。 -----ピンポーン 「あ、また来たみたいだよー。」 ぱたぱたと遙が廊下を駆けていく。 しばらくして戻ってきた遙の荷物を見て、茜はまたひとつ大きなため息をつくのであった。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「これはこっち・・・、それはこっちで・・・・・・・、これとこれは向こう・・・・。 あーもう!箱とか袋とかしばらく見たくないぃー・・・・。 第一、知らない人からもらったってどうしていいか分からないのに・・・・・・。」 茜は半ばかんしゃくを起こしながら送られてきたものを分類していく。 「茜。」 「何?また何か来たの・・・・・??」 あちこちに散らばった空箱と、うんざりして疲れきった茜を見て遙は苦笑を浮かべるが 「ううん、茜宛に手紙みたいなのが来てたから」 はい、と白い封筒を茜に渡す。 「ん?誰からだろう・・・・。差出先が書いてない・・・・・・。 それに切手も貼ってないし、投函印もないし・・・・・・。」 裏と表を見て、茜は首をかしげた。 「中に何か入ってるのかなぁ・・・」 耳元でその封筒を振ってみるとかさかさと音がする 「むぅ・・・・、気味悪い気もするけど、ちょっと気になるし・・・・・。」 ピリピリと封筒の口を破いて逆さまにしてみると、中から薄いピンク色をした綺麗な貝殻が数個落ちてきた。 「貝殻・・・ねぇ・・・。」 「ん?その貝殻・・・、たしか香月先生の病院裏の海岸によく落ちてるやつじゃない? じゃあ、この手紙はこの近くの人からなのかな」 茜の肩越しにその貝殻を見ていた遙が言った。 「あぁ、私も見たことある。お姉ちゃんが入院してたときに裏の海岸よく行ったから。」 そう言いながら茜は封筒の中に残っていた手紙を広げてみる 「あ・・・・・。」 「ん?なんて書いてるの?」 もう一度、遙が茜の肩越しに広げられた手紙を見ると 『 おめでとう それから・・・、ありがとう・・・・・・・・。 水月・孝之 』 「水月・・・、それに孝之君も・・・・・。」 「先輩もお兄ちゃんも覚えててくれてたんだね・・・・。 それに、見ててくれた・・・・・・。見ててくれてた・・・・・・・・・。」 短くポツポツと書かれていた手紙に、止まっていた時間が動き出したように茜が弾ける 「ちょっ、ちょっと茜どこ行くの?!」 「まだ近くにいるかもしれないでしょ!?その辺、探してくる!!」 何か羽織るのも忘れて、外へ駆け出していく。 学校へ--- 駅へ--- 病院へ--- ・ そしてあの丘へ ・ 2人に関して、記憶に残っている全ての場所へ 人にぶつかっても 躓いてこけても 走って、走って 息も絶え絶えになりながら走り続けた だが、日が落ちても茜が二人を見つけることはなかった。 疲れ果てて家に帰り着くと、遙が家の前で茜の帰りを待っていた。 「ごめん・・、お姉ちゃん。お兄ちゃんと水月先輩・・・、見つけられなかった・・・・。」 そっと遙が茜を抱きしめる 「今、この時じゃなくてもまた会えるよ・・・・。 きっと、また会えるから・・・、いつの日か・・・・・。」 「うん、きっと会える・・・よね・・・・・・。 今度は笑って、みんなで・・・・・・・・・。」 ――――水月先輩・・・。 お兄ちゃん・・・・・。 私はこれからも頑張っていきます・・・ 今は会えなくてもいい でも・・・ でもせめて、どこかで見守っていて下さい・・・・・ 『letter ---fin』 |
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