君が望む永遠SS 孝之の出した答え |
「どうしたんだ? わざわざ時間指定までして」 「うん……どうしてもね、3人でお話ししたかったの……」 「ふうん……まあ……いいけどさ」 「でも遙、慎二をのけ者は可哀想だぞ? あれでも結構繊細なんだぜぇ……」 「それは……」 遙はそこでもごもごと口ごもってしまった。 …………。 「なあ、さっき茜ちゃんとすれ違ったけど…… ひょっとして俺たちと会うから帰したのか?」 「……うん」 …… なんだ? なにがどうなってんだ? 「一体……どうしたの?」 「あのね……孝之君、水月……ふたりに聞きたいことがあるの……」 「なんだ?」 「…………孝之君と水月は……付き合ってるんだよね?」 「え……?」 突然。 まさか遙の口からこうもはっきりと出てくるとは思っても見なかった言葉だった。 思わず水月と顔を見合わせる。 オレも……オマエと同じような顔して驚いているんだろうな。 「べ、別にっ! その……何がどうっていうわけじゃなくて…… 何て言うか……確認っていうかっっ!」 「……だ、誰かが……そんなことを言ったの?」 「え? あ、うんん……違うよ。 誰にも……聞けないよ、こんなこと……」 「…………」 「でもっそのっ……話をしてるとわかるっていうかっ……感じるっていうか……」 「遙……」 「あっ! 別にね……もしそうだからって、責めようとか、 怒ろうとかそういうんじゃなくて……えっとええっと……」 「…………」 「そ、そう! 私たち友達じゃないっ! この3年間で何が起きたのか……知りたがったって……だめ?」 遙は、俺と水月の顔を交互に見比べている。 オレも、遙と水月に顔を交互に見比べた。 水月も同じだ。全員それぞれの顔を交互に見やってお互いを牽制していた。 ……どう答えよう? 言うなら今しかない。 水月との「約束」を果たすって、今以外のいつできるんだ!? いや……でも……今ここで「そうだよ」って答えたら… …遙はどうなってしまうんだろう? ようやく本当の意味で目を覚まして、 これからがんばっていかなきゃ行かないってときに……。 「……ご、ごめんっ! 変なこと聞いちゃったね!! その……怒ってる……?」 遙が焦っている。 黙ってていいことじゃない。 水月も俺を見ている。 黙っていればいるほど、遙が不安になる。 水月だって不安になる。 こんな場面で黙るなんてこと……許されない。 言うことは決まっている。 それを口にするかどうかなんだ。 やはり、今しかない! 「その通りだ」 「!?」 「…………」 言った……。 やっぱり言うなら今しかない。 水月と付き合っていること……これはまぎれも無い事実なんだ…… もしも今言わなければ水月も…遙もいずれ傷つくことになる だから……多分……間違って……ない。 病室に沈黙が訪れた。 空気すらもその動きを止めたんじゃないかってくらい、息苦しい。 「……はぁ……」 遙が天井を見上げ、横に視線を向け、目を閉じて……顔を向けた。 「仕方……ないよ。 もう3年も……経ってるんだから……」 「遙……」 「それに……ほら、私覚悟決めてた訳だからっ! なんか、やっぱりね〜って感じ!!」 遙は笑っている。 ……笑っている。 遙が一番傷ついているはずなのに…… 覚悟なんか決められるはず無いのに…… 本当に正しい選択なんてあるんだろうか…… オレがどんな選択をしても……結局誰かを傷つけることになる 恋人を失う悲しさを一番知っているはずなのに そのオレが今度は悲しみを負わせる立場になるなんて…… あの後、遙は友達でいようと言っていたような気がする オレもそんなことを言った気がする… オレは大切な人を失う悲しみを知っている 大切な人が同じ思いをすることにオレは耐えられるのだろうか このまま3年前のオレと同じようになっていくのを ただ見ているのは、あのときよりもつらいんじゃないだろうか…… 横では水月が歩きながら泣いている…… 人目も遮らずに…ただ泣いている…… 「……りが……う……」 「え……?」 ……………。 「ありが……とう……っくぅ……」 「…………」 水月は涙を拭こうともせず、1歩2歩近づいてきて、 オレの胸に顔を埋めた。 「……水月…………」 「うわああああ…………」 オレの胸に顔を押しつけて、声を上げて泣き始めた水月。 −−ありがとう それは、どういう意味なんだろう? オレが遙を選ばなかったということなんだろうか……… それは…やはり水月を…水月を選んだということなのだろうか…… あの場で嘘をつくことは不可能だったと思える。 だからオレは、遙の質問に対して正直に答えた。 嘘をつくこと……これは遙にとってもあまりに酷い。 ようやく目覚めたと思ったら、訳の分からない世界に放り出され、 知っている筈の人間もまったくの別人になっている……。 そんな遙に、オレは……どうしたって嘘なんかつけなかった。 それにあそこで嘘をつくということは水月との3年間を否定することになる。 でも……だけど…… 水月は、一通り泣き終わって、まるで眠っているんじゃないか と思えるほど静かに、俺の腕の中にいる。 オレが声をかけるのを待っているのかもしれない。 でも……だけど……オレは…… あの状況で、付き合ってることを正直に言ったら、 そりゃ水月を選んだことと同じ意味になるさ。 だから遙だって……あんなふうな態度をとったんだ。 だから水月だってこんな風に涙を流したんだ。 でもオレは…水月が…ただ嬉しかったから涙を流しているとは思えない。 もしそうなら抱きしめたときキスのひとつも求めてきていたはずだ…… 考えるまでも無い……水月もつらかったのだろう…… 遙との仲はオレよりも水月のほうがずっと長い 水月も…あの遙を見て自分の身を裂かれるよりつらい思いをしていたのだろう だから今泣きつかれてここにいる……… 水月を選ぶ……そのことに不満なんかない。 遙の質問に答えるときだって、そのことは考えたさ。 そうなったっていいと思っていたさ。 だから付き合ってるって答えたんだ。 いくら時間が流れても、いくら水月を愛しても……… 遙に対しても同じ感情を持っていることは隠しようが無いことじゃないのか 水月だってそれは分かっていると思う……むしろ分かっているはずだ 正直、気持ちの落ち着けどころが無い。 迷っている…… 正しい答えなんてあるのだろうか……… ふと見ると、水月がオレの顔を見上げていた。 「…………」 「……さあ、帰ろうか」 泣きはらした顔を見ると、そんな優しい言葉が出てくる。 「……うん」 そして、その言葉にいくらか安心して…………こうして、 水月はオレに腕を絡めてくる……そっと……静かに…… どうしてオレは、そんな態度をとってるんだろう? 水月の顔を……見るのが辛い。 「孝之……」 「…………」 水月の顔を見ることができなかった…… もし見たら…今水月を見たら…自分がどうなってしまうのか怖かったから…… なんでこんなことになった? オレのせいか? オレが悪いのか? こんなに……罪悪感や、いろんな思いを心に抱いて………辛い思いをする。 どうしてだよ……… 「……それじゃ」 改札を出ると、突然水月がそういってオレの前に立った。 「あぁ……そうか……送っていこうか?」 「いいの…今日は…もう胸がいっぱいで……逆に、 孝之といても時間の過ごし方、迷っちゃいそう。 …たか………」 「………?」 「あ……あはは……な、なんか変だな……あはっ……」 一生懸命笑おうとするが、すぐに笑顔が曇ってしまった…… 「ご、ごめんっ!帰るね」 「…………」 「ねぇ…孝之」 「なんだ?」 「遙のお見舞い……もう行かないなんて言わないよね?」 「え?」 「たぶん……このままじゃだめだと思うの……だから……」 「………………ああ」 水月はそう言って、帰っていった。 たぶん水月にはオレの気持ちが伝わってしまったのだと思う…… その後ろ姿には、オレが3年間を認めたことの安心感と またそれとは別の不安が漂っていた。 ………水月も……このまま自分が選ばれることを望んではいないのかもしれない…… オレの態度がはっきりとしないばかりに…… また水月に迷惑をかけることになるかもしれない…… でもオレは無理やりにでも答えを出すべきなんだろう。 遙が俺たちのことを認めてくれたんだ…… 水月を選ぶにしても…また遙に戻るにしても 早く答えを出すことが正しいことだと思うから…… 翌日、オレは遙のところにまたお見舞いに行った…… でも……病院の前まで来たのに後一歩を踏み出せないでいた。 昨日遙に水月と付き合っていることを伝えて、 今日は何を話せばいいのかわからなかったからだ。 遙は…遙は一番つらいはずなのにオレ達の関係を認めてくれたんだ。 だから普通に友達として会えばいい、そのはずなのに一歩が踏み出せなかった。 一番割り切れていないのは……オレ自身だ…… こんな状態を続けていたら、せっかく認めてくれた遙だって悲しむと思う。 遙とも…友達であり続けるために……今日は絶対に会わないといけない! そう決心したときにはすでにあたりが暗くなりかけていた。 時計を見ると面会時間ぎりぎりだった。 オレは少し急ぎながら遙の病室に向かっていた… 「あら、来たの?」 「えっ!?」 振り向くと香月先生がいた。 「もうそろそろ面会時間も終わるけど、…今日は少しくらいオーバーしてもいいわよ」 「いいんですか?」 「どっちかって言うと、涼宮さんのためのご褒美なんだけどね」 「え……?」 「彼女ね、とても頑張ってるのよ、リハビリ」 「…………」 「信じられないかもしれないけど、彼女、今ひとりで立つこともできないのよ」 「嘘……」 「ホント。 彼女の足の筋肉は、あんな痩せて軽くなった自分の体重を支えることすらできないの」 「…………」 「でも、彼女、倒れても倒れても、必死に起き上がってね……」 「遙が……」 「何の……ためかしらね」 「え……?」 「私には、何かに一生懸命になることで、 何かを紛らわそうとしているように感じるわ」 「…………」 「とにかく、早いトコ行ってらっしゃい」 「わかりました……」 遙は、俺たちのことを吹っ切るためにリハビリに打ち込んでいる? そうなのか? 遙の病室の前に着くまでそんなことを考えていると…… 部屋の中から話し声が聞こえてきた。 あれ? 遙のほかに誰か居るのか? ……茜ちゃん? 耳を澄ましてみた。 ……おかしいな。 声は……遙のものしか聞こえないけど……。 「……いてよ……」 「動いてよ!」 「動いてってばあ!!! うう……」 ……遙? 「何で……どうして? 私の足なのに! どうして動かないの!? こんなだから……何にも言えないじゃない! 傍にいて欲しいって……何で言えるのよ! 何が3年よ! 何が目覚めて良かったよっっ!! こんなの嬉しくなんかない! 何で……何で……なんでこうなっちゃったの!! 私が何したっていうのよぉぉ……」 「私の……時間を返してよぉ……うう……う……」 …………。 ………………。 一歩も……踏み出せなかった。 馬鹿かオレは。 遙がオレ達の関係を認めてくれたって? あいつが割り切ろうとしてるって? もっと儚い奴と思ってた!? 馬鹿野郎!! そうだよ、遙は儚いよっ!! 今だってあんなに弱々しいじゃないか!! あのとき…オレ達の関係を認めたときだって…… あいつは強がっていただけじゃないか! ふざけんなよ! ふざけんなっっ!! 遙が何をした!? 事故に巻き込まれて3年眠っただけじゃないかっ!! どうしてあいつが、こんな悲しい目に遭わなきゃいけないんだよ!? …………。 ………………。 どんな顔をして会うんだよ…… 笑顔で見舞いに来たぞって……言えるのか? …………。 できねぇよ。 ダメだ。 オレ……そんなこと…… 「……誰か……いるの?」 !? 気づかれた! 「……誰?」 心臓が高鳴る。 気づいたら俺はシャツまでびっしょりになるくらい泣いていた…… 気づいても涙は一向に止まらなかった…… こんな顔で遙に会える筈が無い……ダメだ、帰ろう…… 「……孝之……くん?」 「!?」 …………………………。 「ごめん遙……今日は……会えないよ……… ごめん………ごめん………」 「孝之君………聞いてたの?」 オレの声はかすれていた…涙は一向に止まらなかった…… 「ごめん遙…また……またくるよ……」 「孝之君……孝之君!!」 気づいたらオレは走り出していた 病院を出てもまだ走っていた……どんな道を通ったのかは記憶に無いが 気づいたときには駅のところまで来ていた…涙も止まっていた オレは遙の本当の気持ちを知ってしまった…… 遙もオレの迷いに気づいたかもしれない…… 多分、水月は昨日のうちに遙の気持ちに気づいていたのだと思う。 こんな状態で結論を出したとしても…それが本当に幸せなことなんだろうか? 今のこの気持ちを…みんなの気持ちが解決しない限り 誰かを選ぶなんてことはできないし……今選ぶことは逃げだと思う 分からない……自分が何をしたいのか分からない………… あれから何日かが過ぎた…… バイトには行っているがあまり身が入らない。 一日中割れた皿を片付けていた気がする。 あれ以来病院には行っていない……むしろ行けない 遙にもう来ないでほしいといわれることが怖い…… それに、自分の答えを出さない限り二人で会うことはできない。 水月にも会っていない。 悩んでいる自分を見ればまた水月は不安がるだろう…半月前のように 前に遙が目覚めたときにも、オレは答えを出すことができなかった。 水月にこのままの生活を続けるといいながらも毎日遙のところに通っていた。 その結果、遙は再び昏睡状態になりその記憶を失ってしまった…… やはりオレが答えを出さない限りいつまで経っても前に進めないのではないだろうか? こうしていつまでも誰かを選ぶことができないから 水月にも遙にも心配をかけている…… 結局誰かのせいにして自分が傷つかない答えを探しているのか…… そう思うと自分が情けない気持ちになったが本当にその通りである。 プルルルル プルルルル……… 「はい、……慎二か…」 「孝之、これからちょっと会いたいんだが 今からおまえの家に行ってもいいか?」 「あぁ、いまからなら大丈夫だけど…」 「分かった、これから行くからな」 何があったのかはだいたい想像が付く…今回ばかりは悪いのはオレだ 慎二に殴られても仕方が無いと思う …ピンポーン… ほどなくして慎二が家に来た 「さっそくだが孝之、さっきも言ったが話があるんだ。 お前最近速瀬とも涼宮ともあってないだってな、 いったいどうしたんだ?」 「…………」 「昨日、速瀬と電話で話したんだ。 速瀬の奴言葉には出さなかったが お前がまた一人で抱え込んで悩んでるんじゃないかって心配してたぞ」 「水月が…」 「それに今日涼宮と会ってきたんだが、速瀬がどうしてるかとか そればかり聞いて来るんだ…まるでお前の話題を避けているみたいに…… いったい何があったんだ?」 「オレは…オレは………」 「なんだ話してみろよ」 「オレは…遙に………水月と付き合ってるって…いったんだ………」 「!? そりゃお前…涼宮に自分は速瀬を選んだって言ってるようなものじゃないか ならどうして速瀬とも会ってないんだよ? まさか、…まだ涼宮のことも好きだとか言うんじゃないだろうな! そんなことを言っておいて」 慎二はやはり感情的になっている……当然のことだ 「オレは…嫌なんだよもう…誰かが傷つくのも傷つけるのも…… 傷つくのはオレだけで十分なんだ…… もうあのときのオレと同じ思いを誰にもさせたくないんだよっ!」 「いまさら、おまえ何言ってるんだよ」 「オレは2年前、遙を失って…大切なものを失う辛さを知ったんだ… いま二人のうちのどちらかを選べば… もう一人はあのときのオレと同じ思いをすることになる… 遙に俺たちのことを伝えた次の日に…見てしまったんだ……オレ…… 遙が……あのときのオレみたいに…泣いているところを…… だからオレは……まだ答えなんか出せないよ… 誰かに傷を負わせて、一緒になっても……そこに幸せなんかないと思うから………」 気が付いたらオレは泣きながら話していた、 まるで遙に会えなくなったあのときのように……… 「なぁ孝之、お前覚えてるか? 3年前丘の上で…4人でいたときのことを」 「3年前?………」 「お前があの後俺に話してくれた涼宮の言葉、まだ…覚えてるか?」 「…………」 「お前、まさかあんな恥ずかしい言葉をオレに言っておいて忘れたのか?」 「あ………」 そう、仲間記念日に遙が言った言葉……そしてオレ達がまだ4人でいる理由……… 『友達を大切にできない人は、誰も大切にできないんだって。 そしてね、友達を大切にされたことを喜べない人は、何も喜べないんだって』 …………。 オレは忘れていた…でも、結局たどり着く答えははじめからそこに存在していた。 あの後、事あるごとに思い出していたはずなのに 遙が目覚めてからも聞いていたはずなのに…… また一人で問題を抱え込んで……いや抱え込んだ気になって そんな簡単なことも考えられなくなっていたこと気づいた。 「でもなぁ孝之、たとえお前がそれを答えにするにしても このまま逃げているだけじゃ何も解決しないのは分かってるよな。 だからな、ちゃんとお前の気持ちを伝えて…けじめをつけてこい。 人は何もしなくても、むしろ何もしないことで傷つくことだってあるんだからな」 分かってる…分かってはいるさ、でもオレは… そんなことどうやって伝えるんだ? こんな曖昧な答えを本当に受け入れてくれるのか? 「おいおい孝之まだ悩んでるのか? どうせ速瀬に理解してもらえないんじゃないかとか思ってるんだろ」 「どうせってなんだよ…こんな話、普通理解できないだろ」 「まぁそのときはそのときだ、それに……」 「…………」 「速瀬だって…そのぉなんだ お前の恋人である前に オレ達の大切な仲間じゃないか! 大丈夫だよ…速瀬ならきっと… ほらっ さっさと速瀬に電話しろ」 「えっ!今からか?」 「こういう話はな早いほうがいいんだよ それにオレもお前の背中を押してやるから… ほら、悩んでても始まらないだろ電話しろよ」 オレは慎二にせかされるまま水月に電話をした …トゥルルルル トゥルルルル… 「はい、孝之……なに?」 「実は…大事な話があるんだ…このあと会えないかな?」 「………分かったわ…仕事はもうすぐ終わるから孝之の家でいい?」 「あぁ…それじゃ待ってるから…」 プツッ ツー ツー ツー やっと話す決心も付いた、慎二がいなかったらこのままだったかもしれない 結局オレはいつも一人ではなかったということか… 「それじゃオレはそろそろ帰るわ」 「えっ?」 「おいおい、まさかオレが立ち会ってないと言えないのか?」 「そんなことはないさ……ありがとな」 「まぁ気にするな、それじゃがんばれよ」 「あぁ」 慎二が帰った後やけに時間が長く感じられた でも、嫌な時間ではなかった…やっと答えを見つけることができたのだから 水月ならきっと分かってくれると思う……むしろオレはそう信じている。 水月にも……今の遙の気持ちは分かっているはずだから…… そしてオレと同じ気持ちだと思うから…… …ピンポーン… 「はい、………水月…来てくれたんだな」 「うん……それで話って…なんなの?」 「あぁ…まぁこんなところで立ち話もなんだから……上がってくれ」 「うん………」 オレは水月に思いの限りを伝えた…… 誰かを傷つけてしまうことに耐えられないこと 今はまだ誰も選ぶことができないこと…… そしてしばらく……誰もが傷つくことなく認め合えるようになるまでは …………友達でいようと………… 「そう、それが孝之の出した答えなんだ…」 水月は冷静だった、もっと感情的になるかと思っていたが…… 「私はね…決めてたの、孝之が私と付き合ってた2年間を認めてくれたから、 もしも孝之がどんな答えを出したとしてもついていこうと」 「水月………」 「本当はね…本当は孝之が遙を選んだんじゃないかと思って……怖かったの。 でもたぶんそれは遙だって同じだって気づいたの ううん、たぶん遙のほうが私よりも怖かったと思う、 遙にとっては、つい数日前まであなたが自分の全てだったから」 「水月………ありがとう……」 「もう、何泣いてんのよ…ほら元気出しなさい!」 「う…うん」 「それにね……私も…あのまま孝之に選ばれたとしても たぶん本当の意味で幸せにはなれなかったと思うから…… それじゃ明日は3人で遙のところにお見舞いに行こうね」 「そうだな、3人で行こう…たぶん遙もオレの答えを待ってるから……」 「それじゃ、私帰るから」 「えっ、帰るのか?」 「もう、歯の根も乾かないうちに何言ってるの」 「あ…そうだな、まったくなに言ってるんだオレは。 それじゃまた明日な」 「うん、それじゃね(やっぱり2年も一緒にいたんだから私のほうが有利よね)」 「? 何か言った?」 「ううん なんでもないの あははっ」 水月は逃げるように帰って行った 明日はやっと遙にもこのことを伝えることができる。 これで…本当によかったんだよな…… ただ今のオレには自分に言い聞かせることしかできなかった。 次の日オレたちは駅前で待ち合わせをして3人で病院に行くことにした 慎二は3人で行きたいと電話するよりも先に予定を空けて待っていた… オレの考えていることは筒抜けだったみたいだ…… バイトが終わってその足で約束の場所に行くともう二人とも来ていた 「おぉ孝之、やっと来たのか」 「悪い、バイトが長引いちゃってさ」 「もう、私たちにとって大切な日なんだから…あんまり心配させないでよね」 「ははっ悪かったよ 今日は…もう逃げたりしないさ」 そう、もう逃げたりしない… オレが逃げることで傷つく人を知ってしまったから 「あ、そうだ水月」 「ん?どうしたの?」 「見舞いに行くのに手ぶらで行くのもなんだから花でも買っていかないか?」 「あっそれならいいの、私が買ってきたから」 「そうか…準備がいいんだな…どんな花にしたんだ?」 水月が持っていたのは小さな花の咲いた鉢植えだった …………。 「なぁ水月、見舞いの花って普通は花束とかじゃないのか?」 「悩んだんだけどね、今日はこの花にしたのよ」 ??? そんなやり取りをしているうちに病院に着いた 今までで一番病院が近かったように感じた。 それに、たぶん今も不安と悲しみの中にいる遙に、 オレの答えを早く伝えたいと思うといつも以上に足が速く進んだ。 「あら、今日は大勢でお見舞いに来たのね」 「あ、香月先生…遙は病室にいますか?」 「ええ、さっきリハビリも終わったみたいだからもう戻ってるはずよ。 それに確か妹さんも来ていたはずよ…でも、今日は大丈夫そうね」 どうやら香月先生はすべてお見通しのようだ あの先生にはいつも見透かされているし、 いつも経験者は語るというような感じだが、いったい過去に何があったんだろうか? 「はいはい、女の過去を詮索しない! 早く行ってあげなさい」 「うぐっ……はい、それでは」 オレが答えを出して…いや結局一人では出せなかったからオレ達が答えを出して やっと遙のところまで来ることができた……… オレ達はまた昔に戻れる。 今のオレは……誰も苦しまないなら…それでいいんだ……… …コンコン… 「はい……」 遙の声だ……この声を聞くのも何日ぶりだろうか……… 「孝之君、水月それに平君も……みんな、また来てくれたんだ」 「遙、みんなでお見舞いに来たよ」 遙はもうオレが見舞いには来ないと思っていたのかもしれない 本当に嬉しそうにしている……茜ちゃんは相変わらずいづらそうにしている 「私がいたら話しにくいでしょうから、失礼します」 「待って茜ちゃん、今日は茜ちゃんにもいてほしいから」 茜ちゃんは少し戸惑っているみたいだった 「遙、これ私からのプレゼント……気に入ってもらえるかな?」 「あれ? 今日は鉢植えなの? なんて花なの?」 「ゼラニウムっていうの…気に入ってもらえた? 実はみんなの分もあるのよ」 「あっ………」 「うん、大切にするね」 茜ちゃんが少し驚いたような声を上げた気がした。 なんで水月がオレ達にも花を用意していたのか分からないが、 オレと慎二も小さな鉢を水月にもらった。 水月はもう一つの鉢を茜ちゃんに渡した。 「茜、この鉢はあなたにもらって欲しいの」 「いいんですか? これは………水月先輩の分じゃないんですか?」 「いいの、茜にももらって欲しいの。 この花は私の気持ちだから」 「水月……先輩………」 何が起こったのか分からないが…… 茜ちゃんが水月のことを先輩と呼んでいる。 いままで名前を呼ぶことも嫌っていたのに……… 遙も茜ちゃんの態度には少し驚いているみたいだ。 「ほら孝之、言いたいことがあるんだろ」 突然沈黙を破って慎二がオレの背中を押してくれた…… 言うなら今しかない 「遙…オレは…しばらく誰とも付き合わないことにしたんだ。 オレはお前の事故のおかげで大切な人を失う辛さを知ったんだ。 だから…今オレが誰かを選んだとしてもそのせいで誰かが辛い思いをしたら オレは絶対に幸せになることはできないと思うんだ。 だから……オレが誰を選んでも、 誰もが認め合えるようになるまで友達でいようと決めたんだ」 「孝之君! 何を言ってるのよ…孝之君…… 私がどんな思いで二人のことを認めたと思ってるの! 孝之君が…あのときの私を見て、同情でそんなことを言ってるのなら 私はそんな友情なんかいらないっ!!!」 「ちょっと姉さん」 「帰って………もう帰ってよっ!」 信じられなかった、遙が一番喜んでくれると思っていたのに…… オレの答えは遙のためでもあったけど、決して同情なんかじゃないのにっ! 呆然としたままオレは遙の部屋を出ていた。 部屋からは遙の鳴き声が聞こえている…… オレに続いて茜ちゃんも部屋から出てきた 「姉さんが落ち着くまで…屋上ででも話をしませんか?」 「あぁ……」 オレ達は黙って屋上に向かった…何も話せぬままに 水月も慎二も遙がこんな反応を見せるとは思っていなかったようだ 水月は悲しそうにしている、逆に茜ちゃんは怒っているように見えた 「鳴海さん! あなたの答えはただの綺麗事です!」 「!?」 「でも……間違った答えではなかったと思います」 「茜ちゃん……」 「私は…水月先輩のこと完全に許せたわけじゃないけど、 私は水月先輩と鳴海さんの気持ちを受け取ってそれもいいかと思いました。 今回ばかりは悪いのは姉さんです」 「…………」 「本当にあの花の意味も考えないで…」 「あの花の意味?」 「もしかして……鳴海さ〜ん、意味も知らずに受け取ったんじゃないでしょうね」 「茜、孝之がそんなの知ってると思う? 遙ならたぶん分かってくれると思ってたんだけどな」 「はぁ やっぱり」 「なんだよ二人とも」 「孝之あきらめろ、どうせお前には花のことは分からないだろう」 「……慎二、さらっとひどい事を………」 「いいのよ、孝之には別に期待してなかったんだから」 「……水月、全然フォローになってない………」 「まあ鳴海さんのことは置いといて、姉さんは私が説得しておきます。 鳴海さん、明日もう一度姉さんのところに来てあげてください」 (茜ちゃんまで…オレっていったい何なんだろ) 「鳴海さん!!」 「あっ…わ…分かったよ 遙のこと頼んだよ茜ちゃん」 「もう、しっかりしてくださいよ、まったく そんなんだから鳴海さんはいつまで経っても誰一人ものにできないんですよ! (まぁ私はそれでもかまわないんですけど)」 「??」 「えっ、ぁ、姉さんの説得にいてきますね! さすがにもう落ち着いてると思うので」 「あ、ちょっと待って茜ちゃん」 「なっ、なんですか?」 「やっぱりオレも行くよ、これはオレがやらないとだめだと思うから…」 「孝之、しばらくしたら私たちも行くから…」 「ああ、わかってる」 オレは茜ちゃんと一緒に遙の病室にむかった 「なぁ速瀬…あいつには女心は一生分からないな…… なんであいつなんだ?」 「はぁ、私にも分からないわよ…なんでかしらね………」 …………。 確かにあの時、遙が怒った理由はよく分かる。 前にあんな分かれ方をしたんだから……同情だと思われても仕方ない でも……同情してないと言い切れないことも無いな… オレがこの答えを出した原因のひとつはあの日の遙を見たからだし、 結局オレの答えは中途半端で曖昧なのかもしれない……… でも今は曖昧で良いと思う。 遙がもう一度スタートラインに立つまで待つくらいの余裕があっても良いと思うから。 「あの〜〜鳴海さん? どこまで行くんですか? 姉さんの部屋、通り過ぎてますよ」 「え……ここどこ?」 「まったく…なんでこんな人を好きになったのかしら」 「えっ!?」 「ね、姉さんの話です!! それより姉さんの部屋に帰りますよ」 …コンコン… 「はい……茜?」 「オレだけど、入ってもいいかな?」 「孝之君! う、うん、入って…」 「孝之君、さっきはごめん…感情的になっちゃって……」 「いいんだよ遙、オレが遙だったとしても同じことを言ったと思うから……」 「…でもね、孝之君は本当にこれでいいの? 水月だって本当は孝之君と二人でいたいはずなのに!」 「姉さん、水月先輩がくれたその花の意味…分かってなかったの?」 「えっ? 花の意味? …もしかして花言葉か何か?」 「たぶん水月先輩も姉さんに合わせてこんな恥ずかしい方法を選んだのに、 姉さんも絵本作家を目指してるんなら花言葉くらい知っといてよね」 「あ、そういうことだったのか」 「…ねえ茜、孝之君も知らなかったみたいだし、 この花にはどんな意味があるの?」 「この花にはね、友情とか決意とかの意味があるの、だから… 水月先輩もしばらくは鳴海さんと友達でいようと決意してくれたのよ」 「そうだったの……水月に悪いこと言っちゃったな………」 「でも、もしかしたら姉さんには別の意味があったのかもねっ」 「えっ…ちょっと茜、それどういうこと?」 「これは知ってる人は少ないんだけどね……… ゼラニウムには、偽りと慰めって意味もあるの」 …………。 ………………。 まあ水月もこのまますんなりと引き下がる気は無いって事なのか それはそうだ、あれだけオレが遙を選ぶことを恐れていたんだから すんなりと引き下がったのは驚いたけど… まさか、あとくされをなくすための布石? 水月先輩は鳴海さんを諦める気はまったく無いみたいですね。 でも形の上だけでも鳴海さんがフリーになるんだから…… 今度はただの妹では終わらないんだから!! 「もう、茜までなに力んでるのよ。 孝之君は誰にも渡さないんだから!!」 「へぇそれはいいことを聞かせてもらったわ」 「み、水月! いつからそこにいたの?」 「来たばっかりよ、でもあんな大声で言ったら外にいてもまる聞こえよ! 私だって孝之と2年間も一緒にいたんだから そう簡単には渡さないわよ」 水月が冗談めかして言っているが、多分あれは本心だ…… 実はオレの選択って…最も危険な選択だったんじゃないのか? 「そういえば孝之、お前にひとつ聞いときたいことがあったんだが」 「いきなりどうしたんだ慎二?」 「お前、もしかしたら二人がお前以外の男を選ぶかもしれないって考えたことあるか?」 「えっ……まあ、そのときはそのときだよ ははは………」 「私はその可能性十分だと思いますけど〜」 「茜ちゃんまで……」 『あはははははは………』 こうしてオレ達は新たな友情を手に入れた…… もう3年前のような関係ではいられないけど、 これはこれで毎日が楽しいからよかったのかもしれない。 遙が退院して、オレは遙に半強制的に受験勉強をさせられて今は大学に通っている。 この年になってこれほど勉強をするとは思わなかった。 一番驚いたのは茜ちゃんまで最近オレにあからさまに迫ってくることだ。 まさかとは思っていたが……… 今では量産型の名を返上している。 あの子は水月以上かもしれない……… 水月は遙が退院した直後に短期決戦を仕掛けてきた。 2年間の思い出がさめないうちに、ということだったらしい。 まさか水月があそこまでするとは思ってなかったがその話はまたの機会に あとがきっぽいもの このSSは孝之が誰も選ぶことができずにヘタレのまま終了したら というアイデアを元に作ってあります。 タイトルは孝之の答えですが、白紙回答を答えと言い切っています。 序盤は原作の流れからの分岐にしたかったので原作を参考にしているのですが、 そのために後半のつくりの悪さが露呈しています。(オリジナルには勝てません 原作の「わかれ」を基本にした流れを無視しているので 作品に対する冒涜といわれても仕方無いところがあります。 怒った人ごめんなさい。でも怒りの限りをメールしてくれると嬉しいです。 (ウイルス詰め合わせとかはご勘弁ください) 感想を待ってます。 本当は最後の花言葉の話は使うはずではなく マヤウルのおくりものを使いながら終わらせる気だったのですが 見舞いの花を何にするか考えていたときにあの花言葉を見つけ こんなオチになりました。 ゼラニウムの花言葉は自分では結構お気に入りです。 花言葉は、ほとんどのものに数種類あるらしいのですが、 ゼラニウムには、 慰め・君ありて幸福・真の友情・決意・偽り・尊敬・信頼・愛情 などがあるらしいです。 つまり全部の鉢に違う意味がこめられていた ということです。 最後に、病院に鉢を持っていくのは禁止です。 結構怒られます 持って行かないでくださいね。 |
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