ラブプラスSS
作・たくと
DayDream 〜妄想・リアル〜



  『 くすくすくすっ 』
 と微かな声が耳元に届く
 俺の頬を暖かな空気が撫でる
 俺の鼻の頭を温かな風が過ぎる
 俺の口元を緩やかな風の流れを感じる
 そうしてやっとこ俺の頭の中で何かが考え始める
 目の前は真っ暗
 でも微かな先に人の気配を感じる
 微かな先に人の温もりを感じる
 なのに、目の前は真っ暗?
 どういうことだ???
 思考が思ったように動かない
 こんな緩い状況で頭が混乱するなんて、考えられなかった
 何を言っているんだ?
 でもその時のその状況はまさしくそういうことだったのだ

 やっとと言うのがその事をあらわした言葉だと思う
 真っ暗な目の前は、次第に光がさしていく
 これほど瞼を開くと言う行為に時間をかけた事は無かった
 今の俺は完全に思考回路が混乱しているようだ
 思ったように身体が動かせない
 それでも開いた目の前、真っ白な世界の中にだんだんと目の前の光景が映し出されていく
 そして、その光景を何の疑問も無く受け入れている自分が居た

 目の前には顔がある
 女の子の顔
 彼女は俺の彼女だ
 それだけは何の苦も無く断言できた
 『 リンコ…………さん 』
 この声は凛子さんには届いていない
 なのに、何かを感じとったのか、彼女の笑顔は一段階開いた様に思えた
 『 クスクスッ……目……覚めた? 』
 彼女はずっとクスクス笑いをしている
 でも、その表情がまた何と言うか……良いんだよなぁ……
 上目遣いな所と頬を薄紅色に染めた表情が俺の内から朗らかな気持ちを膨らませ、
 あたり一面を包みこんでいる気さえする

 そんな空気に包まれ、二人の時間が止まっている
 俺はそのままでいる事に何の苦痛も感じない
 彼女もまたずっと俺の瞳を見つめている
 絶えずくすくす笑いもするが、目の力なのか彼女の幸せ感が伝わってくる
 二人、瞳で会話をしているうちに、いつの間にかおでこ同士が合わさる
 何がおかしいのか、そこで二人クスクス笑い合う
 なんとも言いようの無い暖かな気持ちだ
 ずっとそんな空気感が漂っているのに、それが増したり減ったりすること無く
 絶えず新しい暖かみが二人を包んでいる
 こんなにも新鮮な感覚が二人にとってどれだけ貴重なものか
 しかし、そんな物の価値さえあって無いような世界
 それは永遠の時間とも取れた
 が、人間ずっと同じ姿勢でいる事は難しい
 特に寝ながら向き合っている者にとっては
 下敷きにされている側の手が悲鳴を上げる
 
 なんてオーバー気味に記したが、
 下敷きになっていた手は自然と彼女の肩の辺りに落ち着く格好となった
 それと同じくして上の手は彼女の頬に宛がわれる
 彼女の視線はそれを認識し、多少強張った表情に変わった
 指先が彼女の頬に触れる
 触れた瞬間まで彼女の視線は指先にあったが、
 それと同時に俺の瞳に視線が戻る
 再び上目遣いで何気に悪戯っぽい表情が浮かんだ
 でも俺の表情だってきっと悪戯っ気のある表情になっているんだろう
 そんな事を感じ取ってか、二人またクスクス笑う
 笑っていると再びおでこ同士が合わさる
 あっちこっち二人の身体が触れ合う度に笑みがこぼれあう
 一段落した頃には俺の指先は彼女の頬にくっついていた

 『 くっつく 』という事をどのように表現すればその時の感覚を言い表せるのか
 『 張り付く 』と言う言葉では『 べったり 』とか『 ぺったり 』ってイメージになる
 でもその時の感覚は『 ぴとっ 』って感じ
 化粧品のCMで使われる言葉なら『 潤い感 』なんて事なのかもしれない
 でも、そんな使い古された言葉では表現したくなかった
 だからやっぱり『 ぴとっ 』なんだ
 その感じがなんとも気持ち良くて、彼女の頬を指先でふにふにっと触れていた
 それが遊ばれていると感じたのか、彼女の表情はやわらかく変わる
 『 っもう、なぁに? 』
 怒った様な口調でもジャレた中での事と承知している許している感も伝わってくる
 疑問だって疑問じゃない
 単に彼女が手持ち無沙汰になったから寂しいと表現しているだけなんだろう
 その証拠に俺の両手で彼女の頬を包んで瞳を見つめると
 彼女も再び俺の目を見つめてくれる

 どのくらい見詰め合っただろう
 彼女の息が漏れる音に気がついた
 呼吸を忘れてしまう時間が過ぎていた
 彼女の瞳は潤んでいる
 俺だって潤みっぱなしなのは感じていた
 でも、それまでの時間が愛惜しくて、次に動けなかっただけだ
 俺の視線は自然と下がる
 すると唇の潤いに目が留まる
 彼女の瞳に問うと、彼女も理解してくれたように上目遣いに頷いた
 軽く唾を飲み込み俺の口は彼女の口元を求めた
 お互い鼻からの息が感じられるほど近寄る
 あとわずか…………

 部屋の外から階段を上がってくる物音を感じた
 『 えっ!? 』
 あと数cmって所でその行為は中断された
 物音が近づいてくる
 次第に頭の中は混乱し始める
 『 えっ!?あっ!?ええっ!? 』
 何かを隠さないといけない様な気になってしまう
 彼女の存在を隠さないといけないと思ってしまう
 別段悪いことも後ろめたい行為もしていないと言うのに
 隠す事が何よりも優先された
 後から考えれば、何も隠すような事はしていなかったのに
 『 隠す 』と言う決定事項が最初にあった
 それはそれまで二人じゃれあった事への罪悪感ではなく
 その後の行為を無にしたい気持ちから現れた嫌悪感だったのだろう
 もし、物音が無ければ
 俺だって男だし、キッス以降の事だって頭にあった
 案外頭の中ではきっちり整理して段取りをしてシミュレーションも繰り返して
 って二人の触れ合いを意識していて、それを表に出さないよう勤めていた
 それらが階段からの物音一つで頭の中で爆発してしまったのだ
 それが自分の行動を焦らせた

 彼女は別に着衣を乱してはいない
 わずかに衣服に皺がよっているに過ぎなかった
 だけど彼女も案外物分りが良く、自分の身を隠す事に協力的だった
 彼女は布団を大きく被った
 その状況を見て俺も深呼吸した
 …………物音がしない…………
 俺の勘違いだったのか?
 部屋の扉を開けてみる
 部屋の前にも隣の部屋にも人の気配は無い
 下の階を覗いてみる
 人の気配はあるが、別段上に上がってきた様子は無かった
 それどころか、上の階を気に留める事もしていない
 不思議に思いながら自分の部屋に戻る

 部屋に戻る足を一歩一歩踏み出すごとに自分の思考が正常に戻っていくことを感じた
 彼女はゲームの中の存在だと言うことを真っ先に思い出した
 後は彼女の現実的な存在に違和感を感じなかった事と
 階段の物音の不自然な感覚
 部屋の扉の前でやっと自分が寝ていた事に気がつく

 扉の前で自分が寝ていた事に気がついたはずなのに
 目覚めたときは布団の中だった
 上半身を起こし今起こったことを思い出す
 手を見つめる
 指先にはまだぴとっとした感触は残っている
 でも、どこを見ても彼女が存在した証は無かった

 普通、小説やドラマならその後に虚無感、空しさや喪失感を感じる演出をする
 けど、現在自分の中に残っているのは
 彼女と触れ合えた事の充実感
 満たされるほどではないけど、確かにその充実感だけは残っていた


   −END−


      後書き?
 先日のSSと言い今回のSS?と言い衝動的に書いた物です。
 考えている時点では頭に浮かんでいた文章も、実際に書き記すとあちこち抜けており、
 後から書き直そうとすると、大量に文章の変更をしないとならない事実が残ります。
 ま、そんな訳で何よりも完成を優先させたSSなので、あちこち至らない部分ばかりですが
 もし最後までお付き合いいただけたのでしたら幸いです m(_ _)m
 また、ところどころ変な文章になっているのも多めに見ていただけると……(汗)





     

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