again
著:TAMAKI
 「もう、兄さんったら、やっぱり寝坊するんだから。」
























 文句を言いながら、いつもと同じ道を歩く。

 少しだけ違うのは、制服のせいだろう、と思う。

 さっきまで兄さんを起こそうとしてたけど、兄さんは一向に起きる気配がない。

 仕方なく私一人で、学校に向かっている。
























  「もう少し・・・・正直になればよかったかな。美春みたいに。」
























 呟いても返ってくる答えはない。

 眠っている兄さんに一言だけかけて私は家を出た。

 久しぶりに通う学校への道が酷く懐かしい。

 そして、悔しいような・・・なんて言っていいかわからない気持ちで一杯になる。
























  ――――兄さん、私、やっぱり兄さんのコト、忘れられなかったんだ・・・・。


























 「けほっ・・・・」

 抑えた口からは、また桜。

 それでも、今、公園の桜の下を通っているから大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせて学校に向かう。
















 今は、兄さん以外の人のことが思い出せない。

 多分、さくらが私の記憶を焼いてしまったせいで、完全に記憶が消えそうになってる。

































 それでも、兄さんは、兄さんだけは忘れなかったのは、 



























  この世界で兄さんのことが一番好きだったから。


























 「おはようございます。」

 誰もいない校舎の中に入る。

 そしてそのまま自分のクラスに向かう。

























 カツッ、カツッ・・・・・

 廊下に私の靴の音だけが響く。校舎には人は誰もいないようで、私以外の気配がない。

 そうして教室に着いた。





















  ガラッ・・・・



















  いつものように教室のドアを開け






















  いつものように机に向かう

























 「あ・・・・。」

 思い出した。

 私って、ここじゃないんだっけ?

 気づけば、兄さんの机のあった場所に向かっていた。

 「そっか。私・・・・・。」

 ふと、思い出すこと、今朝届いていた診断書のこと、小さい頃のこと。
 
 全部が隙間から流れ込んでくる。

 兄さんと話した記憶がとめどなく私の隙間に流れ込んで、止まってくれない。






















  「ねぇ・・・・兄さん・・・・・・忘れたくないよ・・・・・」



























 絶対に、流さないって決めたのに。

 兄さんが隣にいてくれるだけでいい。それだけで泣かないでいられる。

 今朝誓ったばかりなのに。

 ぽつ・・・ぽつりと机に涙が落ちる。

 それでも、新しい制服を着て、一緒に学校に行こうと思ったのに。

 約束も・・・守ってくれないんだから。























 ふと中庭に向かう。

 ここで兄さん、見てたっけ・・・・。

 あの時に戻れるなら・・・この島の神様が許すのなら戻りたい。

 もっと前に・・・私が朝倉純一という人を「兄さん」と呼ぶようになる前に。






















   気づけば屋上に立っていた。




















  空は蒼く、深い色で吸い込まれていきそうになる。


















  手すりにもたれて、空を見上げていた。


































  「はぁ・・・・はぁ・・・・・どこに行ったんだ?音夢・・・・。」























 ずっと上を眺めていた私に届いた声。
 
 間違える筈もない声が私の耳に届いた。

 「兄さ・・・・こほっ!」

 咳き込んだ瞬間、桜の花びらが落ちていく。

















  はらり、はらり・・・・。












  兄さんの目の前まで・・・・・。



























 がちゃり。

 いつものように私は言う。

 「遅刻だよ?兄さん。」

 ぽつり、と言う。

 「ああ。そうだな。」

 いつものように兄さんは言うけれど、それでも声はとても優しい。




























 「音夢・・・・帰るか?」
























 いつも私が言いたかった言葉。

 聞きたかった言葉。




















  ―――それでも・・・・でも、


























  「兄さん、私はここでお別れ。」



























 朱色の空が暗くなってくる。

 そして、体中から、桜の花びらが舞い上がって、私の体を包み込む。





















  身体が崩れていく。

























  「音夢!」


























  消えていく意識の中で聞こえた声は、愛しい人の悲鳴のような声。


























  「兄さん?本当にごめんね。」



























  伝えられない言葉。

  もしも、「次」というものがあれば、兄さん、もう一度兄さんに出会いたい。

  でも、「今」は




































         さよなら
END
あとがき
 お久しぶりです。
 で、DCを久々に書いたんですが、記憶に頼ったので解釈的な面が多いですね。
 そして、音夢のハッピーなSSばかりなんで、あえて逆にしました。
 右向けば右なんてやらない人なんですよ。僕はね。
 だから左向いて、「どうよ?」みたいな感じですね。