promise to ...
著:TAMAKI
   ──―純一くん、明日、一緒に行きたいところがあるんですけど、

      一緒に来てくれますか?






 そういって、昨日、萌と別れた。

 ちなみに、最近の二人はというと、仲は良好だ。

 あと、毎日、萌と二人で、昼食もとっているし、それに、日曜は、俺の家に来てくれて、

 3食つくってくれている。

 まぁ、どこかのだれかさんのような毒じゃなくて、萌の手料理は、かなりのものだ。

 そうやって、あれから、1年くらいが過ぎた。

 昨日は月曜日で、休み明け特有のかったるさを、萌と過ごして、癒そうとしていたときだ。
 


   「純一くん、明日行きたいところがあるんですけど、一緒に来てくれますか?」



 と、微笑んで聞いてきた。

 俺は、少し意地悪に、

 「かったるいところじゃなければ付き合いますよ?」

 と、答えた。

 それがなぜか、萌には面白かったらしく、ふふふ、と笑って帰っていった。

 別れ際、

 「明日の10時に、純一くんの家に行きますから。」

 と約束をして・・・。






 目覚ましで起きて、「かったりぃ」と言いながら、食パンをトースターに入れる。

 そして、それが出来上がる間に歯を磨いて、顔を適当に洗い、寝癖を直す。

 ちょうど、寝癖を直して、洗面所から出た瞬間、チンという軽い音と同時に、トーストが出来上がった。





 食べ終わって、今日の新聞に目を通すと、チャイムが鳴った。

 「あのぉ、純一くん?起きてますか?」

 という萌の声が聞こえてきて、

 「起きています。それじゃ、今開けますから。」

 と、足が軽いと思うくらいの動きで俺は玄関に向かった。




 「おはようございます。純一くん。」

 そういう萌は明るく、本当に、お嬢様みたいだった。

 服はそれとは逆で、真っ黒だ。

 実は言うと、俺も、それを予測してか、偶然か、黒い半袖に黒いジーンズといった服装だ。

 萌が、

 「それじゃあ、行きましょう。」

 と言って、俺は、家に鍵をかけて、萌と一緒に出かけた・・・。





 よく見れば、萌は、黒いワンピースに、レザーの少し大きな四角いものを持っている。

 あれは、おそらく木琴だろう。

 萌がそれをどれほど大事にしているか、それは萌の身近にいる人ならば、誰もが知っていることだろう。

 二人で、手をつないで歩く。

 そうやって、二人で歩いて来た先は、桜公園を抜けた、高台の隣の霊園だった。





 萌は、俺の手を引いて、迷わずに向かう。

 俺も、目的の場所はわかっている。

 そう、そこは、いつか夢で見た、男の子が眠っている場所だ。

 萌と俺は、ここに来る前に買った花を供えて、手を合わせた。

 黒い服が日光に当てられて暑かったが、俺は手を合わせていた。

 萌は、木琴を置いて、しゃがみこんで手を合わせている。

 その顔は真剣そのもので、服の雰囲気も手伝ってか、いつもよりも大人に見えた。





 「純一くん、しばらく一人にしてくれませんか?」

 萌はそう言って俺に視線を合わせた。

 俺も、その萌のまっすぐな視線に少し、少しだけの笑顔だったが「いいよ。」とだけ

 答えて、そこを離れた。






 少し離れたところにあるベンチに腰掛けて、空を仰いだ。

 今日は、4月の最後の週で、空には少しだけだが、夏のような深い青さがある。

 その中を流れる雲。

 俺がそうやっていると、向こうから、少しテンポと音のズレた、木琴の音が聞こえてきた。

 相変わらす、少し風が吹いていて、俺は流れていく雲を見ていた。

 そんな相変わらずな俺の耳に、相変わらずの木琴の音が聞こえていた。






 「―――お兄ちゃん、そんなところで寝たらダメだよ。」

 ふと見ると男の子が、ベンチの隣にちょこんと座っていた。

 ―――そう、この子は・・・

 考えると、男の子は、先に答えた。

 「そうだよ。啓一だよ。」

 と、微笑んで・・・。





 「萌のこと、僕も好きだったのになぁ・・・」

 恨めしそうな声で、啓一は言った。

 でも、その顔は、そんなことはなくて、逆に、晴れ晴れとした顔だった。

 「そうだな。萌は、あぁだからな。お前が惚れるのもわかる。」

 したり顔をして俺は答える。

 「でも、先に、出会ったのは僕だよ。」

 そんな顔に対抗してか、少し自慢したように答える。

 お互いにそんな顔をしているのがおかしくて、俺は笑った。





  ―――なんで、恋敵のコイツと笑ってんだろ。かったりぃ・・・





    ―――とこぼしながら。






 「なぁ、どうして、萌の夢に出たんだ?」

 俺は横目でちらっと啓一を見て言った。

 聞いた彼は、少し自分で納得したように、頷いて、

 「うん。あの時、萌は自分を責めすぎていたからね。あのままだと、萌自身も死んで

 しまおうとしたかもしれない。僕はそんなこと望んでないし、眞子だっている。

 萌までコッチに来てしまったら、眞子が泣くからね。」

 と、微笑みながら答え、それに対して。

 「そうか?眞子はそんなんじゃ泣かないぞ。」

 俺は、しれっと答えた。

 啓一はぷくっと顔を膨らまして、

 「どうしてそういうこと言うかなぁ?眞子だって、あれはあれで、かわいいところあるんだぞ。」

 なんて言った。

 「まぁ、話がズレたけど、なんで、夢に?」

 俺は咳払いをわざとらしくして聞いた。

 「まぁ、実は、僕も、存在を忘れられたくなかったんだろうね。それにあの時、

  『この島』には『魔法』がかかっていたからさ。それを使わせてもらおうと思ったんだ。」

 少し、寂しそうな表情で、啓一は言う。

 そして続ける。

 「最初は、萌が眠り続けるのも、いいかって思ったよ。でもさ、睡眠薬まで使い始めて。

  そんなこと、僕は望んではいなかったのに・・・。」

 悔しそうに言う。

 そこで俺は言った。

 「それで、ある日、その『魔法』は切れた、と。」

 そう、シンデレラにも午前0時があったように、いつかは魔法は解けてしまう。

 「そうだよ。それでも、萌は僕の夢を見ようとして・・・。多分、君と、結ばれたのが
 
 その原因だと思ったんだろうね。でも、それは・・・」

 俺は、遮るように言った。

 「ただ、純粋に、『魔法』が解けた、そうだろ?」

 啓一は、

 「そう。でも安心したよ。萌の隣にいるのが、変なヤツじゃなくて。おかしなヤツなら

  このまま連れていってやろうか、とか考えてきたんだから。」

 そうやって、啓一は、ベンチから立った。
 
 「でも、君でよかったと思ってる。それは、いつも『かったるい』とか言うけれど

  萌のためなら、ちゃんとしてくれているからね。これで、安心だ。」

 そういう、啓一の体は少し、輪郭がぼやけていた。

 俺は、驚いたけれど、今日は、あの日。そう桜が枯れた日だと覚えていたから、

 「それで、俺を見極めるために、ばあちゃんに『魔法』をかけてもらったってことか?」 

 と聞いた。

 啓一は微笑んで、

 「そうだよ。うん、でも、もう時間がないみたいだ。」

 と、いきなり右手を差し出した。

 「え?」

 と俺が呆けてしまうと、

 「握手。萌を泣かせない、一人にしないって約束の握手だよ。」

 と念を押すように言った。

 俺がその手を握ると、

 「うん。これで安心したよ。」

 と、歩いていった。

 「おい?!俺にも・・・」

 ―――言いたいことがあるんだぞ。

 と、啓一の背中を追いかけようとしたが、急に強い風が吹いて、

 散っていた桜が、俺の視界を遮った。






  ―――桜が地面に落ちた瞬間、そこには誰もいなかったかのように、見慣れた桜の風景があった。






 「純一くん、お待たせしました。」

 ふと隣には萌が居た。

 俺は、ベンチに座っていて、さっき、隣に誰かいたことなんかなかったように

 萌がベンチに腰掛けている。

 俺が、なにやら、違和感のようなものを感じているのを気にしたのか、

 「純一くん、どうしたんですか?」

 と萌が聞いてきた。

 俺は、

 「あぁ、夢を見たんだよ。ライバルと約束する夢を。」

 萌は少し首をかしげ、怪訝そうな顔をしたが、

 「そうですか。いい夢でしたか?」

 と、聞いた。





  俺は



   ―――あぁ、いい夢だったさ。





   と笑って、まだ、少しぬくもりの残る右手を握った。








    そして、空を見上げ、







     「あぁ、約束だ。」





 
      ―――そう・・・呟いた。
END
あとがき
 こんにちは、TAMAKIです。
 厳密には純一くんと啓一くんのSSですね。
 一応、見ての通り、萌先輩です。
 結構、少ないみたいですね。萌先輩は。
 実は、啓一くんは呼び方に迷いました。
 純一くんならば、こう呼ぶだろう、というニュアンスです。
 最近のスランプが、出てなきゃいいですが・・・。
 ・・・読んでくださる方がいるのか、最近は心配です。
 では。