|
Beautiful Dreamer
著:TAMAKI
───蝉の声が聞こえる。 何か、脳の中に響いてくる声。 僕を糾弾しているようにも聞こえる。 昨日は・・・そうだ。白河さやかという少女をカウンセリングした。 だからだろう。あの娘のようにまっすぐな気持ちでいられるのは とても幸せだと思う。 そうやって、ポケットに入れてある手紙を見る。 差出人は ───柾木茜・・・。 手紙は、先週届いたものだった。 その手紙を見たとき、僕は悪魔に魂を鷲づかみにされたような気がした。 その内容は一行で、簡潔なものだった。 透子お姉ちゃんに夢を見せ続けて・・・。 というだけの手紙。 その日の夕方、僕が病院を出てきたところに、柾木茜が立っていたのだ。 そして、光るものを手に、こう言った。 「私のリボンで、暗示をかけられるなら、これでも出来るはずだよね?」 彼女は不敵で、かつ、正気なのかわからない笑みを浮かべる。 柾木茜は、兄である柾木良和を殺したらしい。幸い、彼らの家は僕が勤務している 常磐総合病院の院長の家で、大金持ちだ。 それを利用して、強盗に入られて、それを見てしまった良和くんが犯人に殺された、 というニュースとしてこの村には流れている。 僕も実際、良和くんとは知らない仲ではない。それはいい気はしなかった。 ───真相を知るものとしては。 しかし、それ以上に僕は彼に嫉妬していたのだ。 そう、京谷透子という女性が彼を選んでいたこと。 かつて、僕が想いを寄せていた女性だった。 そして、その彼女の中心にいた良和くんのことは快く思っていなかったのも事実だ。 僕は、学生の頃、彼女に告白をした。 結果は「NO」だった。 明確に言えば僕は、それほどもてないわけではない。 学生時代は、スポーツもそこそこ出来ていたし、勉強だって、今は医者になれているのだから、 成績もよかったほうだと思う。 それだけならば、良和くんとも変わらない。 ・・・それなのに、彼女は彼を選んだのだから。 そうして、一度目のカウンセリングを行った。 はっきり言って、彼女はもう「手遅れ」に近い状況だった。 支えのなくなった家に誰が住めるだろう。 彼女を支えていた、彼女のすべてが死んでしんまったのだから。 ほどなくして、柾木茜は、僕に持ちかけた。 「この指輪をしたものをお兄ちゃんに見えるように暗示をかけて。そうすれば、 透子お姉ちゃんは、壊れないでいられるから。」 それを聞いて僕は笑った。 「それはおかしいじゃないか?壊した張本人が、壊したくないだなんて。それは ただの、エゴに見えるけどね。」 おかしい。だって、それは矛盾している依頼だから。 そして彼女は笑う。さもおかしい、といったように。 「そうね。確かにそうかもしれない。でも、私は透子お姉ちゃんが好きだから。 だから、頼んでるんじゃない。」 ───これでわかった。 この娘も「壊れてる」のだと。 そして、この少女もまた、柱をなくしてしまったということに。 「わかった。でも、どうして僕に話を持ちかけたんだい?君ならばもっといい人を選べるはずなのに」 そういうと柾木茜はクスクスと笑った。 「だって、いくら私がお兄ちゃんに成り代わっても、出来ないことだってある。その役目を貴方に あげようって言うのだから、ほかの人に持ちかけてもいいのかな?」 驚いた。この女の子はここまで考えてういたなんて。 それにそれは、僕にも魅力的なものだった。 あの、自分を振った女性をこの手で抱けるなんていうことは・・・。 それから、毎週土曜日、僕は彼女にカウンセリングする。 そして、いつも夕方には、柾木茜から、指輪を受け取って、京谷透子の部屋に向かう。 そのあと、駅前で、柾木茜に会って、指輪を渡す。 ───そんな生活が2ヶ月ほど続いた。 ある日、柾木茜に夕方に会って指輪を貰うはずなのだが、一向に彼女は来ない。 僕は、この計画が始まって、同じ指輪を隠し持っていた。 だから、この日はその指輪を使って、京谷透子の部屋で過ごした。 別段、彼女は何かに気付いたそぶりもなかったので、柾木茜は、風邪でも引いたのだと 言い聞かせて、この日は眠りについた。 3日後、恐ろしいことがわかった。 それは、新聞の片隅に載っていた記事で、この目立つ姓ではなければ気付かなかった筈だ。 『水死体発見される。』 という記事。 『見つかったのは、柾木茜さん(18)。状況より、自殺と警察は断定・・・。』 解っていた。京谷透子には隠し通せないということに。 いつから、知っていたのかはわからないが、彼女が次に狙うのはこの僕しか居ない。 しかも、今日は土曜日。 彼女がカウンセリングを受けにやってくる日だった。 事実、彼女がもうすぐ来る時間だ。 診察室で、コーヒーを片手に震えてしまう。 まさか、と否定している僕がいる。だって、柾木茜は、指輪をしていたのに・・・。 それを「殺した」のか・・・。 どうしよう・・・どうしよう・・・。 「失礼します。」 柔らかい声が聞こえた。 僕が、想いを寄せた声だ。 ドアを開けて、笑顔で椅子にかける女性。 彼女に、いきなり僕は質問した。 「いつから、暗示が解けていたんだ?」 それに笑顔で答える。 「えぇ。ちょうど1週間くらい前ですね。」 「そうか。今日は、柾木茜が亡くなったそうだ。」 彼女の顔色は変わらない。 もう、、、僕もわからなくなってきた。 「えぇ、茜ちゃんには、始めの通りになってもらっただけですから。」 こう言うにも笑顔で話す、彼女。 「そう。でも、どうやって、わかったんだい?僕や、柾木茜が演じていたということに。」 クスクスと声が聞こえる。 「それは・・・、単に、冷静になれただけです。あとは、毎日、愛している人の感触に違和感が あったことですから。」 彼女は笑う。 そして、バッグから、光るものを取り出す。 それからは、スローモーションを見ているようだった。 この体に、包丁が突き刺さるまで。 そして、この僕が裁かれるまで。 願わくば、美絵の顔をもっと見ておけばよかった。 我ながら、こういうときに、こういうことを思い出すのは意外だが、 もう考えることもできない。 意識が暗転してきたから。 その淵で、言葉が聞こえた。 ───さようなら、若林くん、 貴方じゃ、良和にはなれないわ。 ───と。 END
あとがき
やっと、書けました。3章。これは二時間ドラマを見ているような物語だったので、 そういうテイストをいれられるように書いてみました。 実は、この閉鎖感が3章の魅力なのかなぁ?と考えてみたりします。 バッドエンドなんて、特に、狂っていくのがわかりますから。 ノーマルエンドでも、また書きたいですね。 個人的には、茜を小悪魔みたいに書けなかったのが残念です。 若林先生は、2章では好きなんですけどね・・・。 では また別のSSで 了
|