Place
著:TAMAKI
 「あぁ、わかってる。・・・うん。だから、それは帰ったあとで・・・」

 何度こんな口喧嘩を電話でしたのだろう。

 俺は今日、祖父の法事で実家に帰っていた。

 しかも、月に数少ない休みに合わせてだ。

 当然、俺には彼女がいるし、彼女に対する愛情というものもある。

 しかし、それはときには邪魔に思えることもある。

 「あ、電池切れそうだ。また電話するから。」
 
 俺はわざと携帯の電池を抜いて、さも、バッテリー切れのように電話を切った。

 


 空を見上げればまだ、青い。

 明日が法事だが、せっかくの実家なんだから、と家族に半ば無理に帰らされた。

 しかし、6年間、ロクに帰っていなかった俺に、居場所なんてあるはずもなく

 ただ、こうやって、公園でベンチに座って空を見上げたりする。

 「あぁ・・・こうやって空を見るなんて、全然なかったなぁ・・・。」

 空を見上げながら独り言を言う。

 「そうなの?」

 いきなり答えが返ってきた。

 俺は驚いて後ろに飛び上がりそうになった。

 それでも、必死に耐えられたのは、その声が少女のものだったからだ。

 「お兄ちゃん、一人なの?」

 「あぁ。今はすることがなくてね。こうやってゆっくり過ごすのも久しぶりだったからさ。」

 普段は初対面には決して社交的ではない俺が、こんなに正直に話せるのは

 俺がまだ中学の頃に想いを寄せていた少女に面影があるからだろう。

 とは言っても、この少女はまだ、中学生なんかではなく、おそらく小学校1年くらいだろう。

 「えっと、お願いがあるんだけど・・・。」

 想いに耽る俺に少女は続けた。

 「あれ、とって欲しい。」

 少女の指差す先には、木に挟まった飛行機があった。

 飛行機と言っても、ゴムでプロペラを回す、ごく簡単なものだ。

 それが木に挟まって、蜘蛛に囚われた蝶のようにも見えた。
















   まるで、俺のようだ。














 「よっと。」

 俺は木に上って飛行機を取ると少女に渡した。

 「じゃあね。」

 そう言ってベンチに戻ろうとしたが、なぜか逆に力のベクトルがかかる。

 ふと見れば少女が俺の服の裾を握っていた。

  俺は

 「どうしたの?まだ何か?」

 少女は飛行機を握ったままうつむいている。

 「・・・ありがとう。それと・・・。」

 消えてしまいそうな小さな声でお礼を言って、さらに、風が吹いていたら消えてしまいそうな
  
 声で、

 「・・・一緒に・・・遊んで・・・。」

 そう言った。

 俺は別段、何かしようというわけでもないし、これなら、日頃の運動不足よりは

 少しはいいか、と思って

 「あぁ、いいよ。」

 そう言って童心に戻ったように飛行機を飛ばした。









 「あはははは。」

 少女は笑う。

 その笑顔は、俺の知っている面影にひどくそっくりで、妙に自分もその頃に

 タイムスリップしてしまったみたいだ。

 「あ!パパ!」

 いきなりそう言って、少女は走り出す。

 当然、俺はその声を向けられた人間のほうを向く。

 






 「カズヤ・・・。」

 俺の見知った男がそこにいた。

 





 カズヤと俺は幼馴染で、お互いにそれなりにトラブルもあったけれど、親友と

 呼べるような仲だった。

 なぜ過去形かといえば、カズヤと俺には共通のものがあった。

 それは想いを寄せていた少女である。

 俺とカズヤは中学はバスケットボール部にいて、俺もカズヤもそれなりに

 シューターとしての実力があった。

 それは、中学の最後の試合の前日だ。

 「なぁ、明日の試合、俺とオマエで、点数を多く取ったほうがチサに告白するんだ。」

 「あぁ、いいぜ。俺はオマエよりも10ゴール以上多くとってやる。」

 そう言って試合が始まった。

 前半15分は、俺が6ゴール差を開けて終了した。

 しかし、後半、俺は執拗なマークにあって、さらに負けず嫌いが災いして

 途中交代させられてしまった。

 試合は俺のせいと、言ってもいいくらいにギリギリで逆転され、俺たちの中学の

 バスケット生活は終わってしまった。

 その日から、俺はバスケットを辞め、更に父親の転勤で高校からはカズヤとチサとは

 離れた生活をしていた。

 












 「俺、チサと結婚したんだ。」

 公園のベンチでカズヤは呟くように言った。

 「そっか。あれはカズヤとチサの子どもだったのか。」

 俺は視線を合わさずに言った。

 「あぁ、高校出て、すぐに結婚してさ。ほら、ウチの家、商売してるだろ?

  親父の跡継ぎでさ。」

 「あぁ。」

 俺はただ同意するだけしか出来なかった。

 「お父さ〜ん。」

 少女が走ってくる。

 「あ!」

 俺が声を出した瞬間、少女はこけてしまった。

 「サキ、危ないだろう?」

 そうやって近づいて面倒を見るカズヤは、まさに父親で、俺みたいに当時から

 全く進歩がないような人間とはすごい違いだ、と思った。






 そうこうしながら、帰りはカズヤたちと途中まで一緒に帰っている。

 「あぁ。都会だと大変だろう?こっちには来ないのか?」

 カズヤとは他愛ない会話をしながら、歩く。

 それは、中学の頃と全く同じようで、全く違ったものだった。

 そうやっていつも分かれていた交差点で

 「なぁ、俺の家に寄っていかないか?チサも喜ぶと思うんだ。それに、オマエだって・・・」

 「いや、いい。」

 俺はただ一言だけ、そう言った。

 「オマエ、変わったな。」

 カズヤは感慨深くそう言う。

 「俺はさ、高校出て結婚して、子供が出来て、そのままこの町にいたけどさ。オマエは

  都会にいたんだもんな。」

 そう言って、下を向く。

 サキという少女は、その父親の様子に何か感じたらしく、俺に何か言いたげな視線を

 向けていた。俺は

 「いや、それにさ、俺は今日は帰ったばかりだからさ。家族と話したいこともあるんだ。」

 そう言って、取り繕うと、カズヤは

 「そうか。それなら、仕方ないな。おじさんとおばさんによろしく伝えてくれ。」

 そう言って、カズヤは自分の居場所に向かって帰っていった。














 ふとカズヤの背中を見れば、アイツには居場所がある。

 それに時間は誰にも流れていて、それぞれのペースで進んでいく。

 ここにはここの流れが、都会には都会の流れが。











 急に俺は都会に残してきた彼女のことが気になって、携帯のメモリーから電話した。

 「あぁ、俺だけど、明日帰るからさ、夜、予定空けておいてくれる?」













    ・・・話したいことがあるんだ。













   そう、俺の戻るべき、「居場所」に・・・。
END
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