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Memory
著:TAMAKI
季節が始まるたびに、この桜の下に来る。 俺はもう何度、これをやめようとし、何度、ここに足を運んだのだろう。 幼い頃、俺はこの街から一度離れた。 確か、小学校を卒業する日にこの街を離れたのだった。 その日、俺はこの街から離れるのがイヤで、この桜の木の幹に登って 街を見下ろしていたのだった。 そうやって、陽が落ちようとした瞬間、 「ねぇ・・・危ないよ。」 と声が聞こえた。 見下ろせば、そこには見たことのない少女が立っていて、俺のことを 心配そうに見上げていた。 「そんなことないさ。ここは景色がいいからね。」 「でも、危ないから。」 そう言って見つめた彼女の瞳は黒く、深く、俺は吸い込まれそうになる のを押さえるように、木から下りた。 「よかった。」 彼女の安堵したその笑顔は俺の心の冷たくなっていたところを温め、 俺も、 「街が暗くなってきたからさ。」 と言って笑った。 二人で話し、時間はもう7時前だった。 「あははは。でさ、ソイツがさ・・・。」 楽しい時間はただ早く、彼女も時間が過ぎているのを忘れているように笑った。 ただ、その笑顔を見たくてその時の俺は、彼女に話しかけていたのかもしれない。 「帰ろう?」 彼女は突然、俺にそう言った。 「え?」 俺は糸の切れた人形のような顔をしていただろう。 「貴方は、明日この街を離れるんでしょ?私は貴方の側でずっとあの景色を見ていたの。 私も・・・ずっとこの時間が続くと思ってた。・・・でも、違う。貴方のように、この 街を離れていく人もいる。だから、忘れないで居て欲しいの。ここで見た景色を。 そしてこの場所の暖かさを。」 そう必死に言う彼女を俺はただ、見ているだけしか出来なかった。 「貴方がね、この街を離れるって知って、こうやって私は貴方の目の前に出ようって決意したの。 だって、貴方、ここでいつも口笛吹いていたでしょ?」 そう言って彼女の唇から紡がれる音は少し頼りなかったけれど、俺がいつも吹いている ものと同じだった。 俺はただ、彼女のことを抱き締めたくなってその華奢な体を抱き締めた。 「え?」 彼女は抜けたような声を出したけれど、すぐにその腕は俺の背中におずおずと伸びてきた。 「あったかいね。」 「そうだろ?俺は暖かいんだ。」 何も言わず、ただそうしていたけれど、 「でも、帰って・・・。」 俺の胸を押すように体を話して彼女は言った。 「うん。貴方はきっとここに戻ってきてくれる。それがわかるから。 だから、私を忘れないで。そうすれば貴方はここに戻ってくる頃に・・・。」 びゅぅと風が吹いた。 俺の目の前から、少女は消え去っていて、街は闇に包まれていた。 でも、俺には抱き締めた感触がまだリアルに残っていて、彼女を抱いていたことが 幻ではない、と告げていた。 俺はしばらくそこに立っていたが、家に戻り、この街を次の日、離れた。 もう、6年経ったんだな。 俺はこの木の下に戻ってきてから6年が経つ。 大学がこの街の近くにあって、俺はこの街に引っ越した。 そうして、今年で6年が経つ。 俺の隣には、今も誰もいない。 「君のことを待っているんだよ。」 そう、見上げて、呟いた。 END
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