Wine
著:TAMAKI
 部屋にはむせ返るような愛液の匂い。

 私はその部屋をあとにした・・・。

 「今日はここまで。ヴァネッサ、あとは任せる。それが終わったら、私のところに報告に来るように。」

 私はあくまでも、命令する。











  ―――それがミストレスであるためなのだから。









 カツカツカツ・・・・・・。

 廊下にヒールの音を響かせながら、自分の部屋に戻る。

 途中、すれ違うメイドたちは恭しく、頭を垂れる。

 ギィィィ・・・。

 ドアを開ける。

 中の冷気が一気に私のほうに向けて流れる。

 その中心には、私の主がいる。









  ―――俺がオマエを支配する。









 私の中の唯一の人。

 唯一という存在になった人。

 「今日も何事もなく、終わりましたわ、お館様。」

 そう言って、氷の柱に眠る人に、微笑む。

 私と結ばれることで、死ぬなんて・・・・。






















   ―――なんて・・・・無様・・・・・・・・・。






















 私がそうなのだ。

 運命が歯車で回っているというのならば、どこから狂い始めたのだろう。



 お館様を助けたとき?


  ―――もっと前・・・。


 シュナイダーと、マナミを殺したとき?


  ―――それよりも前・・・。



 お姉さまが・・・・・・・・お父様を殺したあの日?



  ―――多分、一般的に見ればそうなのだろう。








 でも、違う。

 歯車は、因果で、それは私やお姉さまが生まれる前・・・。

 そう、お父様が組織を作り上げたことだろう・・・・。

 そう考える。

 それでも、現実は変わらない。








 コンコン・・・。

 この整ったノックの音はヴァネッサだ。

 「入れ。」

 私もあくまでも、冷静に言う。

 厳密に言えば、私とヴァネッサの関係は少し変わった。

 お館様がいた頃には、ヴァネッサは私を監視していただろう。

 しかし、今は、私の秘書であり、重要なブレインでもある。

 お陰で、お姉さまのいないあと、組織の領地を広げられたと言ってもいいだろう。

 「カオルコさま、牝ブタを部屋に入れておきました。」

 業務的に言う。

 「そう、明日は、奉仕を中心に進めるから、奉仕の部屋は開けておいてくれる?」

 私も表情を崩さない。

 もともと、二人で話すことはなく、ミストレスと奴隷、というカタチで関係は

 成り立っていたが、今は、どちらかと言えば、唯一の腹心と言ってもよいだろう。

 「わかりました、カオルコさま。」

 恭しく、頭を下げる。

 「・・・ヴァネッサ、ワインをここに。グラスは3つ持ってきてもらえる?」

 唐突に言ったため、ヴァネッサは驚く。

 「わかりました。すぐに用意させます。」

 そう言って、踵を返した。











  ヴァネッサはそのあと、ワインとグラスを持って、すぐにやってきた。

 「ご苦労様。」

 「ありがとうございます。それでは・・・。」

 ヴァネッサは部屋を出て行こうとする。

 「ヴァネッサ、貴女の分もあるのよ。だから、少しくらい付き合いなさい。」

 やんわりと言う。

 カーンという男に言わせれば、私はお姉さまよりも懐柔策に向いているのだそうだ。

 そう言った、本人はもういない。

 「ヴァネッサ、あのカーンという男、処分は終わったの?」

 私は少し、サディスティックに笑い、そして問う。

 しばらく、否、一瞬の間を置いてヴァネッサはどうなったかの報告をした。

 普段は資料を読むヴァネッサだが、自分のプライヴェート・スレイヴを使って殺したのだから、

 覚えているらしい。

 一様の報告を聞いて、私は言った。

 「それじゃ、飲みましょうか・・・。お館様。」

 そう言って、ワインをグラスに注ぐ。

 私の好きな赤ワイン。

 血のように真っ赤で、濃い色のワインだ。











 チンッという音が鳴る。

 しかし、やはりヴァネッサの表情は固いままだ。

 「どうしたの?ヴァネッサ。ワインは苦手ではなかったと思うけど?」

 わからなくもない。

 これに予め毒を仕込むことなど、領主となった私には簡単なこと。

 「いえ。いただきます。カオルコさま。」

 そう言って、ワインを口に含む。

 「そういえば、ヴァネッサはワインを嗜むほうだったわね。どう?このワインは。」

 ヴァネッサはしばらく考え、

 「はい。これはおそらく‘57年頃に作られたワインだと思います。熟成によほどの

  管理をされたものですね。」

 そう告げて、私の瞳を見る。

 私は、

 「ご名答よ。ヴァネッサ。今日は、ただ、こう飲みたい気分だったの。お館様が

  ここに来られて、半年、お館様と、私と貴女でずっとあの牝ブタを調教していた日々。

  そして、亡くなられて・・・1年になる。」

 遠くを見つめて言う。

 その視線の先にはお館様の顔・・・。

 「はい。カオルコさま。」

 同意の声。

 それ以上を聞くのもどうかと思ったので、詮索もしない。

 「ヴァネッサ・・・。貴女はお館様のこと、どう思っていたの?」

 不意に思った言葉・・・。

 それをヴァネッサ投げかけた。

 「私には・・・ただの監視の対象であり、被検体でしたが、それでも、カオルコ様の

  大切な方、という認識はありました。」

 今度は私の瞳を見つめる。

 私は、そのヴァネッサの瞳に聞いた。声を正して。

 「そうじゃなくて、ただ、貴女がお館様を『好き』か『嫌い』か、それだけよ。」

 それが耳に届いた時、ヴァネッサは心底驚いた顔をした。






















 「ヴァネッサ、本当はどうだったの?」

 ヴァネッサは考える。

 ここでの最善の答えを・・・。



















  「多分、好き・・・という感情よりも尊敬しておりました。」






















 「それでは仕事があるので失礼します。」

 ヴァネッサが出て行った無人の部屋で呟く。

 「そう・・・。貴女にはそうだったの。」

 私はかみしめるように言う。

 愛しい人の顔を見つめながら。

 「・・・・お館様はどうだったのですか?」

 答えなどないに決まっている。





















  ―――俺は、カオルコ、お前を選んだんだ。














      言っただろう?













      俺がお前を支配する・・・と。

























  ふと、気付けば目の前でお館様が笑っているように見えた。
















  「そうでしたね。」













  ただ、一人、私は・・・・











  お館様の柱にキスをした。
























   ガラス越しにキスを交わすように・・・。
END
あとがき
 これは公開時の一つの目玉です。
 ピジョンブラッドのSS、時期遅れだなぁ・・・。
 M×Sが出てるのでしょうか?
 ううむ・・・でも、ピジョンブラッドはいいゲームです。
 何度やってもいいですから。