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幻のサカナ
著:TAMAKI
痛い・・・。 寒い・・・。 苦しい・・・。 ふと、気付いたとき、もう、私の体は、こうなっていた。 どうしてだろう・・・?なんでだろう? 私が、自分の意識に戻ったとき、朱に染まった部屋にいた。回りには、 ・・・腕・・・・脚・・・・・・胴・・・首が引きちぎられて捨てられていた。 ここが路地裏だと気付くのにしばらくかかった。 そして 私が この人達を くびり殺したという 罪も ひとをころした。 ヒトヲコロシタ。 ひトヲこロシた。 血を吸い尽くして・・・。 気が狂いそうだった、いっそ狂えたらよかったのに、彼を思い出すと正気に戻される。 約束を交わした、彼を。 私を助けてくれると言った、彼の名を呟いた。 「遠野くん、助けてよ・・・。痛いよ・・・。寒いんだよ・・・」 空には狂いそうなほど 美しい月 穢れなき月 「ぐっ・・・。」 また、痛みが襲ってきた。 さっきから、だんだんひどくなってきている。 そして、この殺意・・・。欲望・・・。どこからか聞こえてくる、『血を吸え。』 という命令。 さっき、無意識に、女の人を、ここに引きずり込み、首筋に牙をたていた。そして 血液を吸い尽くした。もうこの人は人ではない・・・。もう顔のカタチすらわからな い。ただの肉の塊・・・。 と、別の方から、すごい殺気とともに、なにかが飛んできた。それを、身を翻してかわす。 さらに、私にめがけて、刃らしきものが飛ぶ。その攻撃は一方的、かつ、正確、残酷に 私を追い詰める。それは攻撃というより、『狩り』のために投げられている、と思った瞬間 頭の中が真っ赤になった。 まず、足元に転がる死体を掴み、相手に向かって全力で投げつける。相手は、それにも 容赦なく、剣を投げつけた。その死体は、首だけが飛んでいった。 相手には当たらなかったが有効な手だったようだ。もう一度、別の死体を投げつける。一度目 の攻撃で、空中に逃れていたから当たると思ったのに、剣を投げつけて軌道を変えられた。 しかし、重力は誰にでもあり、相手が着地した結果、私は相手と対峙することになった。 その相手を見た・・・。 泣きたくなった。 だって、彼女は 昨日の昼 遠野くんと あんなに 楽しそうに 話していた人だったから・・・ 相手はシエル先輩だった。でも、ふと頭に引っかかった。記憶を手繰り寄せる。でも そんな先輩なんていなかった・・・。どうして、違和感がなかったのだろう・・・と、 そう考えていると、機械的な冷たい声が路地裏に響きわたった。 「弓塚さん、貴方を殺します・・・」 抑揚のない宣言。すべてを否定する冷たさ。恐ろしいほどの気迫・・・。 「そっか、先輩は、私を殺すんだ・・・簡単にOKするなんて思う?」 それが合図だった。先輩は剣を投げつける、それを、死者を盾にして、かわす。 間髪いれずに懐に入り込んでくる、私はかわすのがやっとだった。 視界にさっきの死者が、石化しているのが見えた。 と、さくっという小気味よい音が聞こえた。私の左わき腹が抉られた。。はじめは そう思わない痛みだったが、次の瞬間、私はのたうちまわった。制服が血に染まる・・・ 痛みが私を支配していく。 その時 アタマのナかで ナ二かガハジけタ・・・ 「・・・・久・シ・・ぶり・・・・・ダ・ナ・・・」 アタマの中から響く様な声だった。 「えっ!?」 先輩の動きが固まった。どうやら・・・私が出した声らしい・・・。 しかし、言ったのは私じゃない、私の中にいるナニカが話している。ナニカは、先輩のことを 知っているモノのようだった。そんな私を睨み、すごい気迫で先輩が叫んだ。 「貴方は・・・ロア!!!やっと見つけた・・・。あなたを消滅させます!!!」 先輩の持つ剣の数が増えた。私を狙ったときよりも数本多い・・・。腕が、わなわなと震えている 。 私には本気じゃなかったらしい。そう考えていた私の頭のなかに言葉が、意思が流れ込んできた。 『オマ・エは・まだ、こ・の体を使い・こな・せて・い・ない・、使い・・方を教え・てやろう。よく見ておくのだな・・・』 勝負は拮抗状態が、しばらく続いた。信じられない動きで戦う・・・。 しかし、どれくらい経ったろうか、先輩の息が切れ始めた。 「どうした?エレイシア。オマエの力も落ちたものだな・・・あの時の様な素晴らしい能力はないのか?」 よく見れば、先輩の右肩から、血が滴り落ちていた。 「その名前で呼ぶなっ!!貴方だけは・・貴方だけは・・・私が・・・」 それを聞いたとき、見たことの無い街の風景に変わった。それは日本ではない、ヨーロッパの どこかの街のようだった。街中に、私と同じ、血を吸うものがいる。そしてそれは、街の状態、 そのものだった。そのなかに・・・たった今、目の前にいた、先輩が立っていた。 それは、見た事がない、先輩の顔だった。その顔は見たものを石化させるメデューサのようだった。 「ククッ・・・」 その残酷な世界を見て笑っている。常軌を逸した笑い・・・。それは先輩じゃなかった。それを見透 かしたかのように、私のなかにいるナニカは笑った。先輩に似たものと笑い方が同じだった。 それは、理性を完全に壊し尽くしてしまったかのような笑いで、私はゾッとした。 そして、再び街を見渡す・・・。そこにあったのは、 叫び・殺戮・恐怖・・・ それだけの世界だった。それ以外何ももない・・・。ただの狂気の世界・・・。 そこで、映像は途切れた。途切れてよかった。 あそこは、耐えられない・・・。しかし、目の前の景色は、もっと凄惨だった。 水の中、先輩が浮いている・・・水じゃない、公園の噴水の中が、すべて血で溢れかえっていた。 その真ん中には、串刺しにされた先輩がいた・・・。 「がふっ・・・・。ごぼっ・・」 先輩は血を吐き続ける。終わることのない苦痛・・・。しかし、それを・・・ 先輩を殺し続けているのは、まぎれもなく、私自身なのだから・・・。 不意に、ナニカの意識が千切れた。私はそれを見ていた。噴水のオブジェを。 よく見ると、キリストのように、右腕、左腕、両足を剣で磔にされ苦しんでいる先輩の姿を・・・。 おかしいことに、失血していると、明らかにわかるくらいの出血なのに、先輩は生きている。 その眼で、私を睨み続けていた。私が見ていると、先輩の傷は癒えはじめ、自分に刺さった剣を抜き始めた。 さすがに、ふらついていたが、その傷は、すぐに消えた。再び、対峙する。 「その様子では、ロアは貴方から消えましたか・・・。遠隔操作は力を消費するからでしょう。弓塚さん、 貴方は、ロアではないのですね・・・」 一瞬、落胆が先輩の顔を支配した。しかし、次の表情は、なにも感じない能面のような表情だった。それは、 私を・完全に・殺す・という意識の塊だった。 目算で相手と10メートル・・・。多分、スピードは先輩のほうが上。しかも、あの様子じゃ、生半可に ダメージを与えても無駄・・・。 と、いうことは、なんとかして、距離を広げて、逃げ切る。そのためには、今の倍の距離は必要になる。 さて、先輩も待ってはくれそうに無い・・・。考えていると、タンッと軽い音とともに先輩はすさまじいスピードで突っ込んできた。 なんだか後ろにさがってはいけない気がしたので、あえて、こちらも突っ込んでみた。右腕を先輩に向かって 思い切り突き出す。驚いたことに、私のスピードは、先輩を超えていた。そして、先輩もそれに驚いていた。 私の右腕は先輩の脇腹のあたりを、撃ち抜いた。咄嗟に反撃がきた。それを腕で弾き飛ばす。ギィィンという 金属どうしが接触したときの、特有の音が鳴り響いた。 私の力が、上回っているらしく、先輩と私はさっきとは、別の場所に立っていた。 潮の匂いがする・・・。音が聞こえる。ここは、この街唯一の神社だった。 「さっきよりも、身体の使い方を理解してしまったようですね・・・。さっきの貴方なら、苦しまずに 逝けたものを・・・。遠野くんのお友達だった貴方を、苦しめたくはなかったのですが。」 心底残念そうに言う。 一瞬で、気付かずに死ぬ。それはある意味理想かもしれない・・・。 でも、私は、許せない気持ちでいっぱいになった。 どうして、そんな心でいられるのか、そういうことを言えるのか・・・。 「・・・そっか、先輩はこうなっちゃった私にも優しいんだ?そんな『いい子』してて楽しい?私は辛かった・・・。 自分を殺して生きて楽しいの?本心を隠してまで・・・そこまでしなくていいじゃない!」 いままで、変わることのなかった、先輩の顔が変わった・・・。それは、ひどく寂しそうな顔だった。 次の表情は冷静で、私を真っ直ぐに見据えて、ふぅ、と息を吐き、こう言った。 「貴方は、毎日、来る日も来る日も殺され続ける苦しみが理解できますか?それに比べたら、学校での生活を 私がどれだけ大事にしているか、みんなを、どれだけ大切に思っているかを理解できますか?」 強い意志を持った顔で言う。 それは解ってる。すごく解ってる。 ____でも、だからって、死にたくない。死ぬのは早すぎる。やりたいことは沢山ある。 だから・・・あなたを、否定するしかないの・・・でも・・・ どれくらいの時間がすぎたのだろう・・・。実際は、数秒だったのかもしれない。 不意に気になったので聞いてみた。 「・・先輩は・・・遠野くんと仲良かった・・けど、どう・・思ってるの?」 え・・・と口ごもったり、あたふたしてる先輩。そしてしばらく考えて言いました。 「彼は、今は、私の片思いの相手です!あんな鈍い人なんて初めてです。」 「そうでしょ?私は中学から同じ学校だったのにさ、私に全然気付いてくれないんだよ? 信じられる?先輩。」 「う〜〜ん、あのトウヘンボクぶりは、もう中学から始まっていたんですねぇ・・・」 呆れたように言う先輩・・・。ふっと思ったことを言った。 「もしかして・・・・先輩と、私って、すごく似てる?同じ人を好きになったり。・・・ねぇ・・先輩? ・・・もしも・・・・もしも、普通に知り合えていたら、いい友達になれたのかもね。」 微笑んで先輩が答える。 「ええ、いつも、遠野くんの悪口言って、一緒に遊んでいたかもしれませんね。」 ____そして、風が吹いた。 「・・・やっぱり、私、もう戻れないんだよね?」 「ええ、私には、どうすることも出来ません・・・。ごめんなさい・・・弓塚さん。」 二人は微笑み合った。 そして、風に乗って、潮の匂いが、した・・・。 それが、合図だった。 二人が交錯する さつきは、右腕を手刀にし、シエルの袈裟懸けに振り下ろす。だが、その先にシエルはいなかった。 シエルはさつきの右側に回る、そして、横一文字に剣を振るう。咄嗟にさつきはかわそうとした。左に飛びのく。 さつきの思い通りに距離が広がらなかった。 右足の肉は、石化していた。当たったのた。掠るだけで石化する、土葬式典だった。 そして、さつきの右足に石化が広がる・・・。さつきは、覚悟した。でも怖かった。自分がいなくなるということが。 ___思った。この人なら任せられる、私と同じ人を好きなこの人なら。 口が動かしにくい。もう右半身のそこまで、石化は進んでいた。 ただ、言いたかった、自分と似た、この人に伝えたかった。 「ねぇ、先輩、私、もうすぐ石になるんだよね?」 「えぇ、この石化は止まりません。あと三分です。それで、あなたは石になります」 なぜか、先輩が泣いているように見えた・・・。 「じゃ、お願いしていいかな?遠野くんが危ないことしたら、先輩が、守ってあげて。かわいい後輩からの・・・ お願い・・聞いてくれるかな?」 「解りました・・・」 先輩の震えた声が聞こえた 右眼の感覚を亡くした・・・。 ふと、思い出した。 小さい頃、大好きだった、絵本の話を。 「たしか、、泡になっちゃうんだよね?人魚姫って。吸血鬼の私でもなれるかな?」 「えっ・・?」 シエルが言った瞬間、さつきは、左足に全力をつけて、柵を飛び越えた。 下は、全面の海。 ザバンッという音とともにさつきは、海に飛び込んだ・・・。 薄れていく意識の中で、そこにいるはずのない人に言った。 「遠野くん、私はいつでも、あなたをみているから・・・」 そして、さつきの意識は消えた・・・。 シエルは、砂浜に降り立った。そして、さつきが落ちたあたりに眼を向けた。 そこには、銀色の満月が、映っている。 揺れている月。 ぴちゃん、という音がした方を見た。 魚が跳ねていた。 銀色の光を反射させ 沖に泳いでいった。 「解りました。約束します。弓塚さん。」 シエルの姿も砂浜から消えた。 聞き届けたかのように、魚が跳ねた。 END
あとがき
実は初SS。 今、読むと「青いな」と呟きたくなる話です。 でも、自分の根幹の一部なんですよね、こういうのも。 うん。改めて読み返したら、少し直したくなりましたね。 ではでは P.S.感想なんかくれたらうれしいです・・・はい。 了
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