彼岸花
著:TAMAKI
  見上げれば銀色の月。







  そして―――満月。







  忌み嫌われるモノとして・・・・







  崇拝の対象としての月・・・・。

















  無言で見つめる月が紅葉の影に隠れる。

 途端に私の世界の周りは、真っ暗になり、夜の闇が支配する。

 











  ―――びゅう、











   と風が吹いた。










 
   腰まで再び伸びた髪がさらさら、という音を立てながら流れる。












  見上げればただ静かに雲が流れている。

 「はぁ・・・・・。」

 なんど繰り返したため息だろう。

 ここのところ、夜は眠れない。

 冷たくなってきた風に吹かれれば、この気分も違うのかもしれない、と、外に出たのはいいが、

 どうも寝付けない。

 翌日、琥珀には決まって言われる。

 「秋葉さま、遠野家の当主なんですから、夜中に外に出るのは考えてください。」

 と。

 それでも、一人の闇は長い。 

















  否、違う。























   一人で過ごす時間はこの先、永い。






















  おそらくは私の中に眠る遠野の血に支配されるまで。





























   その時間は有限なのに、無限であるかのような永さ。







































   ・・・一人で過ごすには寂しすぎる。

 




















  「兄さん、私は泣きませんよ。」
























  ふと、呟いた言葉。

 兄であり、恋人であった遠野志貴にあてた言葉。

 多分、本人が聞けば苦笑いすることだろう。

 それでも、夏のある日、兄さんは呆気なくこの世を去った。

 あれだけのことを越えて、やっと隣にいられるようになったのに。

 本当に呆気ない最期だった。

 私の目の前で、「ありがとう」とだけ言葉を残し。

 穏やかな笑みを浮かべて・・・・。






















  それ以来、兄さんの部屋は私が寝室として使っている。

 おかしなものだ、と自分を嘲笑う。

 だって、シキの部屋として最初は使われ、その次には兄さんの部屋として。

 その後に部屋の主となったのは、私。





















      ―――涙は流れない。






















  雲から満月が出てくる。

 空気は少し冷たくなり、肩には露が薄くかかってきているのがわかる。

 「兄さん、今はどこにいるんでしょう?」

 そう、一言だけ声を発して、私は庭の奥に進む。

 













  気が付けば、幼い頃、兄さんとシキと、私で遊んだ少し広くなったところに出た。

 そこだけが月明かりに照らし出されて光っている。




















  ――――――ふと、幻視する。




















        幼い頃のことを。






















        3人で笑いながら追いかけあいをした日のことを。





























  「ふぅ・・・。こういうのも無駄なのですね。兄さん。」

 呟いた声は空虚にその月明かりの中に木霊する。

 聞こえるのは鈴虫の音だけ。

 蒼香曰く「遠野は妙なところが乙女」だと言う。

 けれど、私は残酷なくらいに、その後にくる現実を知っていて、それが来ると絶望してしまうのを知っているから

 つい、現実的になる。

 遠野の家の当主としての仕事もあるが、それ以上に、兄さんが亡くなってから、私の現実主義のところは

 強くなったように思う。

 理由は、単純なもの。























   ただ、好きで愛しい人がいない、と言うだけ。


























  遠くで木々の擦れ合う音が聞こえる。

 少し肌寒い風が私の体を通り抜けた。

 「冷えてきましたね・・・。」




















 ―――――答えなんてないのは判っている。




















      嫌になるくらい、自分に答えが返ってこないのは判っている・・・の・・・に。

























  くっ、と唇を噛み締める。

 泣くわけにはいかない。

 私は私なのだから。

 それでも、兄さんのことを思い出すと、胸が一杯になってくる。

 だからと言って、ベッドで横になっていても、眠れるわけではない。










  














  落ち葉を軽く踏みながら私は歩いた。










 



  その先には、離れの部屋が・・・。
























  最初に兄さんの来た頃の部屋はここだった。

 幼い私は、「誰なのだろう」という好奇心に背中を押され、この部屋に来た。

 そして、襖を開けた兄さんと目が合ったのだ。

 何も話せない私に、幼い兄さんは、微笑んで、「どうしたの?」とだけ言った。

 それでも、答えない私は、俯いてしまった。

 気づけば幼い兄さんが隣に来て、「遊ぶ?」と聞いてきたのだ。

 その頃からだろう。父親の目を盗んでは、習い事の合間にはここに来た。

 シキもいつからかそこに来て3人で遊ぶようになった。

 それが楽しくて、楽しくて仕方なかった私は、ずっとそうあることを望んだ。

 いや、幼い頃の私はそれを願ったのだろう。

 「シキや、志貴兄さんと3人でずっと過ごせるように・・・・。」

 あの頃書いた短冊のことを思い出す。

 季節も全く違うのに。

 今はもう秋。

 




















   兄さんが旅立った季節を過ぎたあたり。





























 「冷えてきましたね。」

 離れの襖を閉める。

 「あぁ、そうだな。秋葉。」

 聞き覚えのある声。

 「まったく、オマエはもっと自分の体大事にしろよ。志貴にさえ心配されてるんだぞ。」

 もう一人男の声。

 戻る筈のなかった男の声。




















 「・・・・兄さん・・・・?」





















  視線の先には私が一番愛している人と一番憎んだ人が立っていた。

 「秋葉、せっかくオマエの体に『魂』が全部戻ったってのに、どうして無理をする?」

 シキが厳しい顔をして言う。
 
 「そうだよ。秋葉はもっと体大事にしないとな。」

 便乗してか、兄さんまで同じことを言う。

 「私だって・・・・・。」

 言いかけると、シキがどこから出したのか、ぐいのみを三つ出して、一升瓶を置いた。

 「お、シキ、いいね。俺もくれるかい?」

 兄さんとシキがどかっと畳に座ってぐいのみに酒をつぐ。

 二人のぐいのみが一杯になった頃、

 「おい、秋葉は飲まないのか?」

 兄さんがそう言った。

 襖を明けて、ガラス窓からで、月を見ながら3人で酒を飲む。

 くだらない話に笑い、そして怒る。

 





























  ――――――この時間が永遠なら・・・・
































  いつか願った言葉。

 ずっと続けていればそれはやがて呪詛となったことだろう。

 それでも、私にも、シキにも、勿論兄さんにも限りがあって、いつかの別れが来る。

 そうあっても願い続けるには無謀すぎた夢。























  そう、これは夢なんだ。

 自覚はある、けれど、喉を通るアルコールの味は本物で、少し乾いた喉に吸収されていく。

 「あ、もう酒が切れたな。」

 夢の終焉の声のように、兄さんが言う。

 「だな。秋葉が大量に飲むからだ。」

 二人の視線を受けて、私は肩を震わせて言う。

 「お二人とも弱いんです。私が強いんじゃなくて、兄さん達が弱すぎるだけ。」

 「おー。怖。」

 少しふざけた言い方。

 「じゃ、俺たちはそろそろ行くな。」

 「あぁ、また縁があったら飲もうぜ。秋葉」

 そう言って二人は突然消えた。

 ただ、そこにぐいのみと、空になった一升瓶だけを残し。

































  次の日、外出の準備をして、中庭を見ると、そこには彼岸花が一面に咲いていた。

 「あぁ、去年種が飛んできたんでしょうね。」

 隣にいる琥珀が言う。

 「そうなの。でも、綺麗ね。」

 「はい。ではいってらっしゃいませ。」

 深々と礼をする琥珀に「いってくるわ」とだけ言って門を出る。

 ふと、その彼岸花の向こう側が見えたような気がした。




























  兄さんとシキが、こちらを見て、頷いて微笑んでいるのを・・・。
END
あとがき
 前回の更新はすいません。
 アルバトロス見たら1000人以上来てくれてたようで。
 本当にすいません。一応、状況を言うと、あの日、更新作業とプロバイダのHPサーバーの管理の時間とでindexをあげたあと一旦更新ができなくなっていたそうです。
 事前に連絡しろやモルァ!(゜□゜)な気分なんですけど・・・。
 っと、まぁ、説明はこれで。

 今回のあとがきですが、秋葉ですね。
 彼岸花というものは、僕個人からすれば少し一面に咲いたものは怖い、と思うものですが、あの彼岸花にまつわる話がとても多いので話の題材にさせていただきました。
 秋葉が見たものは夢か、それとも幻かは読んだ方が決めてくれればいいです。
 そういう意図も込めたSSだったりします。(笑
 で、アニメがもう公開間近ですが、どうなんでしょうね。
 一応、現在住んでいるところでBSが映るので、一回は見たいと思っています。
 ハズレになるか、少し楽しみです。
 でも、声優さんはそう有名な方ではないようなのですが・・・・。

 あと、今回のSSは実はアルバトロスに登録していません。
 ここに常時来てくれている方だけが見れるような・・・。
 とは言っても次の登録で他の人には読まれるのですが、それでも先に読めます(笑
 まぁ、あんまり最近、そういうマナーとか好きになれないんですよね。SS読む人の。
 色々と思うこともあったので今回はアルバトロスには登録しないことにしました。
 ちょっとよくない話も聞いたし、「読んでやって当たり前」的な状況も見えてるので、はっきり言うと「読ませたくない」だったりもします。
 そういう方が極一部だけでしょうけどね(苦笑

 では、また別の、次のSSがあれば・・・。