大切な風景
著:TAMAKI
   ───ねぇ、志貴は私といるときは楽しい?




   私は最近、志貴によく聞く。

   なぜなら、言い様のない不安に襲われるから。

   不安の元は、私の夢なのだけれど・・・。



   最近、私は、夢をよく見る。

   しかも、なぜか、志貴がシエルのところにいってしまって、私はそれに自分を見失って

   志貴を殺してしまう夢だったり、ネロ=カオスに志貴が飲み込まれてしまう夢だったり、

   気が狂いそうになる夢をよく見る。

   だから、志貴に訊ねる。

   それは、そう、呪詛のように










   「───ねぇ、志貴は私といるときは楽しい?」










    今日も、志貴の家にやってきた。

   とは言っても、昼間で、あのおーぼーな妹や、翡翠もいる。

   あの二人は私が志貴に会いに行くと必ず嫌な顔をする。

   でも、二人とも、それだけで、多分、志貴のことが好きなんだって思う。

   たしかに、あのばかシエルだってそうだ。

   あの女は気付いてないかもしれないけど、シエルだって、志貴のことが好きなんだ。

   だから、私や妹にも、絡んでくるんだ。







   「志〜〜貴〜〜〜、遊びに来たよ。」

   琥珀に通されて私は志貴の部屋に向かう。

   翡翠と琥珀はこんなに似ているのに、どうしてこんなに性格が違うんだろうって思う。

   部屋に入ると、志貴はベッドに腰掛けている。

   そして、いつものように、微笑んで私に言う。

   「おはよう、アルクェイド。」

   ───と。

   私は、いつもこの笑顔を見ると嬉しくなる。

   それは、恋人に会うから。

   でも、それだけじゃない。

   私は気付いている。





   志貴は、普通の人間のように、長くは生きられないということに。





   だから、朝、志貴が起きているのを見ると安心する。

   


  

   その笑顔が在ることに、私は安堵するのだ。







   「で、今日はどこに行く?」

   「え?」

   「お前なぁ、人に、『今度の休みにどこかに連れていって』なんて言っておいて、

    どこに行くかも考えてなかったのか?」

   ちょっと怒った風に志貴は言う。

   私は、こう言われるとは思わなかったから、ちょっとだけスネてしまう。

   それで、上目遣いに

   「ごめん。志貴と遊べるのが嬉しかったから、それだけしか考えてなかったの。」

   と答える。

   そうしたら、志貴は、決まって何か困ったような顔をする。そしてその後は

   「お前のことだから、そうだとは思っていたよ。」

   と、言ってくれるからだ。

   








   そして、しばらく志貴は考えた後、

   「じゃあ、行くか。」

   と言って、私に行き先も教えずに歩き始めた。

   








   どれくらい歩いたのか、多分、話すのに夢中で、わからなくなってしまった。

   でも、そこは、海が一望できるハイキング場みたいなところで、海の反射した

   光が、目に入ってきて、眩しいくらいだ。

   そして、志貴は、私の後ろにいて、眩しそうにしている私を見て笑っている。

   でも、志貴も眩しそうな顔を一瞬だけしたので、私は『ぷっ』と笑って、

   


   お互いが向かい合って



   お互いの顔を見て



   笑いあった。





    しばらくして、笑いつかれた私たちは、地面に座り込んで、海を眺めていた。

   「ねぇ、志貴は、ここがこんなに綺麗って知っていたの?」

   と不意に思いついた疑問を投げかけてみた。

   すると、少し考えたあと、

   「あぁ、ここは前の有間の家にいたころから知っていたよ。まぁ、秋葉とかいると

    ドタバタして、ここの雰囲気が崩れてしまうしさ、アルクェイドとゆっくり、この景色を

    眺めたかったんよ。」

   と、最初は私の顔を見て話していたのに、途中から、恥ずかしいのか、目線を宙に泳がせながら

   そう言った。






    私はそんな志貴が凄く愛しくて、私の唇を志貴の唇に重ねた。
   
  




    「んはって・・・。アルクェイド、そういう不意打ちは卑怯だぞ。」

    「でも、志貴だって嬉しそうな顔してるじゃない?もしかして嫌だった?」

    意地悪に聞いてみる。

    そうすると、困った顔をして、照れて、

    「い・・いや、そんなことないけど・・・。」

    と、答えた。

    実際、私のほうが、いつもと立場は逆なのだが、今日は、どうしても

    いつもの『お返し』をしたかったのだ。

    そして、志貴は、うろたえながらも言う。

    「で、でもな、不意打ちは、シエル先輩のものだろ?!お前はやっちゃダメだぞ!」

    「うん。解ってる。あのばか女みたいに不意打ちだけが能じゃないからね。」

    私は答えた。

    そうすると、志貴は

    「あぁ、でも、先輩を『ばか女』っていうのはやめてくれ。放課後、茶道室に監禁されるのは

     御免だからな。」

    と。

    私は、シエルの話は嫌だから

    「志貴、シエルの話はこれくらいにしよ。この景色、もっと見ていたいから。」

    「あぁ、わかったよ。アルクェイド。」

    









    それっきり、志貴は話さない。






    静かな丘の上、私も、この静寂が心地よくて、話さない。






    潮の音が聞こえる。





    目をつぶって、その音を聞いていた。









     不意に、後ろから、包み込まれる感触に驚いた。

    「えっ?」

    見ると、志貴がそこにいた。

    私を後ろから、抱きしめていた。

    私はその横顔にキスをした。

    志貴は少し照れた顔をしたけれど、そのまま、その風景を見ていた。

    私も、その風景を見て、思った。













    いくら、先に不安があったとしても、現在を出来る限り、楽しもうって







 
     そうすれば、それもまた、大切な思い出になるのだから。
















       穏やかな風景の中




       陽に照らされた二人は




       お互いの体を預けあいながら




       その風景を記憶の中に留めていきました。
END
あとがき
 TAMAKIです。
 あまり、一筋縄にほのぼのや、ラブラブなSSにはしたくなかったので
 こういうのになってしまいました。
 実際、本当にアルクのラブラブは多いから、少し違う切り口を目指したものですから。
 では、また別のSSで。