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三日月夜
著:TAMAKI
───あぁ、秋葉、今日は綺麗な三日月だよ・・・。 俺はそう言って秋葉の朱に染まった髪を撫で、そして梳いていく。 こちらを見て、秋葉は、わかったような、わからないような曖昧な表情を浮かべる そう、もう今、秋葉は、遠野の血に完全に堕ちたのだ。 今は、何時なのか、何日なのか、それすらもわからない。 あの日、秋葉が完全に「人でないもの」になってしまってから、長いようで、短いような年月が 流れた。 いつのことになるか忘れたが、翡翠と琥珀にも、この屋敷を出て行ってもらった。 しかし、ロビーは整頓され、毎晩、台所に食事があるのを見ると、あの二人はここに来ているようだ。 実際、嬉しいものだった。 こう、こちらがあからさまに、「もういい」という態度を出しているのに、あの二人はそれでも、俺たちに 尽くしてくれているのだから。 「あ〜」 月に照らされたことで、眼が覚めたのか、秋葉はいきなり声を上げた。 「眼を覚ましたかい?あぁ、ごめんね。俺が起こしたみたいだ。」 出来るだけこうなった秋葉にも、心配をかけたくないので、微笑んで答える。 秋葉は、わかってか、わからずか、俺が月を見上げているに気付いて、同じように月を見上げた。 ふと見て思い出した。 「遠野の血に目覚めたものは、二度と人としての道は歩めない」 と言った秋葉の言葉を。 三日月は完全に、闇に大半を覆われた月 まるで、闇に包まれていく俺の心をしめしているよう・・・。 もう、二度とこの欠けた心は満月になることはないだろう・・・。 「う〜?」 秋葉が声を上げて我に返った。 俺は、その秋葉を後ろから抱きしめて、想いの湖に身を浸せる。 いつかこの秋葉の状態を知って 秋葉を殺しにくる奴らが来る。 そのときは、俺の 命に代えても、 殺しに来た者たちを ・・・一人残らず殺してやる。 ───と。 もう、俺の気は、世間から見れば振れてしまっているのだろう。 だから、翡翠も、琥珀も、俺と顔を合わさず、手紙だけ、置いていくのだろう。 まだ、彼女らの好意を感じられる俺の心は闇に覆われてはいないのだろう。 いっそ闇に包まれて、 狂ってしまえたら どれだけ楽になれるだろう・・・。 「───秋葉」 俺は、ぐっと秋葉を抱きしめる。 ふと思い出した。 俺に想いをよせてくれていた、女の子の名前を・・・。 彼女は、人の心を残していたから、苦しいと言った。 「───もしかしたら、弓塚は、こんな気持ちを味わったんだろうな・・。」 俺も、そう思う。 この、三日月のように、欠けて、欠けて、欠けてしまって、 その身を 心を ずっと闇に埋めていくことが出来れば・・・。 きっと、ここで、二人だけで、 止まった時間を過ごすことができるだろう・・・と。 考える。 秋葉がこうなって 何度目の三日月なのだろうと。 そして、その回数を思い出せる自分に 「オマエも、もう狂ってるんだろう?」 と嘲笑う声が聞こえた。 それは、間違いなく、俺が出した声だ。 しかし、俺は、そんな話し方はしない・・・。 鏡を見れば、 そこには 白髪の、 二度と見たくもない 殺人鬼が笑って、佇んでいた。 「ふう、今日はシキの姿か?まさか、お前まで、とは・・・な。」 「そうか?俺は、ここにずっといたぜ。お前が堕ちていくところを見せてもらったしな。これほど ワクワクする見世物は見たことがなかったくらいだ。ククク。お前も、わかっているんだろう? 秋葉は助からないということくらい。」 鏡に映る、シキと名乗る影は、俺にそう告げる。 俺は、そんなシキを憎いとは思ったが、殺そうとは思わなかった。 「もういいさ。幻想は。それで、今日は誰だ?」 秋葉を抱いていた腕にナイフを持って、離れの部屋を出る。 そこには 軋間という 俺の「死」の概念が こちらを見据えて 佇んでいた。 「今日はアンタかい?」 隻眼の男は黙ってこちらに目を向ける。 くだらない・・・。と言うように 「そうか、ようやく、お前たちも、その気で来たか・・・。しかし、秋葉を殺させるわけには いかない!」 タンッと軽い音の後 ごぉ!と風が切り裂かれる音が響く。 俺は、その男の攻撃を紙一重でかわした。 その隻眼は俺を見据えて、動かない。 「アンタが俺の死の概念らしい。アンタに勝てば、俺は、秋葉を守り抜くことが出来る!」 二撃目を仕掛ける。 同時に、ごぅという音が周囲に響く。 その音は俺の頬の左側を通り抜けた。 俺はヤツの急所である、体の右側に回りこむ。 しかし、男の反対側の腕の速さは、その単純さゆえ、何よりも早く、俺のナイフを防いだ。 男は、不思議そうに見る。 己の腕を・・・。 裂かれた、左腕を・・・。 再び、ヤツは俺の姿を見据える・・・。 ───どれだけの時間、攻防を続けたのだろうか・・・。 夜は刻々と時間を重ねていて、月も、違う場所に流れていた。 こちらはこちらで、あの怪力を避け、奴には、線が見えても、迂闊に飛び込めず 結果、ヤツの、左腕の攻撃を無力化できたくらいだ。 おそらく、俺もこのまま、避け続けることは出来ないだろう。 「あははははははははははははははははははははははははははははは」 不意を突かれた声。 向かい合った二人が気付かないくらいの間だった。 隻眼の男を朱の流れが覆う。 流れではない。 それは、朱に染まった髪だった。 「え・・・?」 と、離れの方向を見る。 そこには 赤い童女が 微笑みながら 佇んでいたのだから・・・。 童女は笑う。 そして朱の流れは 隻眼の男の体の上を流れる。 やがて、ソレは原型を留めなくなり ばさっという音とともにカタチをなくしていった。 ───見上げれば、月は弓に見えるくらい、闇に包まれていく。 ならば、待とう。 闇に包まれるまで この心が この少女のように 壊れていくとしても・・・。 もう、戻らないと解っている。 左回りの時計なんて 在りはしないのだから・・・。 END
あとがき
このお話は秋葉ノーマルエンドのあとの話です。 あと、途中に出てくるシキの影は、一応、術者が後ろに居て 遠野の当主の役割をそれがこなしている、といったものです。 まぁ、ノーマルエンドのあとですが、ノーマルエンドのあとかなぁ? と、凄く、闇から闇へ、的になってしまいました。 それでは、別のSSで。 了
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