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星の砂
著:TAMAKI
「兄さん、どうしたんです?珍しく、黒い服ばかりで。」 秋葉が俺に言う。 言えば、季節はもう秋。しかし、この気温は残暑と呼ばれるものに近い。 遠野志貴の格好はというと、 黒いシャツに黒いジーンズという黒ずくめである。 今日は俺にとっては、大きな日、 そう弓塚さつきを「殺して」しまった日だ。 あの約束を守ることが出来なかった日。 その日から、二年目になる。 去年も、同じ日に、同じような服で出かけたから、秋葉もわかっているのかもしれない。 秋葉には、詳しいことを話していなかったけれど、それでも、秋葉は秋葉なりに 解ってくれているようだ。 暦はもう10月を告げる。 遠野志貴がこの屋敷に帰って色々なことがあった。 何しろ、俺は、死んだと思ったら、シエル先輩に助けられていたのだから。 そうやって帰ったのはいいが、今度は秋葉が帰ってこない。 こちらが、年が明けて迎えにいったら、 「兄さんが言うから、仕方なく帰るんですよ。」 なんていって、ようやく帰ってきた。 それは遠野志貴には非常に嬉しいことだ。 でも、嬉しさに、溺れて忘れてはいけないこともある。 それを、忘れないようにするために、毎年、この日に、あそこにいく ───彼女を殺した路地裏に・・・。 そうこう考えながら、歩いた。 あの日 『さよなら』 を言い合った坂道を下る。 今は、夕方の4時。 ちょうどもうすぐ弓塚と別れた時間だ。 ───今でも覚えている。 忘れもしない彼女の横顔を。 立ち止まった俺の頬を夕日が照らす。 でも、決定的にあの日じゃないのがわかる。 ふと想う。 弓塚は今は心から笑えるのだろうか、と。 実際、死んだのだから、そういうことはない。 しかし、あの悲しそうな笑顔でいてほしくはなかった。 俺は、彼女を選ばなかったけれど、 それでも笑って、俺に恨み言も言わないで、逝った彼女には。 心から、笑顔で居て欲しかった。 何故か、今日は学校を通っていく。 去年もそう。 彼女との思い出を・・・ 少ない思い出だけれど、それを胸に刻むように。 教室に入る。 今は卒業したから、景色は違うけれど、この教室には、弓塚と話した記憶が残っている。 忘れない。 ちょっとしたことで、表情が変わる顔を。 嬉しそうなあの声を。 あまり長くいると、宿直や、教師に見つかるので、大通りに向かう。 あの日、「弓塚さつき」を探し回った。 弓塚がただ、ひたすらに心配で、 「───私が殺したんだよ」 そう言って、俺の前から消えた彼女がただ心配なだけで、 走り回った。 あの子を救おうと。 今も思い出すと、胸が苦しい。 やるせない気持ちで一杯になる。 どうして、「弓塚」だったんだ。 不意に天を仰ぎ、言葉が漏れる。 「───なぁ、どうして、弓塚だったんだ?シキ。」 と。 あの騒ぎのシキは俺が殺した。 シキが弓塚をあんなにしなければ、あの日のまま、 有彦や、俺、それにシエル先輩と話して、笑っていられたのかもしれない。 それが、多分、弓塚の望んだ、「未来」だったのかもしれないから。 そう思えば、やるせない気持ちになる。 その夢を潰した責任は俺にもあるのだから。 またよぎる。 弓塚の声が。 あの日の「痛い」と言った弓塚の顔が。 あの華奢な体が。 そうやって途中、花屋に寄って、路地裏の入り口に着く。 不意に中から、風が吹いた。 俺はここにはあまりいい思い出がない。 でも、今日の風は穏やかで、心地いいものだった。 そして、俺の脇を、一人の女の子が通り過ぎた。 その容姿はどこかぼやけていて、でも、どこかで見た姿だった。 しかし、今日の目的はこの奥。 さきほどの少女が気になったが、今は、ここで、 自分の心に「刻む」のが目的だ。 そうやって、路地裏の中に入った。 そうやって、彼女を「殺した」場所にかがむ。 買ってきた花をそこに置いて。 そして、祈る。 ───彼女が笑っていられますように・・・と。 ───どれくらいここにいただろう。 もう陽は西に沈んで、ここは闇に包まれようとしていた。 それでも、遠野志貴はここにいる。 そうやって、自分の「罪」を、刻む。 不意に、肩を叩かれた。 「え?」 我ながら、間抜けな声だったと思う。 そこには 弓塚さつきがいて こちらに微笑みかけていたのだから。 「ど、どうして?」 やっと喉から出せた声に弓塚は答える。 「うん、今日はね、遠野くんが私を思ってくれていたから、私が『視える』んだ。 前に、私を吸血鬼にした人が『視えた』のとは少し違う原理だけど、今日は、私のことを いつもよりも思っていてくれたからみたい。」 それは前とは少しだけ違う笑顔だった。 弓塚さつきは、心から嬉しそうに笑っていた。 それが、余計に俺には、辛い、という気持ちを強くした。 しばらく二人は沈黙したままだった。 話すことは沢山ある。ありすぎて言葉が詰まる。 そうやって、遠野志貴は言葉を虚空のようなコンクリートの中から探していた。 でも、見つからなかった。 そして唐突に弓塚さつきが声を出した。 「遠野くん、あの日、私は嬉しかったんだよ?」 突然、言われたことには俺は余計に混乱した。 しかし、彼女は続ける。 「あの日、私は遠野くんに気持ちを伝えられてよかった。今まで、伝えられなかった『言葉』を 伝えることが出来たのだから。」 わからない。 そう思う俺に彼女は更に言う。 「あの日の約束も守ってくれたから。遠野くんはやっぱり、遠野くんなんだって私は思った。」 わからない。 どうしてそんなことを言うのか。 わからない。 「だって、私を助けてくれたから。やっぱり、約束を守ってくれた・・・」 「違う!!!」 叫んだ。 俺には、都合のいい夢のようで、この「罪」から逃れるための都合のいい夢に思えて否定した。 そうやって、ポケットに手を入れる。 中には小さな瓶がある。 その中には灰。 弓塚さつきを殺した罪の証拠。 あの日、俺は倒れるように寝た。 どうやら、大事に握っていたものらしい。 次の日に琥珀さん(だと思う。)がテーブルに瓶に詰めて、手紙と一緒に置いてくれていた。 その日から、大事にしまっていた小さな瓶。 それを握る。 さらさら、 と音がしたような気がした。 弓塚さつきは笑顔で言った。 「ううん。そんなことない。遠野くんは私をあの、寒さや、苦しさから助けてくれたから。 だから、私には『救い』だったんだよ。」 そうやって彼女は舞うように俺の目の前に回り込む。 そして、そのまっすぐな瞳で、俺を見る。 「遠野くん、私は遠野くんがなんて言っても、助けられたって思ってるの。それを 罪にしていてほしくないから。」 そう言って、手を握る。 「でも・・・」 俺は言い返そうとする。 でも、彼女の瞳は 静かに そして優しく それを否定した。 「わかった。でも、俺は弓塚の気持ちに答えられたのかは、そう言われてもわからない。 でも、それでも、今でも弓塚のこと、助けられなかったと思ってる・・・ん!?」 遠野志貴は目を見開いて驚いた。 なぜならば、遠野志貴の唇に弓塚さつきの唇が重なっていたのだから。 その唇は少しだけ、暖かかった。 そして、弓塚さつきは微笑んで言う。 「じゃあ、これで、約束守れなかったことは許してあげる。私のファーストキスだから。」 嬉しそうに彼女は微笑む。 遠野志貴はというと、目を白黒させて驚いている。 そんな彼を見て弓塚さつきは笑った。 心から楽しそうに。 そうやって、彼女は消えた。 俺は、固まった。 もっと、話せばよかったとか、後悔があるけれど、 あの笑顔が瞳に焼き付いて、 涙が頬を伝った。 そして、ポケットの瓶を見ると 灰が オレンジ色の砂になっていた。 空を見上げて言った。 「それでも、弓塚さつき、という女の子のことは大切だよ。だから、忘れないよ。」 空には、銀色の月が空を泳ぐ。 まるで、海に浮かぶボールのように。 END
あとがき
今回はさっちんです。 別のお話が、中々、完成しないし、そのときに思い浮かんだお話です。 何気にさっちんはかわいいキャラで書くよりも、少し、強く書きたかった、というのがキーワード。 でも、なんだか、まとまりが悪いですね。 もう少し、綺麗にまとめたいです。 では また別のお話で。 了
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