Second Take〜Rock On〜
著:TAMAKI
  「先輩、ライヴ行きませんか?」

  唐突に瀬尾が言ったのは、アタシが夕食を終えて、交友室の前を通った日だった。

  




  「で・・・来たのはいいが・・・アタシも嫌いじゃないけどさ。この音漏れはなんだ?」

  そう、リハーサルが聞こえる。

  「う〜ん・・・リハでもこんな音で・・・」

  「普通はやらないさ」

  アタシは瀬尾の言葉を遮るように言った。

  そうですね・・・。

  しかし、普通のホールなのに、すごい音漏れである。

  これならライヴ中に近所から苦情が来るかもしれないほどだ。

  「でも、先輩、こんなにいい番号なんだし・・・」

  見ればチケット番号は、1組の3番と4番。

  実際、言えば先頭で見れると言ってもいいだろう。

  「瀬尾、もしかして、この番号だから、アタシを誘ったのかい?」

  そう聞くと、いつものように

  「はいっ」

  なんていう、ついいじめたくなるような答え方をした。

  ・・・・遠野、お前さんの気持ち、少しわかるよ。

  なんていう、やりとりをしていたら、呼び出しが始まった。










  1000人収容のそのライヴハウスはまだ人が少ないと広く、すべてを飲み込むような

  気持ちがするくらいの空間だ。

  でも、あと一時間もすればこの空間は、膨張しなければならないほどの人数になる。

  そう考えれば不思議なものだ。

  「先輩、なんだか真ん中なんて初めてですね。」

  そう言った瀬尾の顔は期待で破裂しそうだった。






  もう開場してから、45分くらいが過ぎた。

  相変わらずアタシは、瀬尾と話している。と、瀬尾は、

  「先輩、後ろ・・・。」

  というので見れば、二階席が見えない。

  そう、熱気が見えなくしているのだ。

  「こうなるんだもんな。さっきなんか少し寒かったくらいだ。エアコンのせいで。今じゃ汗かいてる

   くらいだしねぇ・・・。」

  ため息をついた瞬間、SEの音量が一気に上がる












     歓声    叫び    圧力










  三つが最前列の前、ステージのほうに向かう。

  真ん中の最前列にいるアタシなんか、簡単に倒されそうな力だ。

  瀬尾を見れば圧力に必死になっていた。

  その顔を見た瞬間、アタシたちの周りの世界が真っ暗になった。











    Go With The Devil.Are You Ready?









  というタイトルコールがされると同時に、爆音が襲い掛かってきた。

  普通の聴覚なんかとは比べられない、音が降ってくる。

  いや、面として、アタシの体に当たる。

  足からも振動があって、さらに、後ろからの圧力。

  その痛さが麻痺していくのがわかる。

  それこそ、アドレナリンが出てる、とはこのことだろう。





   生きてる証 今刻め





   その証すら残せない世の中、とくにあんな閉鎖された浅上にいて残せるのだろうか?

  なんてことを考えながらリズムに身体を預ける。






   立ち止まるには まだ早すぎる







   そう、アタシは立ち止まれない。

   あの親に反抗してるのだから。

   そう客観視できる自分にも驚いた。








   そうやってライヴは加速度をつけて、序盤から中盤に雪崩れ込む。









  アタシが見れば瀬尾は顔が真っ赤で苦しそうに見えるのだが、それでも表情は気持ちよさそうに

  前のバーにもたれている。

  「こうなっても、他のヤツを心配できるなんてね。遠野なんかに知れたら、どうなることか・・」

  そう、心の中で呟くと、ただ、静かな、求め続ける曲が始まる







   もうどれくらい 歩き 続けてる



   もうどれくらい 傷を 癒した



   いつでもいい ここから遠くに 行けるなら







  叫びが静かに響く。

  それはいつか、ホール一杯の合唱になる。

  こういうのは一瞬だけの綺麗さで、確かに完成された合唱団なんかよりも上手ではないが

  それなんかよりも綺麗だ。

  こういう瞬間が永遠になれば、と思う。

  それくらい気持ちのいい空間。




  ここから、ライヴは加速していく。

  止まらない。ただ、アクセルをベタ踏みしてるかのように加速する。

  ミディアムテンポのクールな曲があって、そのあとはハイテンションなナンバー。

  ダイヴは増えて、ぐちゃぐちゃになっている。

  それでも、瀬尾もアタシもリズムに乗り続ける。

  







   そう どこまでも 突き抜けて 



   どこまでも スピードをあげて 愛し合おう





  

 

  臨界点が超えたかのようにダウンしていくコもいる。

  瀬尾はダウンしたかと思いきや、気づいたらダイヴに加わっていて、アタシの上を通るときに、

  「先輩!楽しいですよ〜!」

  なんて満面の笑みで前に転がっていく。

  アタシの上を転がっていった瀬尾は前を走っていった。





  ライヴはそんなアタシにも珍しくなるくらい熱く本編が終わった。

  瀬尾の姿を見つけた瞬間に、ライトがまた落ちた。

  流れていく歌詞はポジティヴで、アタシでさえ、見習いたいと思うことだってある。

  熱が昇華されていくような曲。

  「しんみりしちまったな。いつもどおりのアンコールにするぜ!」

  叫んで始まった曲。

  フロアはまたも圧縮状態で、瀬尾なんて何度もアタシの上を転がっていく。

  それでも楽しい。

  この時間は最高だと感じる。このぐちゃぐちゃだけど、楽しいのは最高だ。








   ―――ラストだ、撃っちまおうぜ!






  トリガーが放たれた。

  ハイテンポなナンバーがアタシの身体を揺らす。

  「もう終わりなのか・・・」

  つい本音が出る。

  それでも、時間っていうのは流れるんだ、なんてこと考えながら、ただ、時間が流れる。





  アタシは気づいたら、ドリンクコーナーで瀬尾と向かい合っていた。

  意識が飛んだらしい。

  「しかし、瀬尾があんなにダイヴするなんて意外だねぇ。」

  なんてやると、「え?」と小さくなる。

  そんな瀬尾の頭に手を置いて、

  「気にしなくていいさ。ノり方に決まりなんてないんだからね。」

  そう言った。

  瀬尾は

  「はいっ。」

  なんていういつもどおりの返事で答える。

  「そういや、瀬尾、着替えに行こうか?」

  「あ!!」

  「どうした?」

  「忘れてしまいました・・・着替え・・・」

  アタシは少し考えたけれど、答えは決まっていた。

  「じゃ、このまま帰るか?周りに変なヤツとか見られながらさ。」

  もちろん笑顔だ。

  「はいっ!」

  そういって、二人で、ライヴハウスを飛び出した。
END
あとがき
 こんばんは
 今回はなぜか蒼香のお話。
 単純なのかもしれないけど、こういう感じの関係かなぁ・・・で書いてます。
 いかがでしょうか?