街路樹の景色
著:TAMAKI
 「あーあ。寒いなぁ・・・。」

 今日はまだ11月の最初。

 何もないから、家に戻ったら、いきなりお父さんに、

 「朱鷺恵、悪いんだが、遠野の家のドラ息子とお嬢様に薬を届けてやってくれ。あと、ちょくちょく来るようにもな。」

 と、遠野の屋敷に半ばおつかいのように、行くハメになった。






































  ―――そういえば、あのコは元気だろうか。



































 思い出すのは高校の頃、一度だけ、体を重ねた相手のこと。

 他の人とも、そうなることはあったけれど、今、考えると、私は彼に惹かれていたんだと思う。

 実際、私のその後の相手で「好きだな」と思うことはあっても、あんなに積極的に誘うなんてことは

 できなかったし、しようとも思わなくなった。

 「不思議なことねぇ・・・。」

 そう呟きながら、バス停までの道を歩く。

 そこに、風が吹いてきて、少し冷えた空気が、もう冬が近いのだと感じさせてくれる。

 足元にはイチョウの葉。

 その枯れ葉の軽い音を聞きながら歩く。

 「そっか。もうそんなに時間が経ったんだ・・・。」

 私が高校生の頃に、遠野志貴という男の子が現れて、あんなになって、もう数年がたった。

 ちょうど夏の日、お父さんがたまたまいなくて、彼の視線に気づいていた私は彼を誘ったんだっけ。

 








































 風が吹く。しかも冬になるであろう風。

 「冷えてきてるなぁ・・・。」

 バス停に着いたのはいいけれど、時間になってもバスが来ない。
 
 「これなら自転車で行けば・・・・。でも、これ着れないか。」

 肩にかけられたストールは、私が大事にしているもの。

 たまたま二年前のバレンタインに志貴くんに義理チョコをあげたのだけれど、彼は律儀にも

 覚えていたらしく、ホワイトデーに、「季節の終わりだけれど、冷えるから、朱鷺恵さんに」と渡されたもの。

 ダークブラウンのストール。
 
 たまたま私が暖色系の服を着ることが多いので、こういう色を見立ててくれるあたりは

 彼のセンスだな、と思う。本人はあまり興味なさそうだけれど・・・・。


































 「あ、やっと来た。」

 バスがやっとバス停に着いた。

 私はそれに乗って、遠野の屋敷の近くに向かう。

 時間にして、大体10分くらい。

 やっぱり時間も昼過ぎで、まだまばらで、バスの中は私と老婆が二人ほどだった。

 「そっか。そのために今日は小説持ってきたんだった。」

 バックの上に入れていた小説を取り出す。

 その辺にあるようなラヴストーリー。

 でも、内容は、少し年上の女が年下の男に惹かれていくというもの。

 大学でも、私の周りは「これは面白くないよ」という意見が大半。
 
 それでも、この設定になぜか惹かれた私は、買ってしまった。

 この前まで付き合っていた人にも

 「へぇ。朱鷺恵って年下好みなの?」なんて年上だった人に皮肉まじりに言われたものだ。

 「え?まぁ、これからの知識としてね。」とはその時に返したけれど、本心は違ったのだろう。

 同時にその時の彼氏も、それに気づいたらしく、間もなく別れることになった。































 「―――そっか。志貴くんのことだったんだ。」























 さっきまで居た老婆二人も降りてしまって終点まで乗る私は独り言で呟いた。

 そう、多分、あの日から、変わってないんだと思う。
 
 私は彼に溺れてしまうのが怖くて、家から離れた。

 そして大学で、いろんな人と付き合ったりして、彼を忘れようと思った。

 それでも、それは無謀なことで、時南朱鷺恵という女は悲しいくらいに、遠野志貴に惹かれて

 先に進んでいるようで、実は全然前に進んでいない。

 そうこうしていると私が降りるバス停で、停車した。































 「ごめんくださーい。」

 チャイムを押して、少し待つと琥珀ちゃんが来て、「待っていましたよ。」と私を屋敷の中に

 案内してくれた。

 「今日は秋葉さまがヴァイオリンのレッスンで・・・。」

 申し訳なさそうに言う。けれど、今日は私は秋葉さんの薬と志貴くんの分を届けに来ただけ、と

 言うと、

 「そうですか。志貴さんは今、部屋にいるから、簡単な診察もしていただけますか?おそらく秋葉さまなら
 そう言われると思うので。」

 そう言って、リビングを出て、志貴くんの部屋に向かう。

 「そっか。志貴くんは御曹司になっちゃったんだ。」

 ふと、廊下を歩きながら呟く。前からは翡翠ちゃん。

 「こんにちは。お邪魔してますね。翡翠ちゃん。」

 笑顔で言う。すると彼女も少しだけ、いつもあまり表情を出さないんだけれど、

 「こんにちは、時南さま。」

 と返事をしてくれて、それだけだけれど、私にはそれが心地よかった。






















 ―――コンコン





















 軽く部屋をノックする。

 そこからは勿論、部屋の主の声が聞こえてくる。

 「あ、翡翠?今日はもう掃除・・・・。」

 「私よ。志貴くん。」

 クスクス、と笑いながら言う。

 「え・・・あ・・・朱鷺恵さん?!」

 部屋の中からバタバタとしたような音が聞こえる。

 「あ、どうぞ。」
 
 「ありがと。」

 彼の誘導に従って、部屋の中に入る。

 前にも思ったけれど、何もない部屋。

 「なんだか・・・ホテルみたいだね。」

 私は微笑みながら言う。そうすると、志貴くんは決まったように照れて、鼻のところを掻きながら

 「なんにもないんだけどね。」

 と答えてくれる。

 




















   ―――本当に変わらないんだね。キミは。

 





















 声には出さない言葉。

 「あ、そうそう。今日は簡単に診察って言われたんだけど、見た感じだと調子もいいみたいね。」

 診察道具もあるけど、と付け足して言うと

 「診察はいいですよ。最近はおかげさまで調子いいし・・・。」

 そう言って、窓の外を見つめる。

 優しい横顔だな、と思う。今の同級生の人を見ても、こんなに優しくて温かい横顔をする人は

 いない。

 「志貴くんは本当に変わらないね。」

 本人にその言葉を投げかける。

 「そうですか?俺は自分のことだからわからないんだけど・・・。」

 困ったように話すのも前からずっと変わらない。

 「ねぇ・・・志貴くん・・・・?」

 立ち上がって、後ろから抱き付いてみよう、と思ったときに見えた机の写真。

 それは金色の髪をした女性と志貴くんの写真。

 二人の表情からしても、付き合っているのがわかる。

 「なんですか?」

 それを見て立ち上がった私は、イジワルに

 「ねぇ?もう一度、してみる?」

 とだけ言った。

 「え?・・・冗談はやめてくださいよ。それに朱鷺恵さんにだって今の彼氏がいるだろうし。」

 そう言って微笑むけれど、緊張しているのがわかる。

 私はその瞳を見つめてみた。

 





















 沈黙が10秒ほど。
 
 でも10分にも思えるくらいに、長い10秒。

 「そっか。その人が大事なんだね。」

 写真を見て話す。

 「うん・・・。なんていうかさ・・・ほっとけないんだ、コイツのこと。」

 「志貴くんにそう言わせるんだから、凄い魅力的な人なんだろうね。その人。」

 微笑むと志貴くんはまた困った顔をして、

 「・・・そうですね。多分、今までで一番・・・俺が好きになったヤツだと思う。」

 目の前が晴れたような気分がした。

 彼は未来が永くないのに、前をしっかり見ている。

 「そっか。じゃ、幸せにね。」

 私はそう告げると、一つの紙を出した。

 ドイツ行きのチケット。

 「え?海外に?」

 「そう、医者としての知識とか技術習得にって。お父さんが無理に決めたのもあるんだけどね。」

 困ったフリをして言う。

 「そうですか。また帰ってきたら寄ってください。」

 「え?そんなに緊張してるのにいいの?」

 見透かしたのを告げてドアに向かう。

 「あ・・・えぇ。勿論。」

 そう返事を聞くとドアを開けた。

 「じゃ、元気でね。志貴くん。」

 「えぇ。気をつけて。朱鷺恵さん。」

 そう言って私はロビーに降りて、琥珀ちゃんに説明をして、屋敷を出て、バスに乗って家に向かう。

 















 イチョウ並木を歩きながら、ふと、思う。
















 「いい加減・・私もイイ人見つけないとな。それにドイツでもがんばろ。」


















 そこに吹いてきた風で揺れたストールをもう一度整えて、枯葉を踏みしめながら帰る。














 




 温かい、ストールをかけて・・・・・。
END
あとがき
 がんばってるなぁ・・・自分(笑
 なんか10月、無駄に更新してますよ。(笑
 多分、来月は書けないでしょう(何
 で、まぁ、今回は朱鷺恵さん。
 少ないですね。サブキャラ。
 使いまわせる人も少ないんでしょうけどね(笑
 まぁ、ストールが今回のネックです。
 いかに大事にしているか、というのを考えて、もう一度読んでもらえると楽しめると思います。
 あぁ・・・。そうそう。曲としてBGMには灯火とかそういう感じだなぁ、とは考えながら書きましたね。
 あとは、流す程度に聴くなら、80年代のポップな曲ですね。洋楽の。

 では、別の話で