天然色の樹
著:TAMAKI
  今日は、イヴの夜。

  まぁ、私にとっては少し、特別な日、っていうだけで、さして、

  周りが言うほど、大切でもない。

  だって、現に隣で眠っているのは、もう別れ話が出るような彼なのだから。





  
   すっと、ベッドから立って、窓際に立つ。

  ここは、その男が取っていた、ホテルの最上階。

  まぁ、実家は、医者だの、そこを継ぐだの「自分」っていうよりも「家」とか
 
  「お金」ばかりを言う人。

  でも、始めはそうでもなかった。

  ただ、最近は、それを口にする回数が増えただけ。

  



   ―――ホント、キミとはすごい違いだよ。志貴くん。





   たった一度きりの相手の名を口にする。

  たまには、「もう一回してみる?」なんて冗談も言ったりするけれど、

  私は、結構、本気だったりするんだけどね。

  ふと、思う。

  あの日、志貴くんと、あぁならなかったら、今、私はどうなっていたかを。

  実際、今よりも、もっと怠惰な生活をしていたと思うし、「体だけ」って

  人も沢山いたんだろうなって思う。

  






   ―――本当に、キミなら・・・。







   私のほうが年上なのに、こんなになっちゃうなんて。

  可笑しいって、周りは思うかもしれない。

  でも・・・やっぱり、今までした人の中では一番、気持ちはあったように思う。

  あの時は、年下と遊びのつもりだったのだけれど、でも、今になって思う。












  「しかし、朱鷺恵、お前の連れてくる男は、どうも好かん。あの遠野の倅のような
   
   男はおらんのか?」

  最近、父さんがよく私にこう言う。

  私は、ただ、笑うことだけしかできない。

  今の生活が嫌というわけじゃないし、付き合う人はみんな真剣に思ってくれる。

  でも、私は、今の私のままでしばらくいたいのだけれど・・・。

  多分、そう長くは出来ないだろう。

   ふと、志貴くんの笑顔が頭をよぎる。
 
  あのはにかむように笑うあの笑顔が。

  けれど、どちらかと言えば、私が目の前にいるとき、志貴くんは、顔を赤くして

  恥ずかしそうにしていることのほうが多い。

  可愛いとは思うけれど、でも、それは、遠野志貴という男の子の一面でしかない。

   以前、父さんが診察しているところを少し覗いたことがあるけれど、なぜか、「怖い」と

  思ってしまった。

  同時に、あの瞳が綺麗だとも・・・。 

   その日以来、私は、志貴くんという男の子が気になるようになった。

  授業中も、気が付けば、志貴くんのことを考えていたり。

  本を読んでいても、頭の中では、別に、志貴くんなら、ここはどうするだろうって考えていたり。

  だから、あの日、一度だけ、たった一度だけの関係になった。

  








   ―――本当、嫌になるくらい、忘れられないよ。









   街のイルミネーションを見下ろしながら、そう呟く。

  彼は眠り込んでいるので、私は、音を控えめにラジオをつけた。

  それをBGMにして、思い出という海に浸る。

  あの日以来、私は志貴くんの前に現れなくなったよね。

  あれは、志貴くんに単純に忘れられたくなかったから。

  だって、そうでしょう?

  こちらから告白したとしても、あの時はまだ、志貴くんは幼さがあったし

  私も・・・こんなに想うことになるなんて、思ってもなかったから。

  それに、なにより、そうしたら、志貴くんは私をずっと思ってくれるかもしれないって思ったんだよ。







   ―――そういえば、今日はクリスマス。




    志貴くんは誰と過ごしているの?



    やっぱり、あのモデルみたいな綺麗の人と?



    それとも、あの先輩って呼んでいる子と?



    それとも、秋葉さんや、翡翠ちゃん、琥珀ちゃんと?








     ・・・多分、誰だとしても笑ってると思うな・・・。 















   ふと、自分を見る。



  それなりにスタイルはいいし、顔も多分、悪いほうではない。









   ラジオからは、クリスマス特集で流れるラブソング。

  








   彼が目を覚ました。

  ふと、さりげなく私は彼に言った。










   「ね、別れましょう?」








   答えも聞かずに部屋を出る。













    「志貴くん、私も、立候補しちゃおうかな?」











     そう、呟きながらホテルのロビーにブーツの音を響かせて












          「冗談だよ・・・。」














        街の中に溶け込んでいった。
END
あとがき
 すいません。回想のお話で。
 ただ、朱鷺恵さんの場合、不特定な相手なので、こういうカタチになりました。
 でも、多分、少しは遠野志貴という人間を特別視しているんだろうな、なんて思います。
 だから、こういう切り口で書いてみたんですね。
 こう、結婚しても、朱鷺恵さんは忘れないんだろうな、と思うのは僕だけでしょうか?
 まぁ、今回はあえて、あまり書かなさそうな、朱鷺恵さんでいきました。
 ちなみに、このあと、時南家では、パーティーをするんですね。

 まぁ、一つのカタチ、です。