スモールマウスバスの食性 ホーム

 裏磐梯のスモールマウスバスの食性を正確に知るために、ご覧になる前に下記をお読みください。

  • 標本は2000〜2002年にかけて、桧原湖、小野川湖、中瀬沼(現在釣り禁止)においてルアー(主にトップウォーター)で釣ったものです。標本の全長範囲は13.5〜42.0cmです。
  • ターゲットとなった水深はおよそ0〜3mですから、それより深い場所に生息する魚の食性を表すものではありません。
  • 釣行期間は5〜11月で、冬期のデータはありません。なお、データの少ない11月は除外しています。
  • 標本数は1383匹ですが、空胃のものと胃内容物が消化されていたものは除外しています。ちなみに空胃魚の割合は22.6%でした。
胃内容物一覧月別の胃内容物餌生物とスモールの大きさの関係

 

- 胃内容物一覧 -

 胃内容物一覧を表1に示しました。スモールが浅場や表層で捕食しているものは、主にワカサギスジエビ、そして昆虫類です。

表1 スモールマウスバスの胃内容物数(N=938)

魚類 昆虫類 甲殻類 両生類 その他

ワカサギ 777
ヨシノボリ 123
スモール稚魚 6
ナマズ稚魚 3
ヤマメ 1
モツゴ 1
ウグイ 1
イワナ稚魚 1
判別不能 361
魚卵 4

カゲロウ幼虫 多
アリ・羽アリ 多
蚊・ボウフラ 多
ヤゴ 33
トンボ 27
春ゼミ 13
ハチ 10
カメムシ 6
アメンボ 5
蛾 4
イモムシ 3
ハエ 2
ガガンボ 2
トビケラ成虫 2
バッタ 1
オケラ 1
ゲンゴロウ 1
ヘビトンボ 1
他陸生昆虫 多
(クモ) 1

スジエビ 1166>
ザリガニ 4

カエル 5
サンショウウオ 2

ソフトルアー 79
ラバージグ 2
フック他 29

生息魚類一覧と比較参照すると、浅場(または表層)ではワカサギとスジエビを選択的に捕食していることが窺われます。ワカサギだけ25匹捕食していた魚もいたくらいですし、判別不能だった魚のうちの半数程度は、その大きさとおよその形からワカサギと推定されますから、裏磐梯ではワカサギに似たルアーは必需品と言えます。一方、多くの地域でバスの餌の代表格であるオイカワやウグイはほとんど捕食されておらず、コイ・フナ類の稚魚は全く認められませんでした。これらは生活圏と適水温がスモールと重なるにも関わらず、あまり利用されていないのは興味深いところです。この点については釣りの対象とならない小さなバスが、これらの稚魚を捕食している可能性もあり、「これらの稚魚はバスには食われない。」と断定はできません。しかし、実際の釣りではこれらの魚をマークする必要はなく、今後も魚類相に大きな変化が生じなければワカサギが最も利用され続けると考えられます。
 次にスジエビですが、このエビは大きさが2〜4cmほどしかなく、しかも体が半透明なため目立つ餌生物ではありません。しかし、ラージマウスバス同様、スモールもこのエビは大好物のようで、1匹で25匹のスジエビを捕食していた魚もいたくらいです。このエビはワンド奥やゴロタ石周辺、水没した枯れ枝の下などに群れで漂っているので、スモールにとっては捕食しやすい餌の部類に入るでしょう。後述しますが、特に低水温期には良く捕食されています。
 ワカサギ、スジエビと同じく重要な餌生物が昆虫類ですが、スモールは蚊から春ゼミまで様々な大きさのものを捕食しており、あの臭いカメムシまで餌としています。そして、種類の多さもさることながら、蚊、ボウフラ、羽アリ、カゲロウの幼虫といった非常に小さな昆虫も多数捕食している点が特徴です。このことから、浅場(または表層)にいるスモールは非常に小さな餌生物も見逃さず、見つけ次第せっせと捕食している様子が窺われます。胃の中から羽化直前のボウフラやカゲロウの幼虫が多数見つかることからも、スモールは水面直下に浮かぶこれらを回遊して捕食していると考えられます。待ち伏せ型の捕食行動では、これらを多数捕えることはできないからです。
 今なお、「大きな口で小魚を一飲み」という印象が強いバスですが、裏磐梯のスモールの食性はトラウトに似ており、餌生物のイミテーションを全て揃えようと思ったらフライも欠かすことはできません。昆虫にライズする魚はトップウォータープラグを見切ることも多く、スモールマウスバスの眼の良さを思い知らされます(もちろん、湖沼の透明度が高いことも一因です)。
 それにしてもソフトルアーなどを飲み込んだままの魚がいることは非常に痛ましいことで、単純計算では11%の魚が何らかの異物を胃に入れたまま生きていることになります。これらの魚の肥満度は、たいてい平均以下で、釣り人にとっては魅力のない痩せた魚です。釣り人は魅力のない魚を自ら生み出していることになるのです。使用後のソフトルアーを釣り場に捨てないことは当然ですが、ソフトルアーを使うキャッチ&リリース派の場合、切れない太さのラインを使うことが使命とも言えるでしょう。

- 月別の胃内容物 -

 食性の季節変化を主要な餌生物に絞って見てみました。 表1はスモールマウスバス10匹あたりの胃内容物数を表していますが、ワカサギ、スジエビはシーズンを通して捕食され、中でもスジエビは常に良く捕食されています。一方、昆虫類は季節変動が大きく、春ゼミやトンボなどは全く捕食されていない時期もあります。このように胃内容物は餌となる生物の生態を色濃く反映していると言えますし、逆に言えば釣行時にこれらの生息水深や発生状況に注意を払うことで、トップウォーターゲームが成り立つかどうかを予想することも可能です。

表1 月別のスモールマウスバスの胃内容物(N=938)

種類 5月 6月 7月 8月 9月 10月
ワカサギ 2.1 5.1 2.2 29.5 9.9 1.8
ヨシノボリ 0.3 0.7 1.0 2.9 2.3 1.3
スジエビ 11.2 8.0> 12.1 17.2 13.4> 25.8
春ゼミ 0.3 0.4 0 0 0 0
トンボ 0 0 0.9 0.4 0 0.3
ヤゴ 0.9 0.5 0.2 0.1 0.1 0.8
カゲロウ幼虫 ++ ++ + - - -
蚊・ボウフラ - + - - - -
アリ・羽アリ + + + ++ - -
他陸生昆虫 - ++ ++ + - -
- なしorほとんど認められない + 認められる ++ 多く認められる

 それでは、もう少し詳しく表を見てみましょう。表では明らかではありませんが、5月中旬まではヤゴやカゲロウの幼虫、スジエビが主に捕食されています。このことから、水温が低いうち(10℃以下)はスモールといえども動きの遅い生物から捕食すると考えられます。そして表面水温が適水温となる6月以降は、接岸するワカサギはもちろんのこと水面に浮かぶ昆虫類も餌とするようになり、8月にもなると水生昆虫やスジエビよりもワカサギを追うようになります。これは多くの水生昆虫が羽化するため、水中にいる数が減ることも理由の1つでしょうが、この時期は表層を回遊するワカサギの当歳魚を狙う魚が多いためだと考えられます(ただし、表面水温が平年より高い年は別の結果となるでしょう)。10月には再びスジエビが多く捕食されていますが、これはスモールがワカサギよりもスジエビを好んで捕食しているというわけではなく、ワカサギを追って深場へと移動しなかった魚の一部が、その時期に岸よりにいるスジエビを利用しているだけだと考えるのが自然です。
 このように浅場(または表層)にいる間のスモールは、季節によっていろいろな生物を餌として利用していることが分かります。特に8〜9月にワカサギの当歳魚を追うスモールの食欲は旺盛で、ファイト中に胃の中のワカサギを大量に吐き出すことも珍しくありません。ワカサギは人間が食べてもおいしい魚ですから、スモールも大好物なのかも知れません。

ワカサギ 左の写真は2002年9月2日の朝にフローティングミノーで釣った26.8cmのスモールマウスバスの全胃内容物

・数時間のうちに
・多様な大きさのワカサギを選食し
・14匹も捕食していながら
・それでもなお、ミノープラグにアタックしてくる

ことが分かります。スモールの嗜好性と初秋の食欲を示す好事例

- 餌生物とスモールの大きさの関係 -

 一般に言われている「大きな魚は大きな餌を食う。」という説はスモールマウスバスにも当てはまるのでしょうか?
 図1は主要な餌生物ごとに、それを捕食していたスモールの尾数を全長別に頻度で表したものです(標本数は計874です)。小型のスモールは主にスジエビを捕食しますが、大きいものほどスジエビへの依存度は低くなり、代わって魚類と昆虫類を多く捕食するようになります。なかでもワカサギ、春ゼミとトンボを含む陸棲昆虫類、水棲昆虫類を捕食する傾向が強くなります。
 さて、ここで着目したいのは、大型のスモールほど水棲昆虫類(カゲロウの幼虫が主)を良く捕食するという事実です。水棲昆虫類は小型のスジエビと同程度かそれより小さいにも関わらず、なぜ捕食しているのでしょうか? これが低水温期だけの現象ならば納得できるのですが、スモールの適水温となる6月も水棲昆虫類は良く捕食されているのです。このことから、少なくとも40cm以下のスモールに関しては、魚体の大きさと餌生物の大きさに明瞭な関係は認められないと結論づけることができます。もし両者の間に関係があるならば、30cmを超える魚はワカサギよりも大きいオイカワなどをもっと捕食していても良いはずですし、水棲昆虫類には見向きもしないはずです。しかし、実際はそうではありません。

グラフ
(注)・小型魚=全長5cm以下 ・中型魚=全長7cm以上

 以上のことから、40cm以下のスモールは餌生物の大きさよりも数の多さ(=見つけやすさ)と美味しさ(?)を重視して捕食を行っていると推察されます。大型のスモールほどワカサギを捕食しているのは、成長に伴って運動能力が高くなり、その結果摂餌範囲が広くなったことも一因であり、単に餌生物の大きさだけを目安に捕食しているのではないと考えられます。実際には、空腹時には餌生物の大きさに関わらず(それが嫌いなものでなければ)見つけ次第捕食し、状況によっては嗜好性が優先されることも十分あり得ると考えられます。40cm以上の大型魚でさえ、ヤマメの若令魚を捕食している個体もいれば、1cm程度のカゲロウの幼虫を捕食している個体もいるからです。
 いずれにせよ、私たち釣り人が思うほどスモールは餌の大きさそのものにこだわっていないのです。「餌が小さければ、その分たくさん食べる」という捕食スタイルのようです。釣り人は何かにつけて理由を付けたがりますが、行き過ぎた想像は現実を見る目を曇らせてしまいますから要注意です。大物狙いの釣りをするならば、ルアーの大きさなどよりも大型魚の行動パターンを把握し、ポイントへのアプローチを慎重に行うことのほうが遥かに重要と言えます。ですから、スモールの食欲を刺激する釣りをする場合は、大きさ、色、形が本物に近いルアーを揃える「マッチ・ザ・ベイト」の考え方が基本となり、本物よりも大きなルアーを使うことはスモールの食欲以外に訴える「好奇心の刺激」や「闘争心の刺激」そして「反射の誘発」の要素が、より濃くなると考えられます。

 

福島県では2001年6月1日よりブラックバスとブルーギルの移植が
禁止になりました。違反すると懲役2ヶ月以内または罰金10万円

裏磐梯バスフィッシング情報 〜桧原湖とスモールマウスバス〜