事業1『真空ダイカスト(ラドル真空ダイカスト法)』

 

 溶接もできるような低ガス含量のダイカスト品を目指して、当事務所では、簡単に高真空ダイカストのできる「ラドル真空ダイカスト法」(Ladle Evacuation Pressure Die Casting Process)の特許を取得いたしました。その特許の概要を(1)に示します。更に詳しい内容は下記の文献(解説)にあります。また、この特許を実用化するための一つの方法を(2)真空ダイカスト給湯装置に示します。
 この他に、次のような解析も行っております。(3)アルミニウムの溶湯中に含まれるガスが真空中で脱ガスする過程、(4)離型剤中の水分が蒸発する過程、(5)水蒸気がアルミニウムと反応して水素を発生し、溶湯中に再溶解される過程、などです。これらを運動分子収支法(Moving Molecular Balance Method)によって解析します。この方法の内容は特集2に示しました。
 

(1)ラドル真空ダイカスト法
  
特許名:真空ダイカスト法における給湯およびそれに用いる給湯装置 特許第3900422号
  概要:横型のコールドチャンバーダイカストにおいて、スリーブ給湯口の上にラドルチャンバーと呼ぶ部屋を 設け、溶湯を汲んだラドルを一旦このチャンバー内に入れる。チャンバーに蓋をしてスリーブ、キャビティと共に高真空に引く。予定真空度(1〜数kPa)に達したら、ラドルチャンバーの外に設けたモーターによってラドルを傾転し、スリーブ内に注湯する。
     


  (2)真空ダイカスト給湯装置 特開2006-26725
    概要:上記の方法を実施する装置で、リンク機構を用いて、ラドルチャンバーの蓋をフランジの上を滑らせて開閉 する。また、既存の搬送装置に適用する場合に、予めラドルチャンバー内にセットしたラドルを、搬送ロボットの軌跡の位置まで持ち上げて、溶湯を受ける。





ラドル真空ダイカスト法(解説)
  (社)日本ダイカスト協会会報ダイカスト127号(2008)P.P.61-69



真空ダイカストに関連する解析

 (3)アルミニウム溶湯中に含まれるガスが真空中で脱ガスする過程
     概要: アルミニウム溶湯中には大気圧下で0.55ml/100gAlまでの水素ガスが吸蔵されます。これは給湯前に、ヘリウム気泡の吹き込み等によって、低減できますが、ラドルを真空中に置くだけでも脱ガスできます。この過程を解析しますと、5kPaまで真空に引けば溶湯の深さ50cmとして0.23ml/100gAlまで脱ガス可能です。真空中でスリーブに給湯すると、流れの中に泡が発生し、さらに0.13ml/100gAlまでの脱ガスが可能です。これらの計算値は限界であって、実際は可能な脱ガス量はこれより何割か少ない値であると思われます。
  
 (4)離型剤中の水分が蒸発する過程(解析済)
     概要:離型剤に含まれる水分や有機剤の蒸発成分は、高温の溶湯に触れると蒸発し、水素又は有機ガスとなって、溶湯中に溶解、又は巻き込まれて製品のガス欠陥となります。射出前にこれを乾燥するのも一つの方法です。真空度や温度によってどの程度の時間で乾燥するかを予測することができます。例えば、適当なベントが取られて真空引きが行われた場合、型の温度が100℃以上に保たれれば、型表面積当り100g/u水残りは、100msec以内に乾燥できるものと計算されます。そして気層中に残されるガスは、0.02mole/l以下となります(特集2参照)。

 (5)水蒸気がアルミと反応して水素を発生し、溶湯中に再溶解される過程(未完成)
    概要:射出前にキャビティとスリーブの中にある水蒸気や水素ガスは、射出の過程で圧縮され、高い分圧となります。 溶湯が静かにキャビティに流入する場合は、さほどの反応は起こりませんが、高速射出の場合はゲート部で噴霧状態となり、 大きな反応面が生じます。水蒸気は水素に分解され、残存の水素と合わさってより高い水素分圧が発生します。 この水素分圧の計算の仕方とそれによって溶湯に吸収される水素量を予測することができます。真空度と射出時間, ベントの条件によって値が変わります。