随想4  「微分」は「無限小の量」ではなく「変化」という実体
 

 

あなたは、dxがある量xの無限小の量と理解されていませんか。私はそのような理解で、この50年間やって来ましたが、いつも悩まされ、微積分の能力は思うように進みませんでした。たとえば、距離「xからx+dxまで進んだとき」と言いますが、dxは無限小ですから、進んだとは言えないはずで、言っていることが矛盾しています。

 最近になって気が付いたことは、dxを「xの量」と考えず、「xの変化」と考えることです。xは普通は実数や複素数を表す「量」と考えますが、dxに大きさはありませんから量ではなく、むしろ+−×/=といった記号に近いものと考えることもできます。しかし、ある数aを掛けたadxや、「xの変化」と「yの変化」を加減したdx±dyや、掛け合わせたdx×dyらは、大きさはないが、意味は持っています。したがって、dxは単なる記号ではなくて「変化」と呼ぶべき実体といえます。この実体は、2つを割ったdy/dxが実数や複素数を表す量となるのが特徴で、微分係数と呼ばれます。

 「微分」は英語の「differentials」が訳された用語と思いますが、「differential」は量的な「差」とみなされますから、英語の命名も誤解を招いていたと思います。「changeables」とでも命名しておいて下されば私の微積分能力ももう少し進んでいたかも知れません。

 さて、abを実数や複素数としてadx+bdy=0という表現がときに使われますが、これは左辺が「変化」で右辺が「量」ですから等しくなるはずはなく、adx+bdy=doと書くべきです。このときdoは「変化が消える」という意味になります。これを用いると、dx±do=dxdx×do=doとなり、dx/doは存在できないものと思われます。 

 「積分」は「xの変化」をxに戻す操作といえます。このとき大切なことは、dxは変化ですから、変化の前後があり、前後の決め方を与えなければならないということです。最も簡単な場合はxの前の値
と後の値xが分かっている場合で、「
xの変化」は「xの量の差」に次のように変わります。
           

つぎに、xの前後は分からないが、別の量tの前後tおよびtが分かっているときは、dxdtで割って得られる量dx/dt=x’(t)を掛けて「xの変化」を「tの変化」に置き換えることができます。すなわち、「xの量の差」が次のように計算されます。
            

ここで、x’(t)か既知の関数であれば、通常の積分が行われる訳です。

 

 お慰めに、上に述べた考え方の面白い拡張の例を紹介します。xは必ずしも実数や複素数で表される量でなくてもよいから、例えばxを「女ごころ」としyを「男ごころ」とします。このとき、dx=adzと書けば、zは「秋の空」か「風の中の羽」と書くことができ、aは相似係数となります。つまり「女ごころ」は「秋の空」か「風の中の羽」のように変わる、ということが微分方程式で表されたわけです。さらにdx+dy=d(x+y)と書けば、結婚した男と女の心の変化を表すのかも知れません。積分範囲を結婚前後、或いは老後に取り、日々の心の変化、d(x+y)/dt=f(t)を積分してゆけば、夫婦の心の動きが求められることになります。もちろん、実際のf(t)は知りがたいのですが、仮にd(x+y)=d0とすれば、何があろうと、どんな時間をとろうと夫婦を合わせた心の変化はなく、真に永遠の夫婦というべきでしょう。