随想6  株取引に熱力学の応用
 

 熱力学は、物質とエネルギーの収支を取り扱う学問ですが、そこで使われる関係式は、株取引の株式とお金の収支にも適用出来ます。
 今、証券会社に預るお金の口座金額をU円とします。ここへ出入りする現金をQ円とします。持っている株の銘柄をi=1,2,3…,nとします。そして、それぞれの株価をPi円、株数をViとします。そうすると、証券会社に預る全資産Hは、
H=U+ΣPiViとなります。これらは、熱力学における内部エネルギーU、熱量Q、圧力P、体積V、エンタルピーHに相当致します。
 今、口座に現金を儔円振込み、i 銘柄の株を儼iだけ買ったとすれば、口座の金額は
  儷=儔-Pii  (1)式
だけ増加いたします。また、この時、株価が儕i円上がったとすれば、預り資産は、
  僣=(U+PiVi)=儷+(PiVi)=儔-Pii+Pii+儕iVi=儔+儕iVi  (2)式
だけ増加いたします。この(1)式と(2)式は、熱力学の第一法則の式と同じです。
 今、横軸に株価Pi、縦軸に株数Viをとって、株価の上昇、下降、株数の増減(株の売り買い)をプロットします。
           
最初、A点(株価P(1),株数V(1))であった時、株を購入してB点(株価P(1),株数V(2))になったとします。ここで、幸いにも株価が上昇してC点(株価P(2),株数V(2))になったので、ここで、株を売ってD点(株価P(2),株数V(1))に達したとします。しばらく放置したら、株価は元に戻ってA点になったとします。現金の出入りはしなかったもの(儔=0)としますと、
  儷=-P(1){V(2)-V(1)}-0-P(2){V(1)-V(2)}-0={P(2)-P(1)}{V(2)-V(1)}  (1')式
この式は、口座の金額が株価の上昇×株数の差だけ増えたことを表します。また、預り資産は、
  僣=0+{P(2)-P(1)}V(2)+0+{P(1)-P(2)}V(1)={P(2)-P(1)}{V(2)-V(1)}  (2')式
となり、この場合は、預り資産も同じだけ増加したことを表します。逆にA点からD点、C点、B点と変えますと(反時計回り)、今度は儷と儼の符号がまったく逆になって、(1')式や(2')式で表した量だけ口座金額や資産が減少したことになります。つまり、P−V線図が時計回りか反時計回りかで取引の損得が決まり、その値はそこに囲まれた面積に相当致します。
 上のことは、Pを気体の圧力、Vを気体の容積としますと、圧縮と膨張を繰り返すサイクル(例えばエンジン)で気体のする仕事を計算するのとまったく同じです。熱力学では、第一法則から導かれる種々の関係式がありますが、その中のかなりのものが、株の取引にも使うことが出来ると思われます。