ワタシが本気で泣いた試合その2


 第3回   田村潔司 対 吉田秀彦


    2003年8月10日 さいたまスーパーアリーナ PRIDE GRANDPRIX 開幕戦 ミドル級一回戦

 

 はいはい、次も田村の試合です。というか、PRIDEにおける田村の試合には全くもってハズレがありません。試合内容もそうですけど、その試合における意味とか、結果とか。田村があんなに嫌がって、というよりは蔑視していた顔面パンチありのPRIDEに参戦する、と聞いたときはマジでションベンちびるかと思いましたよ!
 まあ、それは別のお話。しかしながら、今回の田村対吉田も発表されたときはビビリましたよ。日本人対決にビックラこいたんじゃなくて、田村がオーケーしたことそのもの。全く持って意味がわかりませんでしたよ。だって、減量して打撃の練習までして望んでる吉田は買っても負けてもメリットはあるんですよ。勝てばミドルでの幅も広がる、負けても言い訳はいくらでもあるし、打撃調整も出来るし。第一、ミドル級は主戦場じゃあないんですからね。
 でも、田村は全くもって違う。田村は当然ミドルの選手。それに、プロレスファン揃いの田村のファンは、当然この吉田戦にも何らかのアングル(試合までの流れ、仕掛け)を見て取るだろうし。事実、田村の“柔道批判”とも取れる発言を思いっきりクローズアップして煽り映像に流すことで、一気に場は田村のヒール色が強まってしまった。根本的に、勝てればよかったね、負ければナニやってんだとお叱りを受けかねない(前田のアニキに)。田村にしてみれば、嫌なPRIDEにこれ以上付き合う理由は無いだろう、と思ってたんですがね。
 で、やっぱり田村に参戦するメリットが無いことを考えると、これは本人も語っていた「闇の力」かな、と。PRIDEに限ったもんでもないですが、こういう大興行イベントには、常にキナ臭い匂いがしているものです。それに、盛んにPRIDE新社長の榊氏が「これで日本人のどちらかは残ります」と言ってたですしね。PRIDEにとって残って欲しいのはもちろん吉田ですから。田村が安パイとは言いませんけど、少なくとも強さのレベルでは観客が納得できるところですし、他の日本人、名も無き外国人ではちょっと疑問も残ります。まあ、とあるネット専門の業界紙によると、このミドル級グランプリ自体が「どこが世界最強か?」と言われてるみたいですけどね。
 確かに、UFC代表が夏前のタイトルマッチでランディ・クートゥアーに敗れたチャック・リデルというのは不思議ですし、アリスターオーフレイムはどう考えても経験不足な気もします。だもんで、ヒカルド・アローナの代役でかのブラジリアン・トップチームの重鎮であり、UFCでも伝説なムリーロ・ブスタマンチが参戦してきたときは嬉しかったですけどね。とは言え、現実的に考えて全ての団体のミドル級を1会場に揃える、というのは不可能に近いです。アルティメット創世記のUFCであれば、それこそ無名のケンカ屋からなんと忍術使い(!?)まで出場してたものですが、こうまで競技として体系化されてしまうと、まずオリンピックでも作らない限り、総合的な世界一を決定するのは難しいでしょうな。困難なのは、他のヤツが認めないことなんですね。「じゃあ、オレと戦え!」といっても、プロでやってる以上じゃあ裏の駐車場でやりますか、という風にはならない。ヒクソン・グレイシーとはまず闘うことからして難しくて、その間に彼自身の強さが柔術やってる連中によって神格化しちゃった例外もありますけど。
 さて、肝心の試合ですがボクはちょうど夏休みで地元に帰ってましてね。台風による数度の運行見合わせにビビリつつ、夜に酒を飲みながらテレビの前にかぶり付きでしたよ。まだ結果、知らなかったもんですから。ボクはプロレスでもなんでも、こういう風にリアルタイムでやって結果を知る、っていうのが好みなんだけどなぁ。
 それで、試合内容がアレでしょう。戦前から「立てば田村、寝れば吉田」と言われていたし、ボク自身、田村にはアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラの寝技をギリギリまで凌いだ、という実績(2000年のリングスにて)はあったけれども、やっぱり柔道着を田村は知らないから不利だろうな、と考えていたんですよ。いや、ボクは田村が勝つと信じてましたよ! 田村の打撃の質は一発KOの出来る種類ではないんじゃないか、と思っていても! そしてゴングが鳴れば田村のパンチで吉田スッ転ぶ! おい、レフェリー試合止めろよ! アイツ目ェ回してんぞ! 田村が上から突っ込んだときにはテレビをガンガン揺らしながら絶叫! 田村がグローブ掴んだと怒る! 島田、ブレークさせてどうする! 田村のローがガンガン決まり、ますますヒートアップ。Uインター相撲で鍛えた田村はそうカンタンには投げられない………あ、投げられた。いや、まだだ。柔道金メダリストに投げられることくらい田村はお見通しだ。冷静に、相手に組み付いてポジションを変えて行こう。ん、ホイス戦のように吉田が柔道着を田村の首に巻きつけた。イヤイヤ落ち着け。パンチを打ちながら首の位置をずらして………え、タップ!? 呆然とする中、吉田絶叫、田村号泣。総合の試合見て泣きながらブラウン管にパンチを叩き込んだのは、一昨年の「猪木祭り」で今や見る影も無い安田がバンナからタップを奪ったとき以来ですな。マジで悔しかった! 多分、田村に有利な目があったとかそういうこと関係無しに、純粋にこのカードが決まったときから田村に勝って欲しかった。だって、負けたらホントにピエロだよ、これ!

 後にターザン山本が専門誌で「ファンをあっと言わせるのが田村、そして彼はことごとくファンの期待を裏切り、想像以上のものを見せ付けてくれた。まさしくプロレスラー」と評価していた。まあ確かに、力道山の時代の単純な勧善懲悪と違って、猪木の時代からプロレスラーはファンの期待を裏切り、想像外のものを突きつけるものになっていきましたからな。あながち間違いではないけど、移り気なターザンのこと。今度は何を言い出すやら。
 とにかく、田村はこの舞台で「強さ」を証明することは出来なかったのですな。彼自身の追い求める強さとは、PRIDEのそれとは少々違うものなんだろうけど。でも、ボクも含めてプロレスファンとはどんなに頭では「プロレス最強神話」が過去のものだと理解していても、心の奥底、細胞のひとつひとつでは未だにそんな神話を夢見ちゃうんですな。いや、夢見なくなったとき、その人はプロレスファンではなくて普通の総合格闘技ファンになっていくんでしょうな。あ〜。
 まだDVD化してないんで、見るには友人にダビングを頼むとかしか出来ないですが、田村に思い入れがあるならこれは見なきゃいけません。というか、田村の総合試合は彼のファンである限り目をひん剥いて見続けましょう。それでも輝きを失わない田村がそこにいるんですから。


      back to the battlefield………