2003.12.16より



NO.12:ECHOES 『WELCOME TO THE LOST CHILD CLUB
        
1.レプリカの街から               6.Bad Morning  
2.今夜ナイトラインで              7.訪問者(ヴィジター)
3.ハーメルンの笛                8.Tightrope Dancing
4.ヒューマニズムにがまんできない       9.10セントの夢    
5.Between                   10.恐るべき子供達へ
 どうも、またしても久々更新です。さすがにこの文章量で月イチ更新は悲しいので、これからも頑張るといたします。編集を引退しているのに、忙しさもやってることもこれまでと殆ど変わってない、というのは、なんとも思い切りが悪いと言うか。
 それで12作目は“エコーズ”、芥川賞作家・辻仁成率いるロックバンドです。と言っても、今では作家としての知名度の方が高いので、殆どの人は彼のバンド自体は知らないでしょう。ボクはどういうわけか、彼の本よりも“エコーズ”の曲の方を多く聴いてるんですよねぇ。文芸部員なのに、まるで軽音楽部だ。さて、巷では「ヘタだったんじゃないか?」と言われている辻仁成の歌声、でもボクは好きなんですよ、このファースト・アルバムの時点ではまだ未完成の部分が多いような気もするんですけれども、80年代ロックバンド特有の「歌っている」勢い、というのが見えてきて、とても気持ちがいい。
 “エコーズ”の、というか辻仁成の作る詩の世界というのはよく言われてるように「子供たちへのアプローチ、そして時代への警鐘」という部分です。その世界には必ずと言っていいほど「子供」が主人公として出てくる。ちょうど80年代頃から子供と親の関係性が微妙に変化してきて、それはそのまま学校や友達といった社会との接点がぼやけてきていることへ繋がっていきます。少年犯罪の増加がこの頃からだ、ということからもそれが見て取れるのではないでしょうか。そうして見ると6.の歌詞はそのままバラバラな家族の形を既に指摘しています。仕事とゴルフで家族との接点を持たない「父親」、自分のことの没頭して育児に関わらない「母親」、その中で一人、マンションのベランダから街の団欒を見下ろして、切なくなる「僕」、彼は家族に付いて問われた作文でも「いつもフィクション」と答えています。現在ではもっと子供が幼児期の段階、つまり絶対的に親の助けが必要な状況においてもこのような状況が多いのではないでしょうか。そのことに対して、85年作のこのアルバムの中で辻が警告してるのは驚く限りです。続く7.でも誰かが誘いに(=助けに)来てくれることを期待して子供部屋にい続ける少年が描かれています。初期“エコーズ”にはこうした大人や社会との間に壁を作り続けて、それを壊す術を忘れてしまった子供達が数多く出てきました。
 この路線は3作目の『No Kidding』まで3部作として続き、その後の彼らは子供から人間全体に対する視点を持った歌詞を作り続け、サウンドもそれに比例して当初のやや繊細すぎな部分から、ロックバンド的な硬質サウンドへと進化していきます。また、辻の作家デビューと合わせて、バンドもその志向性を徐々に変化、オリジナルとしてはラストとなる7作目『EGGS』で劇団第三舞台とジョイント、と新たなアプローチを開始していきますが、91年に解散。辻はそれ以降、音楽活動には積極的は関わらず、作家としての活動がメインとなっていきます。それは辻にとって、バンドや音楽というメディアとは違ったフィールドで「警鐘を鳴らし続ける」ということ、つまりは彼が“エコーズ”時代にやっていたことの続きなのかもしれません。“エコーズ”自体は2000年にシングル「ZOO」がドラマ主題歌としてリバイバル・ヒット、ここから“エコーズ”を知った人も多いかもしれません。その際に辻を迎えた「ちょっとだけの」再結成コンサートも開催、かつては解散間際に行った限りの日本武道館コンサートも再び行ってたりもしてました。町田康やケラに限った話ではなくて、音楽で何かを生み出す、ということはいわば「ストーリー」を生み出すことと同じなのかもしれませんね、考え的に。
 2000年のリバイバルのおかげで、“エコーズ”のCDは結構店頭に置いてたりします。ここは一度、聴いてみてほしいですね。ベスト盤でもいい曲の並びが聴けますし。このアルバムでは、やはり前述の6.と7.が。テーマを考えると、どちらと言うと普通のロックンロールの世界を見せている1.もいいサウンドです。昔のアルバムは安くなってるので、この機会に!
 
 「大きな河に石を投げると波紋が広がるじゃない。流されてしまえばいいのかもしれないけど、僕たちは石を投げる人間でいたかったんだ。僕らの作ったエコーはきっと多くの耳に届くはずだ」
 (辻仁成)


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