百姓仕事が世界を変える

2006年2月22日

参議院議員会館 議員第1会議室


有機農業推進議員連盟第13回勉強会会議録(要旨)

 今日はパワーポイントを使って説明させていただきますが、パワーポイントのデータについきましてはツルネン先生の事務所にお届けしてありますので、必要があれば、後ほどツルネン事務所に問い合わせをしていただければと思います。

 「緑の革命」については皆様よくご存知のことと思いますが、この緑の革命は、日本も含めて、ソ連、アメリカ、発展途上国など、世界中がこれを推進してきました。

 この革命のキーマンとして二人の立役者がいます。一人は、ドイツの化学者、フリッツ・ハーバーです。大砲の砲弾はチリから輸入された硝石から製造していましたが、第一次大戦中にドイツはこれを入手できなくなり、大気中の窒素を化学合成する方法を開発しました。この技術が戦後、化学肥料づくりに活用されます。しかし、肥料を無闇と多投していくと、徒長して倒れてしまいます。ですが、あまり高くならない作物品種を使えば、いくら肥料をやっても倒れません。この特性を活かし、日本の矮性の小麦品種から高収量を実現したのが、ノーマン・ボーローグというアメリカの研究者で、緑の革命として知られています。

 この緑の革命は、世界中の作物の生産性を高めましたが、ひとつの問題は、窒素化学肥料を作るため、エネルギー原料となる大量の天然ガスを使う点にあります。つまり、化学肥料を使えば使うほど地球温暖化を招くことになるのです。そして、有名なレスター・ブラウン氏も指摘しているように、化学肥料の使用量は伸びても、収量の高まりには、そろそろ限界が見えてきています。とはいえ、日本の食糧自給率は40%しかありません。そこで、環境を破壊しないでいかに自給率を向上させていくのかが、大きな課題となっているのです。

 私は、安全・安心とあわせ、この点が、有機農業が担うべき大きな役割だと思っています。例えば、チリでは硝石はほとんど掘り尽くされており、リン酸肥料の原料となる鉱物アパタイトも30年間でなくなってしまうと言われます。そうなれば、今のような農業はやっていけなくなります。言い換えれば、持続可能性がないわけで、この持続性こそが「安全・安心」以外の、有機農業の持つとても重要な役割なのです。

 日本は自動車やハイテク製品を輸出して食糧を輸入する国家戦略をとっていますので、食料自給率は40%ほどしかありませんが、まさにキューバも自給率は40%ほどしかありませんでした。サトウキビを輸出して、小麦から配合飼料から何から何まで全部輸入していました。ところが、ソ連が倒れると、食料が入ってこなくなってしまう。そこで、国を挙げて有機農業に挑戦したのです。そして、熱帯の国ですから、日本よりも病害虫も多いにもかかわらず、何とかかなりの程度まで自給率を上げてきた。これをいかなる技術と社会制度をもって成し得たのかという点で、世界中から注目されているわけです。まず、こうしたことを達成するには、トップダウンの政策転換が必要ですが、その一方で、環境を破壊せずに収量を上げる技術も必要ですし、この技術を地域に根ざして普及していくには地方分権化も不可欠です。

 イギリスのエセックス大学のジュールス・プレティ教授は、有機農業が開発途上国でかなり広がってきているということを指摘しています。途上国では、グローバリゼーションの影響もあいまって、小規模な農家が有機農業に挑戦していますが、収量が150%もあがっています。例えば、インドネシアでは、既に100万以上の農家が無農薬稲作に転換していますが、こうしたことが、ここ数年のうちに起きています。そうした新たな胎動の中で、世界で唯一、総合的な有機農業の施策を講じているのがキューバであるという評価もなされています。そこで、今日はキューバを中心に紹介したいと思います。

 キューバと言うと、どうしても、カストロやゲバラによる革命のイメージが強いのですが、カストロは地球サミットや食糧サミットといった重要な国際会議でも演説をしており、絶賛されています。例えば、アメリカのNGOフード・ファーストの代表であったピーター・ロゼット博士は、キューバについて「人類史上最大の実験を行った国」と述べています。実は、2006年の5月には、第6回有機農業国際会議がハバナで開催されることになっています。ちなみに、第5回有機農業国際会議は2003年に開かれ、そのときには韓国で有機農業政策を強力に推進した金元農林部長(日本の農林水産大臣に担当)が、公式参加しています。

 キューバは国を挙げて有機農業に取り組んでいるわけですが、その結果、生産性がかなりあがりました。そして、自給率が40%しかない状態で食糧輸入が途絶したにもかかわらず、ただ一人の餓死者も出さなかったことは画期的です。なぜ画期的かと言いますと、ほぼ類似した状況におかれた北朝鮮では、人口2200万人のうち300万人が餓死しているからです。

 これまでのキューバ農業は、日本の八郎潟に匹敵するような大規模農業をやってきました。一ユニットが3〜5万haの広さがある広大な水田をソ連の大型農業機械を使い耕作してきました。遅れた開発途上国のイメージとは裏腹に筋金入りの近代農業を推進してきたのです。ところが、ソ連が崩壊すると、一気にソ連圏との貿易量の8割を失い、石油は半減し、原発建設もストップしてしまった。さらに、食糧自給率が40%しかない状況下で、輸入食料が半減してしまう。そこで、石油や化学肥料や農薬が輸入できなくなると、化学肥料と農薬が8割以上なくなり、灌漑用水がストップすると、こうした近代農業はたちどころに破綻し、国内生産も4割ほど落ちてしまう。加えて、暑い国ですから冷蔵施設がないと流通輸送過程で、食料が腐ってしまうのですが、流通システムが麻痺して農村部から食料を運べなくなる。国民のカロリー摂取量は3割以上落ち、栄養失調で5万人以上の市民が一時的な失明をしました。

 キューバの人口は1100万人ですから、100〜200万人くらいの餓死者が出てもおかしくなかった。ところが、このような危機的状況に直面して、なぜキューバは北朝鮮のように大量の餓死者を出さなかったでしょうか。

 日本では、1990年代のことを「失われた10年」と呼んでいますが、キューバではこうした事態に陥った1990年代を「スペシャル・ピリオド」と呼んでいます。この時期は、キューバには正に地獄で、GNPが約34%下落しましたが、これはオフィシャルな数字であって、実際には7割くらい落ちたと言っている市民もいます。近代史の中で一国の経済が一気にこれだけほど低落した事例は世界恐慌くらいしかありません。

 ですから、直面した状況は、大変なものでした。例えば、トラクターは7万5000台ありました。開発途上国にはこれほど多くのトラクターはありません。しかし、この機械から石油から、全部ソ連や東欧から輸入していた。それが途絶えたわけですから、鉄くずになってしまった。そこでキューバが何をしたのかというと、バイオ・トラクターを開発したのです。ふざけていると思われるかもしれませんが、牛を使って畑を耕すことにした。昔に戻ろうとしたわけです。

 もちろん、ただ牛耕している姿だけを見ると、ふつうの途上国の農業のように見えますが、一度近代的な農業をしていた国で再度こうした農業をしようとしているところが面白い。例えば、以前の近代農業では、ディスク・ハローの刃を回転させることで砕土していた。雑草も粉砕されますが、根が強いので、砕かれたところからまた芽が出てしまう。すると、除草剤を撒布しなければならなくなる。ところが、下から根こそぎ草を抜き取る鍬を開発すれば、牛耕であっても雑草は生えなくなる。こうしたことを、国立農業機械研究所の研究員が一生懸命やっています。

 石油から農薬・肥料から一切を失う中で、農業構造や生産技術、流通・食生活のどこが変わったのかをまとめてみましょう。第一に、農業構造では、サトウキビのような換金作物を大規模農場で生産する構造から、小規模自立型の協同組合へ転換し、民営化しました。そして、給料制度も導入します。つまり、いままでの輸出換金作物政策を国内自給政策へと改めていったのです。もちろん、自給と同時に、外貨獲得のため有機コーヒーや有機オレンジといった高付加価値化を目指しました。

 第二に生産技術では、土づくりと病害虫防除を重視しました。そして、輪作や間作をきめ細かくやることで、小規模農業ながら面積当たりのアウトプットを最大にしようとしています。これには、例えば、長野県の中山間地域でお爺さんやお婆さんたちがやってきた小規模自給型農業を再評価しようという考え方に近いものがあります。

 第三は流通・食生活の改革です。キューバ人たちは肉が好きですが、この牛肉や豚肉は、ソ連から輸入した小麦で育てられていました。つまり、輸入作物に依存していたのです。ところが、飼料作物がほとんど輸入できなくなり、畢竟、肉食中心の食生活を変え、野菜中心の料理にしなければならなくなった。それまで馬鹿にしていた穀類、すなわち、根菜類や、もとよりキューバの主食であったコメを見直すようになったのです。そして、ベジタリアン・レストランも誕生し、カストロ首相自らも、玄米食に切り替えたと言われます。

 土づくりでは、ミミズを活用しました。世界に約6000種類いるとされるミミズの中で、牛糞等の有機物を食べ、良い肥料を作る優れた二種類のミミズを選別し、これを使ってミミズ堆肥を作っています。このミミズ糞は肥料成分も優れ、土に良い団粒構造を作ることが知られていますが、そうしたセンターを全国に作っています。堆肥づくりは手作業ですから「ローテク」ですが、きちんと化学分析がなされ、作物毎の施肥基準も定められています。また、ローテクと言えば、日本の「シシオドシ」と同じ原理を使った自動灌水装置も創意工夫で発明しています。

 もっとも、すべてがローテクだけではありません。例えば、先ほど化学肥料を作るためには天然ガスが必要だと申しましたが、自然界には、自然に窒素を固定する微生物、アセトバクターやアゾトバクターがいます。つまり、キューバは優れたバイオテクノロジーを活用し、バイオ肥料を開発しています。いろいろな試験研究結果が出ていますが、例えば、バナナにこのバイオ肥料を撒布することで、収量が向上するのですが、その一部は同位体窒素から大気中由来の窒素であることがわかっています。

 キューバは常夏の島ですから、だいたい年間7回害虫が孵り、ヨーロッパはもとより、日本よりも遥かに有機農業をやるのが難しい環境にあります。そこでキューバが開発したのが、総合有害虫管理、英語でIPMと呼ばれているものです。その中で、土着菌や土着天敵を利用した病害虫防除に取り組んでいます。その象徴がサトウキビです。例えば、サトウキビを無農薬で生産するため、ヤドリバエが活用されています。このハエは、サトウキビの害虫シンクイムシに卵を産み付けて殺してしまう。そこで、このハエをサトウキビ畑に放つ。よく考えてみると、これはとても効率的です。このヤドリバエは、サトウキビの芯をかじって出した糞から出る甘い匂いを嗅ぎつけて、50メートル先から、「あそこの茎の上から何番目」という具合に百発百中で害虫を見つけることができる。飛行機で一律に農薬を空中散布するのに比べ、言わば、このハエ一匹一匹がコンピュータ付きミサイルのようなものですから、エネルギー的にも効率が良い。

 なおかつ、興味深いのは、このハエを家内労働的に製造していることです。一軒、ローテクに見えますが、キューバ側の研究者は「環境を守るだけではなくて、経済を守らないといけない。我々はこうすることによって、農村部の若い女性たちの雇用の機会を創出しているのだ。そして、この女性たちはちゃんと技師としての資格を持っている。ローテクはローテクなりの長所がある」と言ったのです。日本の江戸時代を想起させるものがあります。害虫対策としては、例えば、ニームもあります。インドセンダンという天然の農薬成分を持つ植物ですが、これを100万本とか増殖していく。また、ボーヴェリア菌という土着菌も活用されています。使い方は実にシンプルなもので、フェロモンを置いておくと、いっぱい害虫が集まってきて、一緒に置いたボーヴァリア菌に罹病してしまう。農薬ではすぐに害虫は死にますが、この菌の場合には、すぐには死なず、食欲が落ちる。そして、畑を動き回る間に、他の健康などんどん病気が蔓延していく。害虫にとってはとんでもない菌ですが、こうした土着菌を利活用することで、熱帯という条件下であっても大きな害虫被害を出すこともなく無化学合成農薬・無化学肥料で農業ができているのです。

 また、キューバでは、大規模農場の解体をやりました。以前は、すべて国営農場だったので、一生懸命働いても働かなくても給料は同じでした。そこで、小規模な農業協働組合にし、かつ、市場原理を導入することでやる気を出すよう一気に大規模農場を解体しました。結果として、それまで農地の8割が国営農場だったのが、いまは3割になっている。これは、日本の戦後の農地改革に匹敵するくらいの大きな構造改革です。

 もう一つ面白いのは、都市農業です。日本でも最近、都市農業は注目されていますが、キューバはこの都市農業に力を入れています。なぜ都市で農業かと言うと、キューバは戦後都市化が進み、人口の8割が都市に住み、首都ハバナの人口は総人口の2割を占めており、都市には労働力が余っているからです。また、石油不足で地方から都市へと農産物を輸送できない状況下で、「それならば都市の中で空いている土地を畑にして農業をやろう」という発想が出てきました。これを提唱したのが、モイセス・シュー・オンという中国系の移民の将軍です。以前、日本や中国からの移民が野菜を作っていたことを彼は覚えていました。

 日本の屋上緑化とよく似ていますが、キューバでは、木枠や石の枠で囲ったところに人工的に土を入れて都市農業をやっています。その理由は三つあります。一つは、熱帯キューバではスコールが降るので、囲いがないと土が流れてしまうためです。二点目は、ガラスやコンクリートの破片が混入している荒れ地でも、人工的に土を持ってきて囲いの中に入れてやれば、新しく農地が造成できることです。

 いまハバナでは、厳密に言うと法律ではないのですが国民の健康の観点から、実質的に法的に農薬・化学肥料の使用が禁止されています。すると、除草剤がまけないので、草はすべて手で抜かなければならない。しかし、キューバ人は日本の農家と違って軟弱なので、長時間しゃがんで草取りをすると腰が痛くなってしまう。ところが、この木枠や石の枠で囲った街中庭園ならば、枠の上に座り込んでやれば、楽に草取りができてしまうわけです。

 都市菜園はキューバ農業省、つまり、日本で言うところの農林水産省内の敷地内にも作られています。つまり、まず官よりはじめようということで、農林水産省の職員も、自分たちが食べるくらいの分は自分たちで作ろうということでやっているのです。また、かつては日本の食管制度のように、自由な流通が認められず、農産物は全部「アコピオ」という国営流通機構に一手に集められていました。つまり、農家の顔が見える農産物の流通はできなかったのです。ところが、闇市が広まり、価格が暴騰する中で流通の自由化が必要となり、農家が自由に農産物を販売できるような改革がなされました。日本には地産地消という言葉がありますが、キューバの都市農業局長に対して「これについてどう思いますか」と聞いたことがあります。すると、局長は「我々は、コミュニティのための、コミュニティによる、コミュニティの自給」という言葉をスローガンにしてやっていると答えました。このように、いまでは直売が非常に盛んに行われていています。ハバナでは月に一回農産市も開かれ、そこには周囲の農村から農産物が集まってくるようになりました。さきほど言ったように、キューバ人はもともと肉食中心の食生活をしてきましたが、例えば妊娠した女性には「お腹の子どものために野菜をいっぱい食べた方が良いですよ」と宣伝することで、野菜の消費を伸ばしてきました。さらに、肉食から野菜への転換にあたって、ハバナ市内に約1000近くある小学校に家庭菜園を作って、日本式に言うと食農教育を行っています。自然エネルギーの利用も積極的に行われ、農村部の小学校の屋根にもソーラーパネルが設置されています。そして、山間部の子どもに対してもコンピュータ教育をやっています。また、メタンガスの利用もされています。

 主食の米についても興味深い取り組みがなされています。コメ収量は、1990年代に入って激減しましたが、それが有機農業によって回復してきました。ただし、ただ有機農業で収量が増えたのではなく、その陰には、積極的な新技術の導入があります。マダガスカルのアンリ・デ・ロラニエという神父が開発したSRIという稲作農法、すなわち20〜30センチ間隔でイネを粗植し、灌漑水もほとんどやらないというユニークが農法がありますが、これを積極的にキューバは導入しているのです。SRI農法は無農薬・無化学肥料で画期的な高収量をあげられることから、例えば、Natureという雑誌では「こんなに反収が増えるなんてインチキだ」とも言われ、いま世界的に物議をかもしていますが、キューバはこの研究も進めているのです。SRIについては最近面白いことがわかってきました。それは、あまり水をやらないと、イネの根の周辺に好気性微生物が異常に繁殖して、窒素固定をして、そのために反収が上がるということです。こうしたのことがだんだん分かってきた。キューバは、こうした情報を2000年に初めてキャッチしましたが、すぐさま全国的に実験をはじめるところが、面白いところです。その結果、例えば、協働組合農場カミロ・シエンフエゴスでは、以前は300キロだった反収が、有機農業により650キロまで増え、さらにSRIを導入することで、1120キロに増えています。また、稲作農家ルイス・ロメロ氏のところでも1400キロまで増えました。2003年の全国統計をみると、ビジャ・クララ州では133%、カマグウェイ州では203%というように各地で収量が激増していることがわかります。遺伝子組み換え技術などに頼らなくても、自然生態系を利用した農法を研究することで、まだまだいろんな形で収量を上げていくことはできるのです。

 また、有機農業をやることの副産物として自然生態系の回復があります。キューバでは、トキが激減していましたが、それが戻ってきたのです。トキと言っても、日本のニッポニア・ニッポンとは異なるブロンズ・トキ種ですが、この鳥が糞という形でリン酸を田畑にまくことで、循環型農業を助けている。そして、鳥たちは国境などお構いなしに越えていきますから、キューバ一国が有機農業をやることによって、北米大陸全体の生物多様性の確保に貢献していることになるわけです。実は、キューバはスペイン等に対して有機水田によってトキを増やす技術協力を行い、「水田によるトキの再生」を理由にイギリスから大きな賞をもらったこともあります。この話を聞いたとき、こういう賞は日本の佐渡でなぜ取れなかったのかと悔しく思いました。

 最後に、キューバは他にも面白いことをやっているという例として、医療活動をあげたいと思います。実は、キューバはソ連から援助を受けた経験があるので、チェルノブイリ原発事故で放射能を浴びた子どもたちの治療活動もしています。自国の経済すら大変なときでしたが、こうした子どもたちを受け入れていますい、貧しい国々に2万人もの医師を派遣し医療活動を行っています。こうした取組みは地味ですが、キューバが途上国の多くからも評価されている理由のひとつだと思います。

講演に関する質疑

篠原孝議員 結局、自給率はどれくらい上がったのですか。

吉田 野菜については、FAOが推奨している1日300グラムは完全に達成しています。ただし、主食のコメの自給率については、残念ながらまだ60%です。これを、SRIによって100%にもっていくことを目指しています。

 ただ、自給率という概念で捉えることが適切なのかどうか。キューバには、飢えた人はいません。ですが、できれば肉を食べたい。ところが、牛はトラクターの代わりになっていますから、殺してはいけないことになっています。そして、国民はもっと食料生産性を上げて肉を食べられるようになりたいという思いを持っています。日本では、カロリーベースの自給率を出していますが、これは、肉を食べるか食べないかで大きく変わってきます。

 また、キューバの場合、政治的な思惑から、自給できるものであっても意図的にアメリカから輸入をしている。これは、アメリカの穀物メジャーを刺激することで、経済封鎖を撤回させるためのロビー活動をさせようというしたたかな政治戦略があるのです。こうしたことから、なかなか実態を表すような自給率の数字はありません。

戸井田徹議員 有機野菜と玄米食と言えば、日本で言えば健康食と言われている。キューバでは、有機農業に転換して、健康面で大きな変化はあったのだろうか。

吉田 心臓病が減ったという数値はあります。ただ、一番重要なのは、キューバでは、日本では禁じられているDDTとかBHCを使っていたことです。カストロの革命以前には、多くが農薬中毒にかかっていました。それが、カストロ政権下では、毎週とか毎月に一度、医者が来て農家の血液中の農薬濃度を調べて、「お前はまだ大丈夫」と診断して農薬を使っていた。そこまでして農薬をまくのかと言いたいところですが、かつてはそういう状況でした。

 現在では、子供たちなどに対する食の教育はしっかりしていますが、年輩の方たちの砂糖や肉をたくさん食べる習慣を変えるのはなかなか難しいのです。

 そして、ハバナでは都市農業が盛んですが、これは環境にも良いので科学技術環境省、健康にも良いので保健省、子供たちの教育に役立つということで教育省、それから国防にも役立つということで軍というようにあらゆる省庁が連携してやっています。ファミリー・ドクターという地域医療制度もありますが、そこでも医者が「野菜を食べなさい」と指導しています。このように、いろいろな形で健康食ということに力を入れています。

 また、国会の副議長も務める要人で、ノーベル賞級の女性科学者、コンセプシオン・カンパ博士が玄米と健康との関係に興味を持ち、政府の中でいろいろとPR活動をしています。そして、いまは健康食に対する関心が高まってきていて、街中でベジタリアン・レストランが出来てきています。

岡崎トミ子議員 学校給食は玄米なのですか。

吉田 キューバは全て配給制ですが、そういった中で、子どもたちにクラブを作らせ、環境や農業のことを勉強させています。学校教育の中で食生活を変えるということにとても力を入れています。ただ、学校給食が全部玄米かというと、そうではありません。

 ただ、学校の近くの菜園と都市農家とが連携して給食を供給しているのですから、日本で言えば自校方式です。

 最後にキューバの有機農業で重要なことは、市場インテンシヴをうまく活用していることです。例えば、都市農家は医師や教師よりも所得が高く、一番儲かると言われるくらいの職業になっています。農業大臣の給料がだいたい500ペソ、一般のお役人が180ペソなのに対し、農家は1500ペソです。そこで、「キューバは平等主義ではないのか。こんなに農家が儲かっていいのか」と質問した人がいますが、すると、「いろいろ言っても、最終的には有機農業をやれば儲かるということが、自給率を上げるのに役立つということがわかった。いまは異常な事態であるということはわかっているが、自給率40%という状態の中で輸入が途絶えて、農業というものが一番大事だということが身にしみてわかった。いまは、自給率を上げるためには仕方がない。ゆくゆく自給率が上がってきたら、そんなには農家を儲けさせない」という答えがかえってきたそうです。


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