農でまちおこし・バイオマスを柱に持続可能な都市へ
    

2004年6月15日

都政新報「読者の広場」掲載

 公園や街路樹の剪定枝、生ゴミ、廃食油。やっかいなゴミとして焼却されているこうした有機物も、発想を変えると実は資源である。そして、植物由来の資源には他のものと違って大きな利点がある。街路樹をイメージすれば一目瞭然だが、枝も落ち葉も太陽エネルギーを利用して自然に成長していく。だから、石油や天然ガスのような化石燃料とは違って、いくら燃やしても大気中の二酸化炭素濃度はプラス・マイナス・ゼロで増えない。専門的には「カーボン・ニュートラル」と言うのだが、地球温暖化問題も引き起さない。そこで、太陽の恵みとも言うべきこうした有機性資源をエネルギーとして活用。あわせて、循環型社会の実現や戦略的産業の育成、農山漁村の活性化につなげようという壮大な構想がスタートした。平成14年12月に閣議決定された「バイオマス・ニッポン総合戦略」がそれである。
 官僚が描いた机上の空論と思われるかも知れない。だが、バイオマスの利用そのものは、欧州ではすでに実用段階に入りつつある。スウェーデンでは木材チップで発電がなされ、メタンガスを燃料に自動車が市内を疾駆するし、デンマークでも家畜糞尿を燃料に発電施設が稼働する。EUは2003年5月に「運輸部門におけるバイオ燃料またはその他再生可能エネルギー使用促進に関するEU指令」を公布。バイオマス燃料等の市場シェアを、2005年末までに2%、2010年までに5.75%にする目標を掲げている。
 日本でも各地で取組み始まっている。岩手県では増田知事の肝いりで「いわて型ペレットストーブ」を独自に開発。これまで捨てられていた山の間伐材や枝をエネルギー源として再活用する道を開いた。千葉県では堂本知事が「バイオマス立県ちば構想」を策定。2010年を目途にウッド、フラワー、アグリ等の頭名称を付けたバイオマスモデルタウンの中核施設を10カ所構築することとしている。
 民間ベースの取組みも無視できない。山梨県では民間NP0「えがおつなげて」が、大学や県と連携して、森林発電、雇用創出、都市農村交流を総合的に組み合わせた「バイオエナジーセンター構想」を掲げている。長野県でも、伊奈谷森林バイオマス研究会や飯田市天竜峡エコプロジェクト等が木材ペレット化に取り組む。滋賀県でも琵琶湖の浄化に携わってきた市民運動が「菜の花プロジェクト」に発展。菜の花に象徴される新しい「エネルギー作物」を遊休地で作付けし、町おこしに活かそうとしている。
 いま、地方は三位一体行政改革に伴う交付金の削減や工場の海外移転で地元経済が冷え切っている。将来展望が見えない中で、バイオマスという持続可能な資源をコアに、もう一つの地域経済を作り出そうと苦闘しはじめている。これは、ケインズ型福祉国家かネオリベラリズムか、という従来型の対立軸を越えて、コミュニティに根ざして新たなビジネスを産み出そうという「第三の道」とも言えるだろう。
 そんな動きは東京でも見られる。稲城市では、国や都の補助を受けて、今年からユニークな取組みがスタートする。稲城は人口75000人で都市化が進んでいるが、昔から梨やブドウの産地として知られ、農地も165ヘクタールほど残っている。だが、平成13年の「都民の観光と安全を確保する環境に関する条例」の施行により野外焼却が禁止されたことから、毎年220トンほど発生する剪定枝の野焼きができなくなった。チップとして細かく砕いて堆肥にすれば、いま流行の安全・安心農作物に欠かせない土づくりに活かせる。そこで、市内のレストラン、給食センター、豆腐屋等から排出される廃棄油を、社会福祉団体がバイオ燃料に転換。これを燃料源にチッパー車を走らせ、堆肥原料を作ろうというのである。剪定枝や食用油の焼却代、すなわちゴミ処理経費が削減でき、ゴミから作る燃料で土づくりができ、農産物は学校給食や地元商店街に還元される。廃校となった学校施設を再活用し、障害者施設の人々に社会的に意義のある仕事を産み出し、学校の子どもたちの環境学習の場としても新たに生まれ変わらす。このプロジェクトが成功すれば、市民の足として親しまれている市内循環バス「iバス」を将来バイオ燃料で走らせる可能性もあるかもしれないと、市の担当者は夢を描く。石油、天然ガス、石炭、ウランとほぼ全量を輸入している日本の2002年度のエネルギー自給率はわずか5%にすぎない。地域でエネルギーを産み出すことの重要性は強調しすぎてもしすぎることはないだろう。
 だが、バイオマス資源の利用促進を図るには、大きな障壁がある。廉価な石油とまともに勝負し、張り合うには価格的にどうしても引きあわないという問題である。例えば、前述した木材ペレットの製造業者は奥多摩町にもあるのだが、原料が広大な山林に「分散」しているために、集めたり、加工したりするにはどうしても割高になる。何らかの社会的システムを通じて、コスト差を埋め合わせなければ、ビジネスとして成り立たない。EUでは、それをグリーン・タックスで克服しようとしている。地球温暖化防止対策として、ガソリンや天然ガスなどに環境税を導入。EUの最低税率に基づき、各国が自国の税制で課税する。長野県では小学校のストーブに木材ペレットを使う努力をしている。田中信州知事なりの「脱ダム宣言」に続く、新たな公共事業の創出といえるだろう。
 バイオマスを柱としたコミュニティ・ビジネスは、大都市東京とは無縁のことと思われるかも知れない。だが、意外なことに東京こそが日本最大のバイオマス資源の集積地とも言えるのである。例えば、食用廃油は全国では約40万トン。無論のこと東京が占める割合がダントツだが、うち20万トンが毎年ゴミとして焼却されたり、下水放流されている。こうした資源を捨てずに活用すれば、持続可能な都市としての、もうひとつの東京の未来図が描けるのではないだろうか。ル・コルビュジュが描いたようなイルミネーションに光り輝く都市ではなく、若者が矜持を持って働き、お年寄りが安心できる等身大の街づくり。それは、これまで都市から排除され続けてきた泥臭い「農」に視座をあてることから始まるのかもしれない。


「都政新報第5040号・2004年6月15日読者の広場掲載」