カリブの教育大国〜キューバ
    

2004年10月28日

教育新聞「円卓」掲載

 カリブ海の真珠と言われるキューバにぞっこん惚れ込み、公務のかたわら休暇を利用しては七度も旅をしている。国をあげての有機農業に魅せられてのことだが、キューバがすば抜けた教育大国であることは意外に知られていない。
 1959年の革命以前のキューバの教育事情はまことに劣悪だった。子どもの半数が学校に通えず、非識字率は四割を超えていた。だが、カストロは革命後直ちに、識字運動を展開。小学校から大学まで無料の教育制度を立ち上げ、文盲を一掃した。今では、全員が中学までの義務教育を終え、その後は、各人の希望で専門技術学校や高校、大学へと進学する。科学者や医師も多く、スポーツや音楽でも世界的な人材が活躍しているのはその優れた教育の成果と言える。
 今、日本では学力低下が大きな課題になっているが、この点でもキューバはユニークだ。キューバでも競争は厳しいが、それは日本のものとは少し違う。競争は他人を蹴落とすためではなく、自分を高めるためとされ、できる生徒が、出来ないクラスメイトを助け、互いに学びあう。教えてもらう方も恥とは感じず、教える側も偉ぶらない。学校間の競争は学校の序列化には結びついていない。
 この子どもたちの学力ぶりは、1997年のユネスコの国際調査で実証された。小学校三年、四年生の数学と国語の成績が、他のラテンアメリカ諸国のほぼ倍の点数をあげたのだ。山の分校の生徒の成績すら、恵まれた他国の私立学校の成績を上回っていた。結果に驚いたユネスコは、98年に再テストを行なうが、キューバの最低点が他国の平均点を超えるという結果が得られただけだった。
 今、キューバは、ソ連崩壊後のアメリカの経済封鎖の強化で、未曾有の経済危機に苦しめられている。教材も十分に入手できず、教室はボロボロだ。だが、そうした中でも、キューバはさらなる改革を推進している。電力がない農山村の二千校へのソーラー・パネルの導入。幼稚園からのコンピューター教育。学校改革で小学校では最大20人、中学校では15人教室を実現させた。経済解放政策の反動で新たに生じた10代の妊娠、不登校・フリーターといった問題には、ソーシャル・ワーカーを育成し、各コミュニティできめ細かい支援を行なっている。
 貧しいが、元気にはしゃぎまわり、好奇心にあふれ、礼儀正しく澄んだ目を持つ子どもたち。この姿を目にすると、どうしても再びキューバへと足が向いてしまう。

                                          「教育新聞第2495号・2004年10月28日円卓掲載」