◆愛恋指南書 その壱
和にとって、高遠日織は色々と頼りがいのある存在で。
だからこそ、他の人には相談できないようなことも、日織になら…と、そう和が思うのは仕方がないこと。
…しかし、それが本当に正しい選択であるかどうか些か微妙なところなのも、また、仕方のないこと。
「で、俺に相談に来たって訳ですかい」
何かを酷く思いつめたような面持ちでやってきた和から、それについての相談を持ち掛けられた日織は、いつもの柔和な笑みに少々の困惑をまぜた面持ちで茶を差し出した。
「う、うん。ごめん変な話をして」
「別に変なことなんてありませんぜ。気にしねえで下さい。…とはいえそれに関しちゃ、絶対にこうしなけりゃならないってぇ決まりがあるわけでなし、そんなに気に病むこたあねえと思うんですが。
けど、アンタは一旦気にするとトコトンだってえ難儀な性格なのも、俺は重々知ってますしねえ」
とりあえず、それを飲んで落ち着いて。
そう声をかけて、やんわりといつもの笑みだけを向ければ、和はこくりと小さく頷いてから出されていた湯飲みに手を伸ばす。
「ま、俺としちゃあ、成瀬さんがちゃんと和さんを大事にしてるってことが判って良かったんですが」
「壮くんは優しいよ。…そりゃたまにっていうか、結構頻繁に意地悪なこと言ったりされたりするけど。それでも物凄く大事にされてるってことは、いくら鈍い僕でもちゃんと判るもん」
「……あの人らしいなあ」
和をからかってはいるが、それが悪意から来ているものではない事は十分に判っているからこその日織の言い分に、言葉通りに捉えている和は成瀬を庇うことを忘れない。
「でもさ、僕だって一応成人してるわけだし。なのにまだ未成年の壮くんに散々気を遣わせて我慢させてってのが、自分でもちょっと情けなくて」
「はあ。そういうモンですかねえ?」
「そういうものだよ!」
「はいはい、判りましたから。そうムキにならねえで落ち着いて下せえな。ね?」
「…………」
突然の大声に、二人の傍らで丸くなっていた日織の飼い猫が抗議の声を上げると、和はバツが悪そうごめんねと一言謝ってから大きく溜息を吐いた。