それは、いつもと同じ朝の出来事だった。
「ん………?」
降りしきる雨の中、いつものようにゴミを捨てようと外に出た高遠日織は、ふと何かを耳に捉えた気がして周囲を見回した。
「んん…気のせいですかねえ」
別に雨は嫌いではないのだが、昨夜のせいで少々気だるいせいか、空耳だったかと小さくため息をついてゴミ袋を持ち直してみれば。
「おっと……気のせいじゃねえな」
気のせいではなく、確実に日織の耳は「それ」を捉えていた。
「ああもう…憎たらしい雨だなあ」
ざあざあと降りしきる雨の音が煩くて、日織が「それ」を見つけようと必死になってもなかなかうまく行かない。
しかし売れていないとはいえ役者を生業としているのは伊達でなく、一呼吸して全神経を聴覚へと集中させれば、日織の耳へ「それ」がきちんと捉えられて。
「………こいつは何の冗談でしょうかねえ?」
聴こえてきた方向へ顔を向けて、そこから導き出される現実に気付き日織の顔に怒りの色が浮かんだ。
「何処に居るんです?!」
日織の耳に聞こえたのは、小さな小さな猫の鳴き声。
そしてその鳴き声が聞こえてきたのは、なんと今日織が向かおうとしていたゴミの収集場所。
つまり、それが意味するところは。
「何処のどいつだ、生きてる猫をゴミで出した大馬鹿野郎はッ!!」
とても哀しい現実だった。