まっしろおひげのサンタさん。
まっかなおはなのトナカイさん。
いいこにしてたら、きてくれる?
「何悩んでるの!」
「痛っ」
年の瀬が間近のとある一日。
幼稚園も冬休みが近くなり、園で行われる年内最後のイベントである『クリスマス会』がそろそろという時期に、磯前先生は一人頭を抱えていました。
「如月…」
「ほら、園児たちのお願いをちゃんと『サンタさん』に渡さなきゃいけないんだから。もうすぐお迎えの時間だし、ちゃちゃっと回収したものを連絡ノートに挟んで頂戴」
お世辞にも優しい顔立ちとは言い難い磯前先生は、眉間に皺を寄せていることで余計強面になっている事に気付いていなかったらしく。
別に何かあるわけでない事は重々承知でも、如月先生以外の他の先生たちは声を掛けにくかったようで、呆れを隠さず(あまつさえ丸めたノートで軽く頭を叩かれて)漸く自分の状況に気付きます。
「まあ、今年は特別なんでしょうけど」
特別、というのが何を指しているのか。
それをわざわざ確認する必要もないので、あっさりと「まあな」と頷いて見せると、如月先生は肩を竦めて磯前先生の机の上にある園児たちが書いた「サンタさんへのおてがみ」へと手を伸ばしました。
「さてさて、磯前先生を悩ませているあの子は何を欲しがってるのかしら?」
あの子とは、諸事情により磯前先生が引き取り育てている園児和くんのことです。
そして磯前先生が悩んでいる原因が、その和くんが書いた手紙だろうと容易に推測できてしまうからこそ、如月先生はからかうつもりで読んでみるのですが…。
「…ちょっと磯前先生」
「何だ」
「まさかこれ叶えてあげるわけじゃないでしょうね」
読んだ如月先生もまた、磯前先生と同じように渋面で悩む羽目になってしまいました。
「園児にそんなモンをプレゼントしてどうするんだ」
「磯前先生ならやりかねないと思ったのよ」
「…………」
だってアナタ笑っちゃうくらいあの子に甘いじゃない。
幼稚園では自重して他の園児と分け隔てなく接している磯前先生でしたが、一旦そこを出た時、どれだけ和くんを可愛がっているかを知っている如月先生は本気でそう思ったようです。
「アホか。いくら何でもこれを叶えるわけにはいかねえだろう」
「そりゃそうでしょ。…でもこれって…自分が欲しがってるモノじゃないでしょう?」
「だからどうしたモンか悩んでるんじゃねえか。
けどサンタへのお願いを無視して違うモンを贈ったとして、あいつのことだから絶対泣くぞ。本気でがっかりするぞ。それはそれでどうすりゃいいんだ」
「………確かに」
冗談を冗談と取るのが苦手と言うか、妙に信じ易いと言うか。
幼稚園児となればそろそろサンタの存在を疑い始めてもおかしくない頃なのに、和くんときたら全く疑う気配も見せないものですから、磯前先生も何処まで信じ続けるかあえて教えるつもりがありません。
けれど今回のお願いを叶えるとなると、どうしたものかと頭を抱えてしまうのです。
「どうしたモンかな」
「どうしたモノかしらねえ」
お遊戯室の方から聞こえてくる元気な園児たちの声を何処か遠くに聞きながら、揃って肩を落とす磯前先生と如月先生は。
「サンタも大変ね…」
「サンタも大変だ…」
たどたどしい文字で書かれた和くんのお手紙を前に、どちらからともなく大きなため息を吐くことしか出来ませんでした。
さてはて、和くんのサンタさんへのお願いとは如何に。
【サンタさんの困惑・完】