和くんと磯前先生編 01

みいら、こうもり、おおかみおとこ。
まじょ、くろねこ、かぼちゃのおばけ。
あとはたくさんのおかしと、それから、それから。



「おい和。準備出来たか」
「ただひこせんせい」

本日はハロウィン。
ちょっと前までは馴染みの薄かったこの異国のお祭も、今ではすっかり、特に子供たちの間では馴染みつつあって。
勿論ここ高遠幼稚園でもそれは例外ではなく、園児や保護者、そして先生達もそれぞれ思い思いの恰好になって集まっています。

「せんせい、これどうするの?」
「耳と尻尾?全く…わざわざこんなモンまで用意しやがって。如月の奴、俺らで着せ替えを愉しんでんじゃねえよ…」

先生達の寮というか居住階になっている幼稚園の三階では、そこに住んでいる磯前先生と和くんが如月先生から(問答無用で)渡された衣装に着替えていました。
が、その衣装というのがなかなか本格的で。
どうして俺がここまでしなきゃならないんだとそう喉まで出掛かっている磯前先生でしたが、自分を見上げている和くんがハロウィンを楽しみにしていたので絶対それは口にしません。

「和が狼男ねえ…。狼ってえか犬、しかも仔犬だよな」
「せんせい?」
「何でもない。ほれ、付けてやるからちょっとじっとしてろ」

子供用とはいえその手触りの良さに決して間に合わせでないことが知れた磯前先生は、同僚かつ頭の上がらない如月先生の高笑いを思い出して大きく溜息を吐きますが。
口ではほぼ勝てない相手でもありますし、それそれに和くんに合わせたそれが衣装が似合っているのでヨシとすることにしました。
(衣装がおっとりしている和くんが動きにくくならないように、いつもよりちょっとおめかしした程度だったこともありますが。)

「ほれ、これでいいぞ」

ベルト仕様になっている尻尾とカチューシャ仕様の耳をつけてやり、あとはグローブというか手袋というか、とにかくご丁寧に肉球つきのそれを嵌めて和くんの変装は完成しました。

「………」
「…どうした?」

普段と違うのが珍しいのか嬉しそうに手を握ったり開いたりしていた和くんは、突然はっとして磯前先生を見つめています。

「せんせいは?」
「ああ?」
「せんせいは、なにになるの?」

着替え終わった和くんは、まだ支度途中の磯前先生が何に着替えるのか気になったようです。

「…流石にこれだけじゃ判らんか」

そう呟く磯前先生はまだ黒のパンツにサテンの白シャツだけの恰好でしたから、和くんが気になったのも無理はありません。


「……俺のガラじゃねえってのに」
「??」


自分を見上げている和くんの目が期待に満ちていることに、磯前先生はそれはそれは深い溜息を吐くのですが。



「見てりゃ判るさ」



ハロウィンを楽しみにしている和くんをがっかりさせることだけは避けたいので、結局如月先生が用意した衣装に着替えるしかないのでした。



…さて、磯前先生が変身するのはなんでしょう?




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