和くんと磯前先生編 02



「うわあ!」


自分の着替えが終わって、大好きな磯前先生が着替えるのを側で見ていた和くんは。



「ただひこせんせい、かっこいい!」
「…そりゃどうも」

支度を整えた磯前先生の姿に目を奪われて、お祭に参加する前からそれはそれはおおはしゃぎです。
そんな和くんから大絶賛されている磯前先生の衣装といえば、シルバーカラーボタンつきロング黒のコート、ケープ、赤のベルベッド風カラー、カフ、灰色のディッキーカラー、メダリオン。
しかもご丁寧にステッキまで用意されていて、それが立てかけてあるテーブルの上にはまだ着用前の白手袋。そしてそれと一緒に置かれている鋭い牙から伺えるのは。

「吸血鬼はいいんだがよ。ビクトリア朝だがエドワード王だか知らねえが、こんなひらひら俺にゃ似合わねえんだがなあ」

背を覆うようなマントこそは羽織っていないものの、それは何処からどう見ても立派な吸血鬼の伯爵でした。
磯前先生としてはもう少しシンプルな衣装はないのかと(一応)如月先生に交渉したのですが、やるならとことんだと変に力説され挙句私の見立てに何か不満があるのかと凄まれた経緯があるだけに、正直和くんから褒められても内心複雑です。

「せんせい、せんせい」
「………なんだ?」
「これ、どうするの?」

少々ヤケ気味に白手袋に手を伸ばしていた磯前先生は、少々興奮気味の和くんからくいくいっとコートの裾を引っ張られつられてそれを見るのですが。

「どうするって、口に嵌めるんだよ」
「はめる?」
「…ちょっとまて。和、お前吸血鬼が一体なんだか判ってるか?」

吸血鬼といえば黒尽くめの衣装もさることながら血を吸う為の牙が特徴ですから、その牙をどうするのと言われてもそう答えるしかないのですが。
質問した和くんが説明されてもきょとんとしていたため、どうやら根本的なところから説明してやらなければならないのだということに今更気付きました。

「そもそも今日が何の日か判ってるか?」
「かぼちゃのおまつり」
「……………」
「あと、えんじろせんせいが、おかしのおまつりだっていってた」

本気でそうだと思っているのかはっきりと淀みなく答える和くんに、いくらなんでも砕いて教えすぎた理事長!と思わず喉まで出かかった磯前先生ですが。
…和くんが見えないお友達が見えて挙句好かれ易い体質で、しかも相当な怖がりだということを失念していたと我に返り、それに幼稚園でも(かぼちゃランプやハロウィンの装飾にばかり気が向いて)ちゃんとした説明をしていなかったことも思い出しました。
おともだちや他の先生から下手に恐い知識を植えつけられる前に耐性を付けさせなければならないと、そう気付いた磯前先生は和くんを向かい合わせで自分の膝に抱き上げると。

「ハロウィンってのは、少なくともお菓子の祭じゃねえんだ」
「じゃあなにのおまつりですか?」
「そもそも祭じゃねえよ。そうだな……日本で言うお盆みたいなモンか」
「???」

園児相手に異国の古い歴史やら宗教諸々を説明しても理解出来るはずもなく。しかもなるべく「お化け」などの怖がりそうな単語を避けているので結局大雑把な説明しか出来ず。


「…要約すると、お菓子を貰う為に仮装する日?」
「……おまつりとちがうですか?」
「………結局祭になるのか…?」
「?????」


言葉を選びすぎて混乱してきた磯前先生と、理事長先生が説明してくれたのとどう違うのか判らない和くん。
…どうやら和くんがみんなと一緒にハロウィンに参加するまで、もうちょっと時間がかかりそうです。





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