和くんと磯前先生編 03


「とりあえず、由来は置いておく」


ハロウィンについて和くんに説明しようとしていた磯前先生でしたが、先生自身ハロウィンが一体なんのためにあるのか判らなくなってきました。
…判らないというよりも正確にはこんがらがってきただけなんですが、とにかく園児相手に説明するのは無理だと判断したのです。

「それよりも、だ。お前が今仮装してる狼男ってのはなんだか判るか?」
「おおかみさんになっちゃうひと…」
「…間違っちゃいねえわな」

狼男についてはこれくらいの認識で大丈夫でしょう。

「じゃあ魔女は?」
「おんなのひとのまほうつかい。しんでれらのまじょはいいひとで、にんぎょひめのまじょはこわいの」

園児らしくアニメや絵本からの知識ですから、これも間違いではないでしょう。

「それなら黒猫は?」
「ジ●」
「………まあな」

思い切り固有名詞が出てきたのはやはりアニメの影響ですし、それに魔女の使い魔という意味ではこれも間違った認識ではありません。
ところが。

「ミイラ男は?」
「んーと…けがしたひと?」

いきなりおかしくなってきました。

「じゃあ…吸血鬼は」
「………むらさきいろのおにんぎょう」

えいごでしゃべってるからなにいってるのかわかんないの、と残念そうに答える和くんでしたが、それは吸血鬼云々というよりも某有名幼児向け番組のキャラクターです。完璧に間違っています。

「待て。ミイラ男はけがをしたわけじゃねえし、それに吸血鬼は人形じゃねえ」
「……ちがうの?」
「あーと…ミイラってのは…ちょっと面倒くさいから後回しにしてだな。吸血鬼ってのは人形じゃない。血を吸う化け…じゃなくて、生きモンだ」
「…ち?」
「そうだ」
「どうやって?」
「それはだな」

説明するよりも実際にマネをしてみせた方がいいかと、そう考えた磯前先生は。和くんを膝の上に抱いたまま上体を逸らし、白手袋と一緒にそのままにしてあった牙を手にしてかぽりと自分の口に嵌めてみます。


「………!!」


が。


「ふ…ふえ…」
「お、おい和?」
「うわああああんこわいいいいいい!!」
「何いっ!?」


牙を付けた状態で磯前先生が振り返った途端、そのあまりのはまりっぷりに和くんは怖くなって思い切り泣き出してしまいました。



「ちょ…ちょっと待…」
「うわあああああああああん!!」



まさかこれくらいで泣かれるとは思っていなかった磯前先生は、内心大層傷つきながらも必死に膝の上で大泣きする和くんを一人大慌てで宥めにかかりますが、磯前先生が牙を付けたままでのそれに却って恐怖は増すばかりでさらに大声で泣き始めました。



…宥めるより何より、まず和くんが怖がってる牙を外してしまった方がいいと思うんですけどね。



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