◆神南くんズのお仕事編




---おしごとだ!
---おしごとだよ!
---みんなあつまれー!




臨海署の中に(本来警察とは一切関係のない)特別な声が響き渡り、それを合図に署の生きたマスコットである神南くんたちにとって一番大事なお仕事が始まりました。

---ぜんいんしゅうごう!
---てんこ!

何やら物々しい雰囲気になっていますが、普段彼らのお仕事は主に愛想を振りまくことです。
警察署というところなら大抵そうなのですが、ここ臨海署も多忙極まりないところで。
日々職務に追われお疲れの皆さんにとって、丸っこくて可愛らしい彼らの姿に癒され励まされております。
…とはいえまれにその恩恵にあずかれないどころか、むしろ侮蔑に近い扱いを受けている方が若干名居たりしますがそこは今回割愛です。気にしたら駄目です。
というか、本庁からやって来る某警部補が主な被害者なんですけど(←隠す気なしです)

---げんばかくほ!
---かくほ!

とにかく。
いつもであれば、臨海署内をちょこちょこ歩き回り、お疲れの皆さんを励ますことが第一任務である彼らは今、一転してきりりと凛々しい顔立ちでとあるものを取り囲み始めました。

---じゅんびよし!
---じゅんびよし!

悪戯に背後からちょんと押そうものなら、ころんころんと何処までも転がっていってしまいそうな丸い身体に、『KEEP OUT ハ○チョウ』というロゴの入った黄色いテープを巻きつけて。
大きな輪っかになったテープでそこをぐるりと囲むように陣取ったかと思うと、そのまま署の入り口にて杖を持って立っている警官さながらに周囲に眼を向けて。
そうして自分たちがテープで以って囲んでいるものをしっかりと守るため、神南くんたちはいつになくはりきっているのです。

---たちいりきんし!
---おさわりきんし!
---そしてしゃしんはダメ!
---でもみるだけならヨシ!

神南くんたちが大事な仕事に就き始めたことを知った記者の皆さんが、それが意味することに気付いたのでしょう。
実際その場に居合わせたことに、幸運を噛み締め興奮を隠し切れず刑事課の方を覗き込もうとしているのに気付き、珍しくも神南くんたちは小さくも声を荒らげて注意を呼びかけます。
さしたる時間もおかず、記者の皆さんどころかいつに間にやら二階に在籍の皆さん、そして階下にで激務をこなしているはずの交通課や総務課の皆さんまでもが(心なし遠巻きに)神南くんたちの周りに集まって。
二階が定員オーバーにも程がある人口密度になろうとも、さして気に止めた様子もなく、全員声こそは出さずとも眼福具合に癒される以上に興奮して。
全員が「それ」をひと目見て癒されたいという目的で、犇くように集まっている職員その他のせいで二階は異常な雰囲気に包まれています。

---おしずかにー。
---おしずかにー。

右倣えするように、一斉に口元に(指がないので)手をあて「しぃー」っという仕草をしてみせる、そんな神南くんたちが大事に大事に囲っているその中にいるのは。
自分によく似たハンチョウくん(正式名称アヅミ・ハンチョウ・神南くん)を抱き枕代わりに抱え込み、刑事課にある長ソファに横になっている安積係長のお姿。



---おこしちゃ、ダメ。
---うるさくしちゃ、ダメ。



係長が仮眠を取っている時に起きている騒動は勿論、それから守るために神南くんたちが一斉に警備に当たっていることを知らないのは、この臨海署の中ではきっと安積係長とハンチョウくんだけなのでした。


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