◆安積班の皆さん編
「皆そんなに興奮して一体何が……って、ああ」
定員オーバーな二階に外階段からひょっこり現れた須田チョウでしたが。
いつになく真剣な面持ちの神南くんたちを見つけ、驚くと同時にその理由も瞬時に理解して、自分も不埒なことを考える輩が居ないかどうか目を光らせました。
「すだくん、今回もチョウさんの枕よろしくね」
---まかせといてー。
目を光らせながらも自分とよく似た神南くんに小声で声をかければ、すでに係長の枕を買って出ていたすだくんが、ご自慢のお腹をぽふぽふ摩りながら係長の頭を乗せたまま自信満々にそれに応えます。
すだくん(正式名称すだ・神南くん)の中身は他の神南くんたちと比べて1.5倍の詰り具合なためその寝心地のよさは折り紙付きで、係長は(須田チョウ似であることも関係しているのか)仮眠を取る時はこうしてすだくんを枕にご指名なのでした。
「ほら黒木。お前まさかくろきくん一人に警備やらせておく気?
チョウさんの寝顔を見て和みたいってのはよーく判るけどさ、まずはあそこの望遠レンズで盗撮(…)しようとしてる輩を捕まえるか追い出すくらいしといで?」
「…………」
すだくんと微笑みあいアイコンタクトをしている須田チョウでしたが、自分の後ろで食い入るように上司の寝顔を覗き込もうとしていた後輩を声だけで引きとめ、それどころか容赦なく(危険分子として)仕事を命じました。
…事実くろきくん(正式名称くろき・神南くん)は、素早くけしからんことを仕掛けていた記者の一人に飛び掛り、お前なんぞに大事な係長の寝顔を見せてなるものかと身体を張って顔に覆いかぶさっています。
そしてその後には桜井巡査とさくらいくん(正式名称さくらい・神南くん)が、にやりとそら恐ろしい笑顔でもって近づいたかと思うと、一体どこから取り出したのか、いきなり容赦なくカメラにイカ墨をぶちまけています。
問題の記者の周りが一瞬にして生臭さに包まれますが、風向き的に安積係長の方へ流れてこないので、安眠を妨害することがないと言う理由から誰一人として彼らの行動を責めるものはいません。
係長が無事ならそれでよし、がここ臨海署では合言葉なのですから、この反応は当たり前とも言えます。随分と生臭い鉄建制裁ですが、臨海署が海っぱたにあるんですからそれもまたヨシです。
---クロキはやくー。
---おまえとちがって、くろきくんがひとりでがんばってるんだからー。
本庁の某警部補ほどではないにしろ、呼び捨て扱いされている以上、黒木巡査が神南くんたちから結構酷い仕打ちを受けているのは気のせいではないようです。
頭の上がらない先輩刑事に言われ、追い討ちをかけるように神南くんたちの大(?)ブーイングにも後押し(え?)され、黒木巡査は泣く泣くその場を離れイカ墨まみれのカメラごと一人の記者を署外に捨てに行くのでした。
「係長に、これをかけてやってくれないか?」
---りょうかいです。
そんな黒木巡査に哀れみの眼差しを向け、最年少なのに容赦ない後輩(と、それによく似た神南くん)の攻撃に複雑な面持ちの村チョウは。
でもまあ大事なのは係長の方だから…ということで、他の神南くんたちと違い、警邏するようにソファの周りを巡回しているむらさめくん(正式名称むらさめ・神南くん)へと毛布を手渡します。
本来ならば自分でかけて差し上げたい…と思ってはいるのですが、今の係長に触れるというより、神南くんたちが囲っている中に入れないのでこうなりました。
係長の信頼が厚い安積班のメンバーであれば、何ら問題なく張り巡らされた黄色の輪っかの中に入れるというのに、村チョウの変に杓子定規なところはここでも健在なようです。
「ん……」
むらさめくんがそっと細心の注意を払って毛布をかけた時、ちょっとだけ安積係長の口から声が上がって、それと同時にハンチョウくんを抱きかかえる腕にもちょっとだけ力が篭って。
すだくんのお腹に頭を埋め、さらに寄り添って寝入る安積係長とハンチョウくんから溢れ出ているマイナスイオンの影響なのでしょうか。
ほわほわとお花が飛び交っているんじゃなかろうかと錯覚してしまいそうなほのぼの具合に、刑事課から一歩(以上)離れたところで皆さんが声なく癒され一部萌え悶えさせられています。
安積係長が仮眠を取るとき、その周辺を警護したり盗撮を防いだり不埒なモノは排除したり毛布をかけてあげたりと、安積班の皆さんも神南くんズたちとはまた別の意味で、なかなかどうしていろいろあるんですよ。