大変身・続 01
その日の日向探偵事務所は平和だった。
「金さん、これであっているでしょうか?」
「見せて下サイ」
「ここが少し、判らないのですが…」
「そうですか。ではまずこちらの解いている方を確認しますネ」
「……」
先日の件で未だ犬への変化が解けない金は、耳と尻尾をそのままに小夜への
家庭教師に勤しんでいる。
「金さんがいらっしゃらない間、私なりに独学で学ぼうとはしたのですが…やはり一人では判らないことが多くて」
「それは…申し訳アリマセンでした…」
「いえ、金さんのせいではありませんから」
「……」
この尻尾と耳のせいで外出が侭ならない為、小夜は自分から金の元へと通って勉強をみてもらっている。
そしてここの主である日向は、そんな二人を眺めている、そんななんとも微笑ましい一時だったのだけれど。
「可愛いでござる〜」
小夜と向かいあう形で座っている金の後ろに、彼の尻尾を撫でながらうっとりと呟く怪しげな金髪の忍者が、日向にとってのその微笑ましい光景をぶち壊していた。
「ンー、尻尾もイイケド耳も可愛いネっ」
「…ロジャーさん。くすぐったいのですが」
「この柔らかさがまたイイでござる〜」
「……私の話、聞くしていますカ?」
忍者…ロジャー・サスケから散々尻尾を撫で触られ、しかも耳を掻くように撫でられて、金はついうっかり頭を擦り寄せそうになりながら、一応注意することは忘れない。
「私は最初に小夜サンの勉強、邪魔しないで下サイ言いました。
気が散ります。触るな言いまセンが、小夜サンの勉強が終わるまでイケマセン」
言っても無駄だろうなと思いつつ、それでも教え子との時間を優先させるべく注意をしてみると。
「いやいや大正殿。根を詰める良くないネ。
だって君達はもう、3時間以上も問題集とにらめっこしているじゃないか」
「あ…」
「エ…」
ネ?と満面の笑みで時計を指さされ、これには金も小夜も驚いてしまった。
「…それ以上金に触るな」
しかし日向から言わせると、ロジャーはその3時間以上もの間、金の背後で尻尾をなで耳を触って愛でていたことになる。
「金と嬢ちゃんの邪魔をするなら出ていけ、このエセ忍者っ」
「OH!本当は自分が触りたいくせに、人に八つ当りとは全く器が小さい家主だな!
…もしかしなくとも、『ケツの穴が小さい』という言葉は、貴様のタメにあるんじゃないのかい?」
「ンだとゴラァっ!」
お陰でロジャーの辛辣な挑発に遠慮なしに乗りまくりで、その度に金がまぁまぁと宥める状態。
よくもまぁこれで勉強会になるものだと呆れてしまうが、こんな状況でも小夜は必死に問題集に取り組んでいた。
何故なら…。
「なぁ小夜たんに糸目のおっさん、やっぱロイの言う通りそろそろ休憩しねぇ?」
日向からたまりにたまった報告書の提出を命ぜられ、仏頂面でそれらを片付けている光太郎がそばにいたからだった。