山口の伝説
鬼の岩
〜下関市豊北町〜
 









 下関市豊北町の島戸に、高坪山(たかつぼやま 長羽山(ながはやま)ともいう)という小高い山がある。

頂上にのぼると、海士ヶ瀬(あまがせ)の海をへだてて、角島(つのしま)が見わたせるながめのいい山である。

この高坪山に、むかし、たくさんの鬼が住んでいて、里に下りてきては、

物をぬすんだり、漁師の家をあらしたりした。

それで、村の人たちはたいへんこまっていた。

 あるとき、このことを聞いた住吉の神様は、なんとかして村の人たちをたすけてやりたいと思った。

よい知恵はないものかと考えたすえ、鬼と「かけ」をすることを思いついた。

 ある日、神様はつぼに酒をたくさんつくって、鬼のかしらをよんだ。

神様は鬼のかしらに酒をあたえて言った。

「おまえたちと、ひとつ「かけ」をしよう。

よいか、ひと晩のうちに、この島戸と角島のあいだの海をうめて、歩いてわたれる瀬をつくるのじゃ。

みごとつくれたら、おまえたちののぞみのものをなんでもかなえてやろう。

どうじゃ。」

 鬼のかしらは、そのくらいのことならぞうさないと思ったので、よろこんで言った。

「よし、やろう。

この「かけ」に勝ったら、浦じゅうのいけすをもらっていくぞ。」

 鬼のかしらは、すぐけらいの鬼どもを呼び集めてわけを話し、神様からもらった酒で酒もりをはじめた。

 酒もりが終わると、さっそく鬼たちは仕事をはじめることにした。

鬼のかしらはふしぎな力を出して、大きな石を何万と集めた。

けらいの鬼たちは、その石をつぎつぎと海に投げ込んだ。

石はみるみるうちに一すじの瀬となってつながっていった。

もうひと息で角島までとどきそうになった。

 このようすを見た住吉の神様は、

「これはたいへんだ。このままでは鬼にまけてしまうぞ。」

とおどろいて、なんとか鬼に勝つくふうはあるまいかと考えた。

「おおそうじゃ。」

神様はひざをポンとうつと、みのとかさをもってきて木にのぼり、

バタバタと、ニワトリの羽おとをたてながら、

「コケコッコー。」

と、大きな鳴き声を出した。

鬼どもは、

「しまった、夜が明けてしまった。

これは俺たちの負けだ。」

といって、みんな逃げてしまった。

それからは、村に鬼は出なくなった。

村の人たちは、住吉の神様をありがたく思って、山の上に小さなやしろをたてて、神様をまつったという。

島戸と角島の間にある鳩島は、鬼が瀬をつくるために投げ込んだ大岩が島になったものだといわれている。

また、海士ヶ瀬は、小さい石を投げ込んでできたものといわれている。

角島の海岸には、このとき鬼がつけたといわれる鬼の手形がついた岩がいまも残っている。

 高坪山は、鬼が酒のつぼを埋めたということから名づけられ、その山中に鬼のかしらの足あとがあったというが、

今はもうない。

いまでも、高坪山から酒もりをしたときの土器が出るといわれている。

おわり


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