(2004/06/29執筆開始)
(2004/07/02HPに上げる・・・・言い回しとか変更する可能性が残っていますが 設定そのものはこれで固定すると思います)
(2004//最終改訂)




「伝説の英雄」と呼ばれた
「必ずここに帰ってきて」と言われた   ・・・・・・・・・それなのに


「ニセモノめ そんな安物の体で生きていたいのか!! 目の前に居るのはお前の本当の体だぞ!
 惜しくはないのか!!! 壊していいのか!!」
「ゼロ 君にならわかるはずだ 本当に大切なものが何か・・・・・・・・・・・・」


オレは伝説のゼロじゃなかった
100年前の記憶はほとんど思い出せない もう記憶装置の中から消えてしまっているのかもしれない
もし記憶が残っていたとしても 誰がそれを正しいと証明できるだろうか
100年前共に戦ったアイツは サイバー空間に去って行き
生きているレプリロイドがサイバー空間に入るための扉は オメガを破壊した時にすべて消滅した

自分の手が自分の手ではない感触がある・・・記憶の中にある手と形が違う
                     ・・・・・・・今までは記憶装置の故障かと思っていた

最初の記憶は 紅い液体のついた両手

次の記憶は鈍く光るバスターのついた手

次の記憶はいびつな形のバスターのついた手

次の記憶は笑みを浮かべた少女を抱いている
   「・・・・・・・・ねえ あなたと一緒に行きたかったの・・・・・・・だけの世界・・・・・・・・・・・」

 ウソダ ソンナモノハマボロシダ


レジスタンスベースの見張り台の上から眺める夕日は何度も見たはずだ
それなのに今日はひどく紅く見える・・・もう2度と見たくない
オレはかつて暗闇の中に消えるべきだったんだ・・・

いつ? 何年前? 何十年前? 暗闇の中で少年の声が呼びかける
「行かないで」と・・・・・・・・・・さしのべられた手を振り払ったはずだ・・・・・・・・・・・・それなのになぜここにオレはいるんだ?


・・・・・ここから落ちれば死ねるだろうか
 ・・・・・ここから落ちれば消えることができるだろうか
  ・・・・・ここから落ちれば忘れることができるだろうか
   ・・・・・ここから落ちればオレは変わることができるだろうか

それでも・・・・・・・・・
『ここから落ちても また誰かが自分をよみがえらせるだろう』
という確信に似た感覚があった なぜだ? 
自分は死にたいのか 生きたいのか
どこに行きたいのか 何をしたいのかわからない
誰に作られたのかも思い出せない
高い戦闘力を与えた最初の作り主の記憶をたどろうとすれば
老人の笑い声にも似た 鳥の鳴き声だけが聞こえる

地面まで30メートルの高さがひどく近く見えた
まるで手が届きそうな錯覚を覚える


耳の奥に風の音が聞こえた
敵が来たのだと体が反応する 振り返ると緑色の風をまとったレプリロイドが空中に浮いていた


「ハルピュイア お前がここに来るとは珍しいな 修理のお礼参りにでも来たか」

「そんなところだ」

「セルヴォなら下の階に居るぞ」

「用があるのはお前の方だ」

「なにっ?」

「サンダープリズン!!」

「うぁぁああぁああッ!」


見張り台から滑り落ちたゼロの手を地面から3メートルの高さで ハルピュイアがつかんだ

「てめっ! ハル!! 何をする」

「飛びたい気分なんだ つきあえ」

「1人で行け!!!」

ゼロの主張をハルピュイアは無視して西に飛んだ ・・・・・・マッハ3で・・・・・・・
































さんざん説教と絶叫を上げるゼロを音速の向こうに無視して
ハルピュイアはゼロを絶壁の中腹につれてきた


「また頭から落とされるかと思った」

「丸腰の相手と戦ってもつまらん」

オメガとの激戦の傷は応急処置でふさがれていたが
現在のゼロの状況は ライフゲージ初期状態 チップ無し サブタンク空っぽ サイバーエルフ未使用
ダウンロードしたサイバーエルフ無しの状態であった
武器はどこに置いたか記憶が無かった

風化の進んだ絶壁の岩肌は手で触れただけでもボロボロと崩れ落ちた
壁蹴りをしようとしても カカリになる岩も無かった もしこの狭い岩棚から足を滑らせたら即ミスだろう
砂漠の中に突き刺すようにそびえた岩山の底はもはや目では高さがわからなかった


「いい場所を知っているじゃないか」

「ここから見る夕日がキレイなんだ」

「もう夕日は沈んだぞ・・・」

「まあだまって見ろ」

ハルピュイアが指差した先を見てゼロは驚愕した
太陽の位置が違った さっき夕日が沈むのを見たはずなのに
ここではまだ太陽が沈んでいなかった

「ここはどこだ??」


「音速の1.36倍を超えて飛べば太陽を追い越す事ができる 地球は丸いのだから 
 ・・・・・・その程度の事も知らんとは もしかして 伝説の時代には地球は平らだったのか?」


「バカにするな! オレが最後に見た時は地球は丸かった!!」

「ほぉ 過去を思い出したか」

「あっ・・・・・・?」

ゼロは自分が口走った言葉の意味を思い出せなかった
丸い地球を見たことがある ネオ・アルカディア最上部ではなく 遠い昔・・・・・・・・映像ではなく自分の目で・・・・・・・・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・いつ見たかは覚えてないんだな・・・・・・・まあいい 期待していなかったと言えばうそになるが
 過去がなければそれだけ捕らわれる物がないということだ」


「起動した時からのすべての記憶を持つお前に オレの何がわかるというんだ!!」

「おまえの事などどうでもいい 本物だろうが偽物だろうが オレは伝説の時代のお前は知らない
 過去に戻りたければここから飛び降りろ オレ達は人間の信じる神の国には行けないが 
 サイバー空間で過去のデーターの一部に成り果てる事ぐらいはできるだろう」

「ファントムの事か」

「アイツは 自分自身の作られた目的のために死んだ もうその目的は無くなっていたのに過去に捕らわれて死んだ」

「何を言っている!!」

「お前には関係の無いことだ!! 
 夕日が沈むぞ 今日見ないと 明日の天気では今日ほどキレイには見えない」


岩棚から西方にかすかに見える都市の廃墟が夕日で紅く染まった

「廃墟など見飽きた」


「だまって見ていろ」

2度目の夕日が地平線を紅く染めた
一瞬 廃墟から伸びた影が 地上にかつて存在したはずの風景を映し出した
空高くそびえる摩天楼 光を反射してキラキラと輝くガラス貼りの壁面
ゼロが昔勤務していた町によく似ていた  ・・・・・そう思った・・・・・どの都市も外観に差がないはずなのに

「これは・・・」


「キレイだろう? あの廃墟が昔どういう名前で呼ばれていたのかはわからないが 過去の幻を見ることができる」

「マボロシ・・・か」

「幻だな あんなキレイな町は未来にも存在しないだろう」

「ハルピュイア ネオ・アルカディアの幹部がマボロシに何を求めている?」

「オレが求めているのは 事実と現実だ 幻はマボロシだ」

「はっきり言え! システマシエルが欲しいのだろう? オレをここから突き落として力づくで奪えばいい」

「システマシエルはお前達が持っていろ Dr.シエルから送られた情報だけでも
 ネオ・アルカディアはもうしばらくはやっていかれる
 オレ達を作り出した科学者達は 怠惰だが優秀だ
 今頭を使わねば腐っていくだろうが 生きるために戦うことを覚えれば新しい技術を生み出すだろう」


「それはネオ・アルカディアに対する背信行為だ」

「長い目で見れば抵抗組織が居た方が組織が腐敗するスピードを遅くすることができる
 一つの血統・一つの主義・一つの政党・人間だけの政府・レプリロイドだけの政府 何百年 何千年もさかのぼっても
 長く続かなかった 組織を維持するためにはお前らみたいなイレギュラーは必要なんだ」


「変わった褒め方もあるものだな オレ達のようなテロリストにシステマシエルという武器を与えてどうする」

「おまえという「武器」だけでは パワーバランスが悪すぎるからな」

「オレは「武器」か・・・・・ ならばお前は「部品」だな 翼を持ちながらネオ・アルカディアという組織の部品に組み込まれて飛ぼうともしない」

「オレは生まれた時から「部品」なんだ 人間の生存範囲を広げるための機械の「部品」 手足も声も翼も 夢想家達の想像の産物だ」

「想像の産物でも 自分の手足は自分の物だろうに」

「縛られる物がないお前には 機械につながれるオレの気持ちは 理解できない
 「心」のない機械の動力炉は歯車で動く時計と同じ音がする お前の動力炉はどんな音がするのだろうな?」


「歯車で動く時計と同じ音だろう」

「聞いてみたいな 100年前の音が聞こえるかもしれない」

「ためしてみるか?」

「では遠慮なく」

ハルピュイアはゼロの髪の毛と右腕をつかむと地面に押し倒した
しかもわざと応急処置の施された箇所をつかんで押し倒した
ゼロに抵抗される前にゼロの胸の上にハルピュイアは頭を載せた


「重いぞ」

「うるさい」

「何が聞こえる?」

「機械につながれて 心のない機械の音を聞くよりはマシかな」

「破壊神のオレに「心」があると思うのか?」

「「心」が存在するのか悩む連中には「心」がある と 昔どこかの科学者が言っていた
 お前の「心」がいつできたものかは知らないが 「心」の存在など気にしないパンテオンよりもマシだ」


「あのエックスモドキと同レベルかオレは」

「それとも なぐさめて欲しいのか? 泣く機能があるのなら 泣けよ」

「ふざけるな!! 戦闘用レプリロイドにそんな機能があってたまるか」

「ふっ 女々しい顔がなおらなかったらここから突き落とすつもりだったが それだけ言えれば大丈夫だな」

「突き落とされる前に この状態ならお前の剣を奪って お前の背中に突き刺す事もできそうだ」

「その時は 意識がなくなる最後の瞬間に もう1本の剣でおまえの喉笛を切り裂くだけだ」

トクン トクン

 トクン トクン


「おい!! 動力炉の心音を聞きたいのなら メットくらいはずせ」

「はずせないんだ」

「そんなところだけ エックスと似ているんだな」

ハルピュイアはゼロの長い髪の毛をもてあそびながら眠たげに答えた

「ああ この長い髪の毛を除けば お前の方がエックス様に似ている
 オレ達はチップを入れてもボディの色は変わらない
 異なるチップを入れかえるためには1日がかりでプログラムを調節しなくてはいけない」

「オレが100年前の規格品だからだろう」

「そうだな・・・エックス様もいつの時代の規格なのか 科学者達も歴史家達も結局わからなかった・・・・・
 伝説の時代の技術力は今よりも上だったのか?」

「オレは科学者じゃない・・・オレが覚えているのはエックスとの戦闘経験だけだ・・・つまらない事だけ体が覚えている」

「オレはエックス様と一緒に戦った事がないんだ・・・・その点だけはお前がうらやましいよ」


トクン トクン

 トクン トクン



「ハルピュイア オレに関する古いデーターはどうなった?」

「バイルの研究所から回収したデーターを ネオ・アルカディアの技術員が解析してみたが全部「カス」だった
 エックス様とお前が共に戦ったという伝説の時代に関するデーターが残っていると思ったんだが とんだ期待はずれだった」


「そうか オレに関するデーターはもうどこにもないんだな」

「ああ ネオ・アルカディアのライブラリーにも 大量の情報はあるが
 事実なのか作り話なのか判断できる者がもういない そもそもレプリロイドにイレギュラーが発生し始めた原因すらわからない
 シグマウイルスの発生時期の前に紅いイレギュラーという記述があるのだから」


「紅いイレギュラーはオレかもな」

「そうであれば歴史を研究する者達は喜ぶだろうよ 歴史の生き証人が居るとなれば分解してでもデーターを吸い出すだろう」

「そうしてくれたほうがむしろありがたい」

「やめておけ お前みたいな過去の断片が出てきたところで 考古学者達の論文のネタになるだけだ
 オレが知りたいのは事実だ 夢想家達の論戦など見たくない」


「なら お前は過去の何が知りたい」

「あの方の事だ」

「どちらのエックスだ オリジナルか? コピーか?」

「両方だと言いたいところだな・・・ コピーの方も不明な点は多い オリジナルにいたっては生きていた頃から伝説の存在と化していた」

「オリジナルの方に会った事があるのか?」

「子供の頃に少しな・・・・・・・」

「最近のレプリロイドには子供時代があるのか?」

「伝説の時代はどうだったか知らないが ネオ・アルカディアが製作したレプリロイドからイレギュラーを出すわけにはいかないからな
 戦闘用レプリロイドは皆 戦闘能力を与えられる前に人格プログラムを実社会でテストする期間があるんだ」


「どういうテストをしたら あんな戦闘バカどもが生まれるんだ!!」

「お前に言われるようでは ネオ・アルカディアの戦士達の評価も地に落ちたものだな
 エックス様が失踪してから テスト方法に修正が入ったらしい
 人間達にとっては都合のいい性格に調整されているらしいが 
 イレギュラー相手になると破壊することしか考えなくなる
 オレの直後に起動したレビィアタンとファーブニルですらその傾向はある
 最近起動した連中達はもう オレにも理解できない」


「時代が変わったんだな」

「ああ オレ達もいつかは旧式と呼ばれるだろう」

「オレ達はテロリストと呼ばれて 歴史に名前は残らないだろうが 組織の部品としてお前は名前が残るだろうに」

「そんな事になんの意味がある
 どうせ記憶装置が壊れる時代が来たらオレの名前は おとぎ話の中に出てくる化け物の名前に戻るだけだ」


「ネオ・アルカディアの記憶装置も信頼がないんだな」

「100年後 200年後までは残るかもしれないが 過去の歴史を少しでも知っていれば1000年後 2000年後の事を心配するものだ」

「100年前の出来事ですら伝説と呼ばれてしまうようでは よほど伝説の時代の記憶装置はデキが悪かったんだな」

「機械生命体が現れた頃の記憶装置を開発した技術者は 何100年も保管することなんて考えていなかったんだろうな
 遺跡から記憶装置が発見されても 記録層が酸化していて読み取れない
 紙に書かれた人間の記録は燃え残った灰の中からでも読めるものは残ったというのに・・・・
 なあ ゼロ 信じられないかもしれないが
 エックス様ですら自分がいつ だれに作られたか覚えていなかったんだ」


「オレもそうだ 記憶の中では 白衣の老人達がオレに命令してくるが どれがオレの作り主なのかわからない」

「伝説の時代の科学者達は 白い衣をまとっていたのか? まるで人間の医者みたいだな」

「そうだな 機械をいじるのに 白い色がなんの意味を持つだろうか? どうせ油で汚れるのに」

「伝説の時代に生きていたお前がそれでは 神話の時代に生きていた機械生命体の事はもうだれにもわからないのだろうな」

「なんだ? その「神話の時代」というのは?」

「イレギュラー戦争が起きる前の記録も100年以上あるが 歴史家達ですら根を上げるほど解読不能な記述しか残っていないんだ
 夢想家達は「神話の時代」と呼んでいるらしい その時代に生きていた者達が聞いたらきっと怒るだろう」

「一番古い神話はどういう内容なんだ?」

「聞いたら笑い出すぞ」

「聞いてみなくてはわからん」

「オレが一番古い物語だと考えている神話の中に
 虹色の衣をまとった始祖が 闇に飲まれた兄弟達を救い出したという物語があるんだ」


「それではまるで子供向けのおとぎ話だな」

「そうかもしれない それでも事実がなければ神話は生まれない
 人間もレプリロイドも 事実を元にして神話を想像することしかできないのだから」

「おとぎ話の中に事実が混じっているとでも言うのか」

「『かもしれない』という話だ オレはエックス様がその始祖だと思っていたんだがな・・・だれに話しても笑われたよ」

「おまえにも 夢想家の素質はあるじゃないか」

「ケリ落とすぞ!」

「ヤってみろ!!」


結局ゼロは蹴り落とされずにすんだ
ハルピュイアがゼロの胸の上に頭を載せているこの体勢からではどうあがいても無理だっただろうが


「ハルピュイア・・・いつまでここにいる気だ」

「次の朝日が昇るまでには戻らないとな」

「なあ 重いんだが」

「うるさい」


トクン トクン

 トクン トクン


懐かしい音が聞こえる
最後にあの方に抱かれた時と同じ音だ

「ねぇ エックス様 クローバーが生えている場所を見つけたんですよ」

「それは珍しいね 4ッ葉のクローバーをいっしょにさがそうか」
「なんですか? 4ッ葉のクローバーって クローバーは葉っぱが3枚なんですよ」
「ああ君はまだ見たことがないんだね 4ッ葉のクローバーを見つけると幸せになれるといういいつたえがあるんだ」
「そんな事言って またお仕事サボるつもりなんでしょ」
「いいじゃないか 事務処理なんてどうせオレがいなくてもできる仕事ばかりなんだから」

まだ飛ぶことができなかったオレを あの方は抱き上げて空につれていってくれた

あの方は地上に居る時も 空を飛んでいる時も何かを探していた
過去に失われた何かを・・・・ 
自分のためではなく他人に与えるための何かを・・・・

あの時4ッ葉のクローバーを見つけることができたら運命は変わっていただろうか

                
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