「 カミュ……俺、さっきは取り乱してた、すまなかった。」
「 いや、私のほうこそ……言わなくてもいいことをお前に・・・・・・」
ミロはカミュの髪に顔を埋めて、深く息を吸った。 どうしてこんなにもいとおしく懐かしい想いがするのだろう。
「 ほんとにお前だけだから……天地神明にかけて誓う。」
ずいぶんと大時代的な物言いをするものだ、とカミュは少し可笑しくなった。 昭王もそんなことを言うのだろうか、
……誰に? この私にか?
昭王の声は届かないが、ミロを通じて心が伝わってくる思いがするではないか。
「 なにも気にすることはない。物語のことなのだし、仮に、そう・・・・・・・、あれがお前自身だったとしても、私を知る前のことだ。そうではないか?」
「 うん、・・・・・・わかっている。」
カミュの髪の一房をそっと指にからめてみれば、冷たくしっとりとした感触がミロを陶然とさせてゆく。
まったくなんというたぐい稀なる存在なのだろう、よくも自分のそばにいるという運命を選び取ってくれたものだ。 神の恩寵としか思えないではないか。
そのとき、ふと心に浮かんだ思いがミロを微笑ませた。 ほんの僅かだったのに、ほのかな明りの中でもカミュに気付かれたようだ。
「 何が可笑しい?」
「 いや、この前、双魚宮でアフロとデスに会ったとき・・・・・・・・・」
ミロが面白そうに、デスマスクがアフロディーテの額をつついたことや、髪を指にからめたことを話すと、カミュも笑う。
「 で、俺はそのとき思ったんだよ。 額をつつくなんてとてもできやしないが、髪なら、ほら・・・・・・今なら普通にできるだろう?それが可笑しくて。」
「 ミロ・・・・・・」
カミュの目がなにか思いついたようにきらめいて見えたのは、ミロの気のせいだろうか?
「 額をつつくことは確かに無理だが、からめることなら・・・・・・そう、できている。」
「 え?」
「 私の心はすでにお前にからめとられているのだから。」
これ以上なにも云うことはない。 ミロは双の手に力を込めてカミュを抱きしめた。




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