副読本その13   「ミロの動揺、カミュの困惑」


ミロが持ってきた素晴らしいワインでイブの夕食を楽しんだ二人はゆったりとくつろいでいた。 部屋は十分に暖かく、酔いもほどよくまわっている。 しかし、波乱が起きたのはそのあとだった。
「 おい、添い臥しってなんだよ? どうも思わせぶりで気になるんだが。」

   やはりきたか。
   この章でミロが訊いてくるのがこの一点しかないのは、校正の段階で判明していたことゆえ驚くこともないが、
   いったいこれからどうなることか。
   二の腕の怪我の時にも、だいぶ荒れたからな、あれをなだめるのにはいささか苦労したものだ。
   結局、この身をもって証明することになったが、論理が通じないというのもまことに困る。
   物語の中のことは私の責任ではないのだから、と何度言ってもからんでくるあの性格はなんとかならぬだろうか。
   しかし、待て、今回はミロが怒るというよりは、私が不快感を覚えてもよいのではないのか?
   なにしろ 『 添い臥し 』 というのは………、よし、その方針で行くとしよう。

「 添い臥しとは、辞書の記述によれば、東宮・皇子などの元服の夜に高貴な身分の娘を添い寝させることで、のちに配偶者となることが多かったそうだ。」
「 な、なにっ!添い寝って………おい、カミュ、俺は知らんぞっ、俺は関係ないからなっ!」
「 都合の悪いときだけ、昭王と自分を切り離すのだな。今まであれほど感情移入していたのはどこの誰だ?」

   ほほう、真っ赤になって黙るところなど可愛いではないか。
   反応が昭王と等しいというのは、心理的になかなか面白い現象だ。
   しかし、これほどまでに感情を表にあらわすというのは、聖闘士としては問題がある。
   これでは敵と向き合ったときにこちらの手の内をさらすようなものだ。
   明日あたり、手合わせしながら、そのへんのところを注意した方がよかろう。

「 し、しかし、よく読んでみろ!!アイオリアは昭王に添い臥しの事実があったとは言ってないぜ。 ただ単に引き合いに出して昭王をからかっただけじゃないのか? うん、きっとそうだ、そうに違いない!」
「 いや、昭王の二十歳の賀は去年の秋だった、という記述がある。 二十歳の賀、すなわち元服を迎えたということなのだから、このときに添い臥しがあったと考えるのが妥当だと思う。 その事実があったからこそ、生真面目なアイオリアがつい口に出したのではないのか?」
「 ……カミュ、お、俺は、その……」

   ふむ、動揺して抗弁できずにいるか。
   腕の傷のときは、こちらもだいぶ迷惑したからな、少しかわいそうだがもう一押ししてみよう。

「 私というものがありながら、お前はそういうことをするのか?見損なったぞ、ミロ。」
「 そんな……、カミュ、信じてくれ!!俺は、決して……!」

   ……え?………え??
   ま、まさか泣くのではあるまいな?
   あ……本当に喜怒哀楽の激しい男だな、ミロというやつは。
   ううむ、この場をどうやって収めればよいのだ?
   まさか、抱きしめてなぐさめるわけにはいくまいし、私から謝るというのも論理的ではないな。
   よせ、私の胸にすがって泣くのは!
   ともかく困った……。

結局カミュは一晩かけて関係を修復し、ミロは永遠の愛を誓ったのである。



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