副読本 その30  「曖昧 (あいまい)」


「どうもよくわからんな…………」
読み終えたミロは画面から目を離すと、そのままタタミの上に仰向けになった。
「わからんとは、なにがだ?」
「決まってるだろう! 悠長に詩なんか詠んでるが、昭王はお前を抱いてるのか? この状況はどうなってるんだ?」
「ああ、そのことか。」
ミロは端正に正座しているカミュをちらっと見上げた。

   お前ときたら、湯上りのほんのり上気した肌が、ほんとにきれいだぜ
   まだ髪を包んだままなので首筋が見えてて、そこのところもいいし………
   下から見上げたあごの線もすっきりして、ほんとに…………
   いや、今考えてるのはそんなことじゃなかったな!

「簡単に受け流してくれるが、前回の終わりを見てみろよ!俺は思いっきり期待してるんだからな!
 なるほど二人は親密だし、舞台装置も非常に結構だ。 邪魔者もいない。
 しかし、俺が知りたいのは、確かに昭王がお前を抱いてるかどうか、なんだよ!」
「ミロ……お前……ほんとうにわからないのか?」
「なんだよ……カミュ、お前わかってるの?」
「むろんだ、ちゃんとそう書いてあるではないか。」
ミロが起き上がった。
「いったい、どこにだ? 俺にはさっぱりわからんね!」
「こことここを読めばわかる。」
カミュの指が画面を指差した。
「そこが? どうしてそうなるんだ?もっと解説してもらわなくちゃ、納得できんな。」
「そうかも知れぬが、じきに夕食の時刻になる。
 髪を乾かさねばならぬし、食事中にそうした話題は避けたいので、戻ってきてからでよいか?」
「俺としては早く知りたいし、食事中でも一向にかまわないが……」
しかし、ミロの言葉は、カミュの一瞥により、唇の上で凍結されたのだった。

この宿では、食事処 (どころ) が別に設けられ、朝夕食とも離れを出てそちらに出向くようになっている。
二人が離れを留守にする間に、寝具が整えられ、また、片付けられているのが常なのだ。
最初そのことを知らなかったミロの驚きは相当なものだった。
「おい、これはどうなってるんだ??!!
 ベッドが見当たらなくておかしいとは思っていたが、いつの間にか奥の部屋に寝る場所ができてるぜ!」
「ああ、説明するのを忘れていた。 日本ではベッドを使わずに、このようにフトンというものを敷いて寝るのだ。
 ベッドと違いモバイルなので、昼間は収納しておけば部屋を広く使え、また家の中の好みの部屋に敷いて寝ることができる。」
「ほう!なかなか便利そうだな!」

   どこにでも敷けるということは、月のきれいな夜に窓辺に近づければ月光がカミュの肌を…………♪
   それに今は二人分が離れてセットされているが、くっつければ広くなって自由度が高まるじゃないか!!
   日本人っていうのは、ほんとにすごい民族だぜ ♪

実際問題としては、一階の部屋なので月夜に障子を開けて寝る、というわけにはいかなかったのだが、その可能性があると考えるだけでも嬉しくなったのは事実だった。
こうしたわけで、食事を終えて戻ってきたらカミュにフトンの中で解説をしてもらえると思うと、期待も高まるミロなのである。


                                  ⇒隣室